16 / 30
貴女を連れ去ります
しおりを挟む
勢いよく屋敷から飛び出しておいて、私はすぐに壁にぶち当たった。
「どうしよう」
私は、カセルとデュラン以外の領地に行ったことがないのだ。
とりあえず、王立学園がある王都へと向かおう。
まず最初に、王都方面へと向かう乗り合い馬車に乗らないといけない。
私は何人かに場所を聞きながら、乗り合い馬車が集まるところへと向かった。
これで、かなり領地から離れてしまった。
人の視線が気になったが、それどころではない。
ようやく乗り合い馬車を見つけた瞬間だった。
突然腕を掴まれた。
「ねえ」
振り返ると、下卑た笑みを浮かべた男が立っていた。
こわい。
私はとても怖くなった。知らない男に手を掴まれた事もそうだが。
本能的な何かに恐怖を感じたのだ。
「何のようでしょうか?」
「一人?」
身体が震えそうになるのを堪えて、私はなんとか返事をした。
「そうですが」
「俺のところへ来いよ」
男は強引に私の腕を引っ張った。
なんだろう。この感覚。恐怖だけではない。
私は、この経験を「覚えている」のだ。
「結構です」
「硬い事言うなよ」
ニヤけた男の顔が、気持ち悪い。
冷や汗がダラダラと流れてくる。怖い。
……嫌だ。離れたい。逃げないと。
「触らないでください!」
私は大きな声を出して腕を振り解こうとするが、男の身体はびくともしない。
「何だよ。言う事を聞け!下手に出てたらいい気になりやがって!……そうだな。お前を売るか、良い値段になりそうだ」
下卑た笑みに、私はパニックになりそうだった。
その時だった。聞き覚えのある声がした。
「そこまでです」
サナの姿を確認した。しかし、彼女はすぐに私の視界から消えた。
次の瞬間には、高く飛び上がったサナが男にドロップキックをかましていた。
「ぐっ、」
男は見事に顔面にドロップキックをくらい、うめき声とともにその場に倒れた。
「……」
男は浜に打ち上げられた魚のようにピクピクと震えていた。
震えているから生きているはずだ。
「サナ?」
私が声をかけると、サナは優雅な笑みを浮かべてこう言った。
「お嬢様……、私は貴女を攫います」
すとん。と、何か抜け落ちていたものが戻ってきた。
……私は過去一度攫われていたのだ。
なぜ、忘れていたのだろうか。
「私をどこに連れて行くつもりなの?」
「……」
サナは何も言わずに、ただ、静かに笑った。
~~~
お読みくださりありがとうございます
次からはトリスタン視点です
感想が一気に三件来ていて、誤字ったのか究極のやらかしをしたのか不安になりました!
感想、エール、ブックマーク、いいね、ありがとうございます!
「どうしよう」
私は、カセルとデュラン以外の領地に行ったことがないのだ。
とりあえず、王立学園がある王都へと向かおう。
まず最初に、王都方面へと向かう乗り合い馬車に乗らないといけない。
私は何人かに場所を聞きながら、乗り合い馬車が集まるところへと向かった。
これで、かなり領地から離れてしまった。
人の視線が気になったが、それどころではない。
ようやく乗り合い馬車を見つけた瞬間だった。
突然腕を掴まれた。
「ねえ」
振り返ると、下卑た笑みを浮かべた男が立っていた。
こわい。
私はとても怖くなった。知らない男に手を掴まれた事もそうだが。
本能的な何かに恐怖を感じたのだ。
「何のようでしょうか?」
「一人?」
身体が震えそうになるのを堪えて、私はなんとか返事をした。
「そうですが」
「俺のところへ来いよ」
男は強引に私の腕を引っ張った。
なんだろう。この感覚。恐怖だけではない。
私は、この経験を「覚えている」のだ。
「結構です」
「硬い事言うなよ」
ニヤけた男の顔が、気持ち悪い。
冷や汗がダラダラと流れてくる。怖い。
……嫌だ。離れたい。逃げないと。
「触らないでください!」
私は大きな声を出して腕を振り解こうとするが、男の身体はびくともしない。
「何だよ。言う事を聞け!下手に出てたらいい気になりやがって!……そうだな。お前を売るか、良い値段になりそうだ」
下卑た笑みに、私はパニックになりそうだった。
その時だった。聞き覚えのある声がした。
「そこまでです」
サナの姿を確認した。しかし、彼女はすぐに私の視界から消えた。
次の瞬間には、高く飛び上がったサナが男にドロップキックをかましていた。
「ぐっ、」
男は見事に顔面にドロップキックをくらい、うめき声とともにその場に倒れた。
「……」
男は浜に打ち上げられた魚のようにピクピクと震えていた。
震えているから生きているはずだ。
「サナ?」
私が声をかけると、サナは優雅な笑みを浮かべてこう言った。
「お嬢様……、私は貴女を攫います」
すとん。と、何か抜け落ちていたものが戻ってきた。
……私は過去一度攫われていたのだ。
なぜ、忘れていたのだろうか。
「私をどこに連れて行くつもりなの?」
「……」
サナは何も言わずに、ただ、静かに笑った。
~~~
お読みくださりありがとうございます
次からはトリスタン視点です
感想が一気に三件来ていて、誤字ったのか究極のやらかしをしたのか不安になりました!
感想、エール、ブックマーク、いいね、ありがとうございます!
1,963
お気に入りに追加
3,108
あなたにおすすめの小説

夫が平民と不倫しているようなので、即刻離婚します
うみか
恋愛
両親が亡くなり親戚の家を転々とする私。
しかしそんな折、幼馴染が私の元へ現れて愛を叫ぶ。
彼と結婚することにした私だが、程なくして彼の裏切りが判明する。


聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。


結婚しましたが、愛されていません
うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。
彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。
為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる