上 下
26 / 30

名もなき令嬢の恋

しおりを挟む
名もなき令嬢の恋

 公爵家の令嬢として生まれた私は、誰からも愛されて大切にされて育てられた。

「望む相手と結婚すればいい」

 両親はそう言ったけれど、私にはそういうのはよくわからなかった。
 なぜなら、恋なんて知らなかったからだ。
 私が恋を知ったのは、王立学園に通うようになってからだ。

 名前は、トリスタン。田舎にあるデュラン伯爵家の嫡男だ。
 漆黒の髪の毛に真っ赤な瞳は、恋愛小説から飛び出してきたヒーローのようだった。
 目立つ外見の生徒は何かとチヤホヤされていい気になってつけ上がりがちだが、彼にはそういったところはなく真面目だった。

 何人もの女子生徒から明らかなアプローチをされても、彼はまるで気が付かないかのように軽く流していた。
 なんていうか、そういうところが良かった。

「おはよう。ございます。トリスタン様」
「あ、おはようございます」

 毎日挨拶をしても、高位貴族の私を口説こうとはしなかった。
 だからこそ恋に落ちた。
 そして、トリスタンもそれは同じだった。
 
 顔を合わせれば声を交わせば、少しずつ彼の心が私に近づいてきていることがわかった。

 邪魔者の存在を知ったのは、学園での生活に慣れた頃だった。

「トリスタン様には婚約者さんはいらっしゃらないの?」

 何の気なしに聞いた質問に、トリスタンは信じられない答えを返した。

「幼馴染の凄く可愛い子が婚約者なんだ」

 私という女がいながら、他の女と婚約していたなんて。
 いや、しかし考えてみれば、女除けのために婚約者を作ったのかもしれない。
 私と結婚するために。
 ここのところ、トリスタンと毎晩のように夢の中で会っていた私は彼の愛を疑っていなかった。
 
「そうなんですの、ねえ」

 私はとりあえずの腕に自分の腕を絡めようと伸ばす。
 しかし、彼はそれをするりとかわした。
 
「あ、失礼。用事を思いついたので」

 つれない一言。
 それは照れ隠しだと私にはわかっていた。

 明確な愛の告白がないまま、私たちの秘密の関係は続いた。
 彼が仮初の婚約者を捨てて私の手を取ってくれるのをただ待ち望んでいた。

 まち続けたある日、私はようやく彼から愛の告白を受けたのだ。

 制服の胸もとに輝くペンダントは、私の瞳と同じ色をしていた。

「トリスタン様ったら、私に告白しておいて、プレゼントのペンダントは緊張して用意できなかったのね」

 私はトリスタンと同じペンダントを宝石屋に作ってもらい身につけた。
 これは実質的に彼が買ってくれたプレゼントのような物だ。

 これで彼と結婚できる。そう思った時に、あることを思い出した。

 邪魔者の存在だ。

 私はトリスタンの故郷へと向かった。
 あの女とトリスタンを別れさせるために。

 トリスタンに相応しいのは私だけだ。
 




~~~

お読みくださりありがとうございます

軽く調子崩しました
風邪なのかな?

しばらく更新お休みします

5話以内に終わらせます


エール、お気に入り登録してもらえらたら嬉しいです
感想も読みます

お返事遅くてごめんなさい
ちゃんと読んでます
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

愛とは誠実であるべきもの~不誠実な夫は侍女と不倫しました~

hana
恋愛
城下町に広がる広大な領地を治める若き騎士、エドワードは、国王の命により辺境の守護を任されていた。彼には美しい妻ベルがいた。ベルは優美で高貴な心を持つ女性で、村人からも敬愛されていた。二人は、政略結婚にもかかわらず、互いを大切に想い穏やかな日々を送っていた。しかし、ロゼという新しい侍女を雇ったことをきっかけに、エドワードは次第にベルへの愛を疎かにし始める。

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

興味はないので、さっさと離婚してくださいね?

hana
恋愛
伯爵令嬢のエレノアは、第二王子オーフェンと結婚を果たした。 しかしオーフェンが男爵令嬢のリリアと関係を持ったことで、事態は急変する。 魔法が使えるリリアの方が正妃に相応しいと判断したオーフェンは、エレノアに冷たい言葉を放ったのだ。 「君はもういらない、リリアに正妃の座を譲ってくれ」

処理中です...