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「……なにを言ってるの?進藤さん」
水津は私を軽々と持ち上げてそのまま腕に抱き寄せた。人前だということも気にせずに。そして、なんの躊躇もなく私のスマホを返してくれた。
不思議そうに進藤とその友人を見て眉を寄せている。
「なぜ、凛子さんのスマホが必要なんだ?」
水津は何も知らないと言わんばかりの口調だ。私はそれに危うく騙されそうになる。そんな事ないのに。
「え……?」
進藤は信じられないと言わんばかりに水津を見ている。
その様子から、二人が私に何かしようと話し合っていた事は明白だった。
けれど、水津はなぜか彼女の味方をやめてしまった。
その理由はなんだろう。どれだけ考えてもその答えは出ない。私に出来るのは二人のやり取りを見守る事だけだ。
どちらの言い分が真実なのか見極めるために。
「いや、おかしいでしょう?なぜ、君が凛子さんのスマホを欲しがるの?意味がわからない」
水津は明らかに苛立っている様子だ。
「それは……」
進藤はそれに怯えながらも何か言おうと口を開く。
「借りるにしてもあまりにもやり方が乱暴だ」
水津は私の顔を覗き込む。そして、うっすらと浮かべていた笑顔がいきなり消えた。
「何されたの?」
水津は目を見開いて進藤に叩かれた痛む場所に微かに触れた。
「ねぇ、何で凛子さんの頬がこんなに赤いの?もしかして叩いた?」
進藤に向けた水津の声は圧し出したように低く、怒りを抑えているようにも聞こえる。
私は水津の声が怖くて顔を見ることができなかった。
「違うの。貴方が欲しがっていたスマホを渡したくて……」
進藤は水津の様子に慌てたように言い訳を始める。
指示されたようにその単語が出たということは、私の予想通りこの二人で何か弱味を捏造でもする気だったのかもしれない。
そうであったとしても、この場に私の味方になってくれそうな人は誰もいない。
あの女子社員は進藤側の人間だ。この後、事実無根な噂が流れても周囲の人間は私ではなく当事者が多い方を信じるのだろう。
婚約破棄された時と同じように……。
水津は私が怪我をさせられた事を怒っているようだが、それすらも演技のような気がした。
もう、終わりだ。と、私は破滅を覚悟した。
「何言ってるの?」
けれど、水津の返事は予想とは違うものだった。
「え?」
進藤は明らかに動揺したていた。まるで、そんな事を言われるなんて思いもしなかったように。
「俺がなんで凛子さんのスマホを欲しがるの?」
水津は淡々と問いただす。その口調はしらを切っているようにも、こんな事に巻き込まれて怒っているようにも感じとれた。
示し合わせて私の鞄をスマホをとるつもりだったのではないのか。
「水津さんがこの女に、スマホで弱みを握られて脅されて」
進藤はなぜか私が自分のスマホで何かをして水津を脅したと言い出した。
想像もしなかった言葉だったのでパニックになりそうだったが、とにかく自分に落ち着くように言い聞かせ頭の中を整理する。
進藤は私が水津の弱味を握って脅迫していると信じているようだ。
それは、彼女個人がそう思い込んでいるのか、水津にスマホで脅されていると言われたのかわからないけれど。
進藤の言い分だけでは判断ができなかった。
水津はなんとそれに答えるのだろうか。
「俺、凛子さんから脅迫なんてされたこと一度もないよ。何言ってるの?」
水津の軽蔑していると言わんばかりの口調に、進藤は固まる。
私は自分の予想が覆された事と、双方の言い分の食違いに戸惑う。
「だって、だから私と週末一緒に過ごしてくれないって」
進藤は今にも泣き出しそうな表情になり甘えた口調で水津にすがる。
「この女が水津さんを脅して関係を持ったんでしょう?私達、恋人同士なのに週末も一緒にいられないじゃない!」
進藤はまるで休日中の私たちの様子を見ているかのような口調だ。ショッピングモールで感じた視線は、進藤の事だったようだ。
だから、水津を助けるために、その脅しの元凶であるスマホを取ろうとしたのだろう。
それに対して水津はどう答えるのか、確かに進藤と水津が付き合っているという噂は流れていたし、キスをしているところを私は確かに見た。
水津はなんと答えるのだろう。
「それは、そうじゃないか、君はただの同僚なんだから」
彼は何を言っているのだろうか、進藤があれだけ訴えているのに、恋人同士だという事を根底から否定した。私も驚いてしまう。
「え……?」
進藤も泣き出しそうな表情を崩して、呆然とした様子で戸惑いの声をあげた。
「君と付き合ってると思った事なんてない」
「そんな、私の勘違いだっていうんですか?!」
進藤は水津の言い分に食ってかかる。
「否定しなかったのは君が何をするのかわからなかったからだよ。この前のコピー室の件だって物凄い剣幕で凛子さんを怒鳴り付けてきたじゃないか」
水津は進藤との関係を完全に否定した。
もしも、水津の言い分が事実なら、進藤の勘違いの暴走でかなりの迷惑をかけられ続けた事になる。
また何かされると思えば適当に話を合わせる方が穏便に済ませる事ができる。
だが、恋人同士にしか見えない二人を見ていた私からしたら、それが水津の言い訳のように見える。
「……今日だって無関係な凛子さんに怪我をさせているし、君がこうだから適当に妄想に付き合っていたんだよ」
「この女のせいで水津さんは嫌な思いをしているんでしょう?」
「それ、本気で言ってるの?」
冷たく突き放すような言葉を彼は進藤に投げ掛けた。その様子は今まで仲睦しい恋人同士だった事が嘘のようだ。
「当然じゃない。私達、キスしたし付き合っているじゃない!」
