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曇った目で見つめ合う
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曇った目で見つめ合う
八王子を抱きしめると、その身体はすっぽりと俺の腕の中におさまった。
そのままベッドの上に行き八王子を膝の上に座らせると、より温もりを感じる。
離れたくない。ずっとこのままでいたい。幸せの感触を噛み締めながらこう思う。
何が、背が高くて男みたいだ。そんな事全くないのに。
誰よりも可愛くて素敵な女性なのに、誰がそんな事を言ったんだ。
「僕は一度も麗さんのことを男みたいなんて思ったことなんてないです。それだけは信じてください。……他の奴らの意見とか必要ですか?」
八王子を抱きしめる腕の力を強める。
きっと、客観的に見れば、俺は恋のフィルターにかけられて、濁った目で八王子を見ているのだろう。だが、それの何が問題なのかわからない。
「何も知らない、心無い奴らの言う事が何よりも大切ですか?」
俺の言うことに耳を傾ける必要はなくても、他の彼女を思う人の言うことに耳を傾けるべきだ。
きっと彼らも俺と同じように思うだろう。
……何も知らない他人の吐く、責任のない言葉の方が信用に値しない。
「麗さん。好きです」
するりと口からでた言葉。
自分を好きじゃなくても、自分のことを好きでいる人がいるのだと知ってほしかった。
多分、彼女にとってそれが一番の自信につながるから。
「僕の気持ちを嫌がるのは当然だと思います。でも、自分のこと卑下しないで」
俺を受け入れなくていいから、自分を受け入れてほしい。
可愛くない。とか、男みたいだから恋してはいない。と考えてしまうのは、そんな自分が許せないからできないのだ。
自分を許せないままでいないでほしい。
「……っ」
彼女が声を殺して泣いているのがわかった。
八王子の腕が俺の背中に回る。そして、腰に両脚が絡みつくと、俺の胸の中に顔を押し当ててきた。
「れ、麗さん?」
八王子の突然の行動に俺が驚いていると、彼女は泣き顔を隠さずに顔を上げた。
……やっぱり泣いた顔も綺麗だ。
「あの、聞いてくれますか?私にそんな事で悩んでいたのかと、呆れてくれていいので、ずっと昔の話です」
八王子は、過去の失恋未満の話を俺に聞かせてくれた。
「ずっと、こんな些細なことを引きずってるなんて、本当に情けないよね」
きっと、心ない言葉を吐いた男は、八王子の事が好きで照れ隠しで言ったのだと思う。
そいつは、言ったことすらきっと忘れて、八王子との記憶を初恋の宝石のような美化された思い出として覚えているのだろう。
それが腹立たしい。
八王子は、その言葉を一生を不幸にさせる呪いのように引きずり続けているのに。
「引きずってることが、おかしいだなんて思わない」
俺は八王子の頭をそっと撫でる。
「多感な時期に向けられた心無い言葉って、ずっと心を抉りますよね」
八王子は、このままでは心無い言葉を人生をかけて背負い続ける気がした。
それは、自分に訪れた幸せにすら目を背けて、自ら不幸になっていくようなものだ。
そう思うととても苦しい。
「恋する資格がないとか、そんなこと絶対にないですから、何も知らない心無い奴らの言う事なんて気にしなくていい」
「はい」
「貴女は、とても可愛いですよ」
恋に曇った目をした俺は、八王子に思ったことを口にする。少しも恥ずかしくない。
八王子が喜んでくれるなら、羞恥心なんてものは捨て去れるから。
「……」
八王子が突然黙り込む。
「麗さん?」
名前を呼ぶが反応はなく、眠ってしまったのだとすぐにわかった。
自分に重たい感情を持っている男の目の前で眠ってしまうなんて、この人はどこまで無防備なのだろう。
それも、俺を信用しているからこそしているのだ。
ホテルについてきたのも、俺が最後までしないと本能的に気がついていたからだろう。
敵わない。
きっと、俺はずっと八王子に弱みを握られながら生きていくのだろう。
「おやすみなさい」
頬に口付けを落とすと、微かに睫毛が動いたのが見えた。
八王子の安らかな寝顔を見ながらふと思った。
「ここまでのすれ違いなんてなかなか起きない。また、何か絶対にあるはずだ」
八王子が目を覚ましたら、そこもきっちりと話し合おう。
俺の思いの答えよりも、そちらの方が気がかりだった。
八王子を抱きしめると、その身体はすっぽりと俺の腕の中におさまった。
そのままベッドの上に行き八王子を膝の上に座らせると、より温もりを感じる。
離れたくない。ずっとこのままでいたい。幸せの感触を噛み締めながらこう思う。
何が、背が高くて男みたいだ。そんな事全くないのに。
誰よりも可愛くて素敵な女性なのに、誰がそんな事を言ったんだ。
「僕は一度も麗さんのことを男みたいなんて思ったことなんてないです。それだけは信じてください。……他の奴らの意見とか必要ですか?」
八王子を抱きしめる腕の力を強める。
きっと、客観的に見れば、俺は恋のフィルターにかけられて、濁った目で八王子を見ているのだろう。だが、それの何が問題なのかわからない。
「何も知らない、心無い奴らの言う事が何よりも大切ですか?」
俺の言うことに耳を傾ける必要はなくても、他の彼女を思う人の言うことに耳を傾けるべきだ。
きっと彼らも俺と同じように思うだろう。
……何も知らない他人の吐く、責任のない言葉の方が信用に値しない。
「麗さん。好きです」
するりと口からでた言葉。
自分を好きじゃなくても、自分のことを好きでいる人がいるのだと知ってほしかった。
多分、彼女にとってそれが一番の自信につながるから。
「僕の気持ちを嫌がるのは当然だと思います。でも、自分のこと卑下しないで」
俺を受け入れなくていいから、自分を受け入れてほしい。
可愛くない。とか、男みたいだから恋してはいない。と考えてしまうのは、そんな自分が許せないからできないのだ。
自分を許せないままでいないでほしい。
「……っ」
彼女が声を殺して泣いているのがわかった。
八王子の腕が俺の背中に回る。そして、腰に両脚が絡みつくと、俺の胸の中に顔を押し当ててきた。
「れ、麗さん?」
八王子の突然の行動に俺が驚いていると、彼女は泣き顔を隠さずに顔を上げた。
……やっぱり泣いた顔も綺麗だ。
「あの、聞いてくれますか?私にそんな事で悩んでいたのかと、呆れてくれていいので、ずっと昔の話です」
八王子は、過去の失恋未満の話を俺に聞かせてくれた。
「ずっと、こんな些細なことを引きずってるなんて、本当に情けないよね」
きっと、心ない言葉を吐いた男は、八王子の事が好きで照れ隠しで言ったのだと思う。
そいつは、言ったことすらきっと忘れて、八王子との記憶を初恋の宝石のような美化された思い出として覚えているのだろう。
それが腹立たしい。
八王子は、その言葉を一生を不幸にさせる呪いのように引きずり続けているのに。
「引きずってることが、おかしいだなんて思わない」
俺は八王子の頭をそっと撫でる。
「多感な時期に向けられた心無い言葉って、ずっと心を抉りますよね」
八王子は、このままでは心無い言葉を人生をかけて背負い続ける気がした。
それは、自分に訪れた幸せにすら目を背けて、自ら不幸になっていくようなものだ。
そう思うととても苦しい。
「恋する資格がないとか、そんなこと絶対にないですから、何も知らない心無い奴らの言う事なんて気にしなくていい」
「はい」
「貴女は、とても可愛いですよ」
恋に曇った目をした俺は、八王子に思ったことを口にする。少しも恥ずかしくない。
八王子が喜んでくれるなら、羞恥心なんてものは捨て去れるから。
「……」
八王子が突然黙り込む。
「麗さん?」
名前を呼ぶが反応はなく、眠ってしまったのだとすぐにわかった。
自分に重たい感情を持っている男の目の前で眠ってしまうなんて、この人はどこまで無防備なのだろう。
それも、俺を信用しているからこそしているのだ。
ホテルについてきたのも、俺が最後までしないと本能的に気がついていたからだろう。
敵わない。
きっと、俺はずっと八王子に弱みを握られながら生きていくのだろう。
「おやすみなさい」
頬に口付けを落とすと、微かに睫毛が動いたのが見えた。
八王子の安らかな寝顔を見ながらふと思った。
「ここまでのすれ違いなんてなかなか起きない。また、何か絶対にあるはずだ」
八王子が目を覚ましたら、そこもきっちりと話し合おう。
俺の思いの答えよりも、そちらの方が気がかりだった。
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