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変わりゆく関係

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 トリスタンとの関係はゆっくりとだが確実に変わっていった。
 危なっかしい子供を見るような優しい目は少しだけ甘さを孕んでいて、いつもの注意にすらそれを感じるほどだった。
 トリスタンが変わったのか、それとも、私がそれに気がついただけなのか。
 それが大人に近づいていくという事なのだと思う。

 家庭教師やクロエからの淑女としての手ほどきを受け始めると、トリスタンとの距離の取り方を悩むようになった。

「ポーリーン、元気か?」

 いつものようにトリスタンのところに遊びに行くと、いつものように彼は私の隣に座った。
 それだけの事なのに、私はドキリとしてしまう。

「……」
「どうしたの?いきなりそっち向いて、こっちを向いてよ」
「く、首が急に攣ったのよ。ごめんなさい」
 
 思わずそっぽを向いてしまった。
 異性として変に意識してしまっているせいかもしれない。

「勉強はどう?」
「大丈夫。今のところ、問題があるとしたらマナーかな」

 雑念を振り払って何とか答えると、トリスタンは何やら難しそうな顔をした。
 
「そこは、僕の専門外だ」
「でしょうね」

 真面目な返答に思わず笑ってしまった。
 彼はそういう人だ。嘘はつかないし、真面目だし、適当なことは言わない。
 
「この田舎の地に住んでいたら王都なんてまずいかないだろうし、パーティーも身内だけが多い。身構えなくてもいい。って言ったところで無責任だよな」

 彼なりの経験からのアドバイスだとは思うが、言っていて無責任だと感じたようだ。頭を抱え始めた。
 なぜ、トリスタンの方が悩む。悩むのは私の方ではないのか。

「……私のことなのに自分が悩んでどうするのよ」

「そうだけど、君が悩んでるのを見ているのは辛いよ」

 ……ここまで気遣われると、なぜ、今まで好意に全く気が付かなかったのか、逆に自分の神経を疑いたくなる。
 兄としてしか見てなかったせいだ。きっと、そうだ。

「パーティーとかで母さんが悩んでる様子は見た事はないんだよな。いつも内輪だし、……でも、当事者にしかわからない事があるからな」

 根拠のない無責任な発言はしたくない。という、彼の真面目さを見ているとホッとする。一人じゃないとわかるからだ。
 一生を共にするのなら、いい加減な私にはこういう人のほうが合っているのだと思う。

「まあ、そうでしょうね」

「不得意なことを頑張れと口だけで励ますことはいくらでもできるからな。代わってやれないのが申し訳ない」

 自分で決めた事だ。
 代わってもらうなんて情けない事は絶対にしたくない。
 それにしても、私の苦労の全てが自分のせいだと本気で思っているのではないか。
 そんな気がしてきた。
 
「ああ、もう、謝らないで、自分で選んだ道よ!逃げも隠れもしないから、安心できないかもしれないけど任せて」

「ポーリーンはできるだから不安とかはないよ。ただ、苦手な方面で苦労するのが申し訳なくなるんだ」

 口うるささはなくなったが、過保護さに甘さが追加されて、なんだかとんでもないことになりそうな気がした。
 そして、それは少なからず当たってしまうことになった。




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