水津は私を軽々と持ち上げてそのまま腕に抱き寄せた。人前だということも気にせずに。そして、なんの躊躇もなく私のスマホを返してくれた。
不思議そうに進藤とその友人を見て眉を寄せている。
「なぜ、凛子さんのスマホが必要なんだ?」
水津は何も知らないと言わんばかりの口調だ。私はそれに危うく騙されそうになる。そんな事ないのに。
「え……?」
進藤は信じられないと言わんばかりに水津を見ている。
その様子から、二人が私に何かしようと話し合っていた事は明白だった。
けれど、水津はなぜか彼女の味方をやめてしまった。
その理由はなんだろう。どれだけ考えてもその答えは出ない。私に出来るのは二人のやり取りを見守る事だけだ。
どちらの言い分が真実なのか見極めるために。
「いや、おかしいでしょう?なぜ、君が凛子さんのスマホを欲しがるの?意味がわからない」
水津は明らかに苛立っている様子だ。
「それは……」
進藤はそれに怯えながらも何か言おうと口を開く。
「借りるにしてもあまりにもやり方が乱暴だ」
水津は私の顔を覗き込む。そして、うっすらと浮かべていた笑顔がいきなり消えた。
「何されたの?」
水津は目を見開いて進藤に叩かれた痛む場所に微かに触れた。
「ねぇ、何で凛子さんの頬がこんなに赤いの?もしかして叩いた?」
進藤に向けた水津の声は圧し出したように低く、怒りを抑えているようにも聞こえる。
私は水津の声が怖くて顔を見ることができなかった。
「違うの。貴方が欲しがっていたスマホを渡したくて……」
進藤は水津の様子に慌てたように言い訳を始める。
指示されたようにその単語が出たということは、私の予想通りこの二人で何か弱味を捏造でもする気だったのかもしれない。
そうであったとしても、この場に私の味方になってくれそうな人は誰もいない。
あの女子社員は進藤側の人間だ。この後、事実無根な噂が流れても周囲の人間は私ではなく当事者が多い方を信じるのだろう。
婚約破棄された時と同じように……。
水津は私が怪我をさせられた事を怒っているようだが、それすらも演技のような気がした。
もう、終わりだ。と、私は破滅を覚悟した。
「何言ってるの?」
けれど、水津の返事は予想とは違うものだった。
「え?」
進藤は明らかに動揺したていた。まるで、そんな事を言われるなんて思いもしなかったように。
「俺がなんで凛子さんのスマホを欲しがるの?」
水津は淡々と問いただす。その口調はしらを切っているようにも、こんな事に巻き込まれて怒っているようにも感じとれた。
示し合わせて私の鞄をスマホをとるつもりだったのではないのか。
「水津さんがこの女に、スマホで弱みを握られて脅されて」
進藤はなぜか私が自分のスマホで何かをして水津を脅したと言い出した。
想像もしなかった言葉だったのでパニックになりそうだったが、とにかく自分に落ち着くように言い聞かせ頭の中を整理する。
進藤は私が水津の弱味を握って脅迫していると信じているようだ。
それは、彼女個人がそう思い込んでいるのか、水津にスマホで脅されていると言われたのかわからないけれど。
進藤の言い分だけでは判断ができなかった。
水津はなんとそれに答えるのだろうか。
「俺、凛子さんから脅迫なんてされたこと一度もないよ。何言ってるの?」
水津の軽蔑していると言わんばかりの口調に、進藤は固まる。
私は自分の予想が覆された事と、双方の言い分の食違いに戸惑う。
「だって、だから私と週末一緒に過ごしてくれないって」
進藤は今にも泣き出しそうな表情になり甘えた口調で水津にすがる。
「この女が水津さんを脅して関係を持ったんでしょう?私達、恋人同士なのに週末も一緒にいられないじゃない!」
進藤はまるで休日中の私たちの様子を見ているかのような口調だ。ショッピングモールで感じた視線は、進藤の事だったようだ。
だから、水津を助けるために、その脅しの元凶であるスマホを取ろうとしたのだろう。
それに対して水津はどう答えるのか、確かに進藤と水津が付き合っているという噂は流れていたし、キスをしているところを私は確かに見た。
水津はなんと答えるのだろう。
「それは、そうじゃないか、君はただの同僚なんだから」
彼は何を言っているのだろうか、進藤があれだけ訴えているのに、恋人同士だという事を根底から否定した。私も驚いてしまう。
「え……?」
進藤も泣き出しそうな表情を崩して、呆然とした様子で戸惑いの声をあげた。
「君と付き合ってると思った事なんてない」
「そんな、私の勘違いだっていうんですか?!」
進藤は水津の言い分に食ってかかる。
「否定しなかったのは君が何をするのかわからなかったからだよ。この前のコピー室の件だって物凄い剣幕で凛子さんを怒鳴り付けてきたじゃないか」
水津は進藤との関係を完全に否定した。
もしも、水津の言い分が事実なら、進藤の勘違いの暴走でかなりの迷惑をかけられ続けた事になる。
また何かされると思えば適当に話を合わせる方が穏便に済ませる事ができる。
だが、恋人同士にしか見えない二人を見ていた私からしたら、それが水津の言い訳のように見える。
「……今日だって無関係な凛子さんに怪我をさせているし、君がこうだから適当に妄想に付き合っていたんだよ」
「この女のせいで水津さんは嫌な思いをしているんでしょう?」
「それ、本気で言ってるの?」
冷たく突き放すような言葉を彼は進藤に投げ掛けた。その様子は今まで仲睦しい恋人同士だった事が嘘のようだ。
「当然じゃない。私達、キスしたし付き合っているじゃない!」
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