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貴女を連れ去ります
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勢いよく屋敷から飛び出しておいて、私はすぐに壁にぶち当たった。
「どうしよう」
私は、カセルとデュラン以外の領地に行ったことがないのだ。
とりあえず、王立学園がある王都へと向かおう。
まず最初に、王都方面へと向かう乗り合い馬車に乗らないといけない。
私は何人かに場所を聞きながら、乗り合い馬車が集まるところへと向かった。
これで、かなり領地から離れてしまった。
人の視線が気になったが、それどころではない。
ようやく乗り合い馬車を見つけた瞬間だった。
突然腕を掴まれた。
「ねえ」
振り返ると、下卑た笑みを浮かべた男が立っていた。
こわい。
私はとても怖くなった。知らない男に手を掴まれた事もそうだが。
本能的な何かに恐怖を感じたのだ。
「何のようでしょうか?」
「一人?」
身体が震えそうになるのを堪えて、私はなんとか返事をした。
「そうですが」
「俺のところへ来いよ」
男は強引に私の腕を引っ張った。
なんだろう。この感覚。恐怖だけではない。
私は、この経験を「覚えている」のだ。
「結構です」
「硬い事言うなよ」
ニヤけた男の顔が、気持ち悪い。
冷や汗がダラダラと流れてくる。怖い。
……嫌だ。離れたい。逃げないと。
「触らないでください!」
私は大きな声を出して腕を振り解こうとするが、男の身体はびくともしない。
「何だよ。言う事を聞け!下手に出てたらいい気になりやがって!……そうだな。お前を売るか、良い値段になりそうだ」
下卑た笑みに、私はパニックになりそうだった。
その時だった。聞き覚えのある声がした。
「そこまでです」
サナの姿を確認した。しかし、彼女はすぐに私の視界から消えた。
次の瞬間には、高く飛び上がったサナが男にドロップキックをかましていた。
「ぐっ、」
男は見事に顔面にドロップキックをくらい、うめき声とともにその場に倒れた。
「……」
男は浜に打ち上げられた魚のようにピクピクと震えていた。
震えているから生きているはずだ。
「サナ?」
私が声をかけると、サナは優雅な笑みを浮かべてこう言った。
「お嬢様……、私は貴女を攫います」
すとん。と、何か抜け落ちていたものが戻ってきた。
……私は過去一度攫われていたのだ。
なぜ、忘れていたのだろうか。
「私をどこに連れて行くつもりなの?」
「……」
サナは何も言わずに、ただ、静かに笑った。
~~~
お読みくださりありがとうございます
次からはトリスタン視点です
感想が一気に三件来ていて、誤字ったのか究極のやらかしをしたのか不安になりました!
感想、エール、ブックマーク、いいね、ありがとうございます!
「どうしよう」
私は、カセルとデュラン以外の領地に行ったことがないのだ。
とりあえず、王立学園がある王都へと向かおう。
まず最初に、王都方面へと向かう乗り合い馬車に乗らないといけない。
私は何人かに場所を聞きながら、乗り合い馬車が集まるところへと向かった。
これで、かなり領地から離れてしまった。
人の視線が気になったが、それどころではない。
ようやく乗り合い馬車を見つけた瞬間だった。
突然腕を掴まれた。
「ねえ」
振り返ると、下卑た笑みを浮かべた男が立っていた。
こわい。
私はとても怖くなった。知らない男に手を掴まれた事もそうだが。
本能的な何かに恐怖を感じたのだ。
「何のようでしょうか?」
「一人?」
身体が震えそうになるのを堪えて、私はなんとか返事をした。
「そうですが」
「俺のところへ来いよ」
男は強引に私の腕を引っ張った。
なんだろう。この感覚。恐怖だけではない。
私は、この経験を「覚えている」のだ。
「結構です」
「硬い事言うなよ」
ニヤけた男の顔が、気持ち悪い。
冷や汗がダラダラと流れてくる。怖い。
……嫌だ。離れたい。逃げないと。
「触らないでください!」
私は大きな声を出して腕を振り解こうとするが、男の身体はびくともしない。
「何だよ。言う事を聞け!下手に出てたらいい気になりやがって!……そうだな。お前を売るか、良い値段になりそうだ」
下卑た笑みに、私はパニックになりそうだった。
その時だった。聞き覚えのある声がした。
「そこまでです」
サナの姿を確認した。しかし、彼女はすぐに私の視界から消えた。
次の瞬間には、高く飛び上がったサナが男にドロップキックをかましていた。
「ぐっ、」
男は見事に顔面にドロップキックをくらい、うめき声とともにその場に倒れた。
「……」
男は浜に打ち上げられた魚のようにピクピクと震えていた。
震えているから生きているはずだ。
「サナ?」
私が声をかけると、サナは優雅な笑みを浮かべてこう言った。
「お嬢様……、私は貴女を攫います」
すとん。と、何か抜け落ちていたものが戻ってきた。
……私は過去一度攫われていたのだ。
なぜ、忘れていたのだろうか。
「私をどこに連れて行くつもりなの?」
「……」
サナは何も言わずに、ただ、静かに笑った。
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お読みくださりありがとうございます
次からはトリスタン視点です
感想が一気に三件来ていて、誤字ったのか究極のやらかしをしたのか不安になりました!
感想、エール、ブックマーク、いいね、ありがとうございます!
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