12 / 30
贈り物
しおりを挟むトリスタンがいなくなって、すぐに寂しくなったが意外と辛くはなかった。
その理由として、サナがいてくれたからだと思う。
それと、生まれてきた甥のお陰もあった。
「……」
サナは意外にもクロエと気が合うようだった。
トリスタンはというと、忙しくてそれどころじゃなくて勉強の日々のようだ。
友達はたくさんできたようで、それなりにやっているらしい。
手紙からは、寂しさを感じていない様子が見て取れる。
『ポーリーンに逢いたいよ』
最後には、そう締めくくられていて、忘れられていないのだと思わせてくれた。
手紙と一緒にプレゼントも届くこともあった。
「可愛い。テディベアだ」
いつも、トリスタンの髪の毛と目の色と同じぬいぐるみが届いた。
これで、3個目だ。
しかし、そのプレゼントに不満を持つ人物が一人、いや、二人いた。
「何ていうか、こう、色々と言いたいことが私にはあるんですよね」
「うん、わかるわ」
サナとクロエだ。
私には何が不満なのか全くわからなかった。
「え、だって可愛いじゃない。このぬいぐるみ」
「ええ、可愛いわよ」
「この年頃ってもう少し背伸びしたいものじゃないですか、それに、何度も黒毛赤目のぬいぐるみを贈られると、部屋に置くスペースがなくなってしまいます。あと、部屋が少し暗くなる気がします」
なかなかボロクソだ。
けれど、卒業するまで贈り続けられると、大変な事になりそうな気がした。
「そうね。確かに」
「何かしてあげたいって気持ちはわかるんですけどね」
「わかるわ。気持ちだけは凄く伝わってくるのよ」
サナとクロエは顔を見合わせて、ふふふ、と笑った。
それから、トリスタンの贈り物が少しずつ変わっていった。
まず最初に、綺麗な置き物。次は可愛い栞、トリスタンの髪の毛の色のリボン。とにかく色々だった。
サナやクロエは、微笑ましくプレゼントを見ていた。
ただ、一つだけ。
「ポーリーン様って黒のリボンが似合いませんね。なんか、こう、強い色でガーンと殴られたような感じになります。リボンにだけ目がいくというか。これに合わせるとやみおち少女になりますね」
と、言われてしまった。
甥のケンダルが生まれて、慌ただしくて賑やかな毎日。
それでも、トリスタンがすぐそばにいないのが寂しかった。
考えてみれば、いつも何か面白いことがあると一番最初に話したのはトリスタンだったから。
ケンダルと初めて顔を合わせた時、私と同じ空色の瞳には私の姿がとても綺麗に映っていた事。
初めて私の手を掴んだ時、小さくて温かな手の感触が忘れられない。
そんな事ばかりトリスタンに話したくて仕方なかった。
そして、初めての長期休みの日を迎えた。
「ポーリーン!」
しばらく会わない間に、また、トリスタンの身長が伸びたようだ。
また、身長の差が広がった。
トリスタンは、別れた時とは違い落ち着いた目で私を見ていた。
そして、私も。
「久しぶりね。トリスタン」
もう、子供ではいられない。
だから、抱きつくことはもうしなかった。
私たちは少しずつ大人になっていく。
ただ、それにはきっと差が出てくるだろう。
差が伸びた身長と同じように。
~~~
お読みくださりありがとうございます
お気に入り登録、ブックマーク、エールしてもらえると嬉しいです
1,553
お気に入りに追加
3,091
あなたにおすすめの小説
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
愛とは誠実であるべきもの~不誠実な夫は侍女と不倫しました~
hana
恋愛
城下町に広がる広大な領地を治める若き騎士、エドワードは、国王の命により辺境の守護を任されていた。彼には美しい妻ベルがいた。ベルは優美で高貴な心を持つ女性で、村人からも敬愛されていた。二人は、政略結婚にもかかわらず、互いを大切に想い穏やかな日々を送っていた。しかし、ロゼという新しい侍女を雇ったことをきっかけに、エドワードは次第にベルへの愛を疎かにし始める。
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。
【完結】本当に私と結婚したいの?
横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。
王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。
困ったセシリアは王妃に相談することにした。
興味はないので、さっさと離婚してくださいね?
hana
恋愛
伯爵令嬢のエレノアは、第二王子オーフェンと結婚を果たした。
しかしオーフェンが男爵令嬢のリリアと関係を持ったことで、事態は急変する。
魔法が使えるリリアの方が正妃に相応しいと判断したオーフェンは、エレノアに冷たい言葉を放ったのだ。
「君はもういらない、リリアに正妃の座を譲ってくれ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる