4 / 30
だからこその運命の相手
しおりを挟む
楽しい月日の終わりというものは、案外あっけないものだ。
「そろそろ、トリスタンも王立学園に行く頃か」
ある日、ロータスがしみじみとそう呟いた。
私と義姉の前でだ。
「お兄様って、王立学園で義姉さまと出逢ったんでしょう?」
兄はすでに結婚していて、義姉の名前はクロエという。
出会いはなんと王立学園だったりするのだ。
なんでも、兄に一目惚れしたクロエが猛アタックを仕掛けたとか、生家は王立学園のある王都に屋敷を持つ侯爵家だ。
お淑やかさと気品と……どこか怖さがある。
「うふふ、そうね」
「懐かしいな」
クロエは楽しげに笑い。兄を見た。
ロータスは、苦笑いしつつクロエと目を合わせる。
「運命的な感じだったんでしょ?」
出会った瞬間は、雷に打たれたような衝撃だったと以前クロエが話していた。
兄は見た目だけは、美形に分類される。
私もロータスもそれを知ったのが、王立学園に入ってからだ。
入園して、初めて届いた手紙には女性に追いかけられて困る。と記されていて。なんの自慢だ。と、私は思ったが。
長期休暇で信じられないほどに窶れたロータスの姿を見て、都会は恐ろしい。という、認識に変えた。
「そうなるかしらね。ロータス様はとてもおモテになったから」
困った顔で笑うクロエ。
兄は、調子に乗る性格ではないので、モテたとしても浮ついたことはなく、誰彼構わず付き合った事はなかったと思う。
なんなら自分がモテることに対して軽く引いていたくらいだと思う。
そんな真面目なところをクロエは好きになったらしい。
「ポーリーンは、行かない方がいいな」
兄は言いながら、私の頭を撫でた。
行くつもりはないが、勝手に決められるのはなんだか嫌な気分だ。
「なんで?」
「可愛いから。やっかみを受けるわよ。それに攫われるかも、知らない人について行ったらダメよ」
その答えは兄ではなくクロエがしてくれた。
彼女はなにも言わないが、「いろいろ」あったようだ。
もしかしたら、攫われるような事もあったのかもしれない。
言いたくなさそうにしているから、聞かないけれど。
彼女がそう言うのなら、私にとって不利益なことが王立学園であるのかもしれない。
……それにしても、愛情フィルターというのは恐ろしい。
邪魔でしかない小姑の私を「可愛い」と、言ってのけてしまえるのは愛する男の妹だからではないかと思う。
心からの言葉だとわかるから、何というか。気恥ずかしい。
あと、子供扱いしないで欲しい。
ついでに、惚気るのもやめて欲しい。
「はいはい。行かなくても困らないし、欲しい知識はいくらでも得られるわよ。役に立つかどうかは別として、王立学園に行ったとしてもそれが身になるのかと言われたら。そうだとも言えないし」
……正直、うちにはお金がない。行けないこともないが、クロエのお腹には新しい命が宿っていて、叔母である私としては自分にお金をかけるのではなく、その子にかけて欲しい。と常々思っていた。
「……」
二人はなんとも言えない顔をして黙り込んだ。
何だろう。私がお金がない事に対して空気を読んでいると思ってしまったのだろうか。
せめているつもりは全くない。けれど。
「ああ、でも、トリスタンも向こうで運命の人と巡り会えるのかもね」
二人のラブロマンスを何度も聞いていた私は、自然とそういったことに憧れていた。
「まあ、うふふ」
私が慌てて話を変えると、クロエは楽しそうに声を出して笑った。
「私もそういうの少し憧れるわ」
まあ、自分には関係のない話ではあるけれど、田舎の貧乏な男爵家の娘を見初める男なんていないはずだ。
なぜなら、都会の貴族にはすでに婚約者がいる人が多いらしい。
それに、自分にそれほどにまでの価値があるとは思えないのだ。
「やっぱりポーリーンは、ああいう場所には行かない方がいい。結婚するならあんな場所で捕まえた男よりも、真面目でお前のことが大好きでつまらない男の方がいい」
「そうね」
堅実な相手と結婚するのが一番の幸せだと思う。
兄とクロエは奇跡的な掛け合わせで幸せになれたのだ。だからこその運命の相手なのだと思う。
~~~
お読みくださりありがとうございます
感想、お気に入り登録、ありがとうございます!
「そろそろ、トリスタンも王立学園に行く頃か」
ある日、ロータスがしみじみとそう呟いた。
私と義姉の前でだ。
「お兄様って、王立学園で義姉さまと出逢ったんでしょう?」
兄はすでに結婚していて、義姉の名前はクロエという。
出会いはなんと王立学園だったりするのだ。
なんでも、兄に一目惚れしたクロエが猛アタックを仕掛けたとか、生家は王立学園のある王都に屋敷を持つ侯爵家だ。
お淑やかさと気品と……どこか怖さがある。
「うふふ、そうね」
「懐かしいな」
クロエは楽しげに笑い。兄を見た。
ロータスは、苦笑いしつつクロエと目を合わせる。
「運命的な感じだったんでしょ?」
出会った瞬間は、雷に打たれたような衝撃だったと以前クロエが話していた。
兄は見た目だけは、美形に分類される。
私もロータスもそれを知ったのが、王立学園に入ってからだ。
入園して、初めて届いた手紙には女性に追いかけられて困る。と記されていて。なんの自慢だ。と、私は思ったが。
長期休暇で信じられないほどに窶れたロータスの姿を見て、都会は恐ろしい。という、認識に変えた。
「そうなるかしらね。ロータス様はとてもおモテになったから」
困った顔で笑うクロエ。
兄は、調子に乗る性格ではないので、モテたとしても浮ついたことはなく、誰彼構わず付き合った事はなかったと思う。
なんなら自分がモテることに対して軽く引いていたくらいだと思う。
そんな真面目なところをクロエは好きになったらしい。
「ポーリーンは、行かない方がいいな」
兄は言いながら、私の頭を撫でた。
行くつもりはないが、勝手に決められるのはなんだか嫌な気分だ。
「なんで?」
「可愛いから。やっかみを受けるわよ。それに攫われるかも、知らない人について行ったらダメよ」
その答えは兄ではなくクロエがしてくれた。
彼女はなにも言わないが、「いろいろ」あったようだ。
もしかしたら、攫われるような事もあったのかもしれない。
言いたくなさそうにしているから、聞かないけれど。
彼女がそう言うのなら、私にとって不利益なことが王立学園であるのかもしれない。
……それにしても、愛情フィルターというのは恐ろしい。
邪魔でしかない小姑の私を「可愛い」と、言ってのけてしまえるのは愛する男の妹だからではないかと思う。
心からの言葉だとわかるから、何というか。気恥ずかしい。
あと、子供扱いしないで欲しい。
ついでに、惚気るのもやめて欲しい。
「はいはい。行かなくても困らないし、欲しい知識はいくらでも得られるわよ。役に立つかどうかは別として、王立学園に行ったとしてもそれが身になるのかと言われたら。そうだとも言えないし」
……正直、うちにはお金がない。行けないこともないが、クロエのお腹には新しい命が宿っていて、叔母である私としては自分にお金をかけるのではなく、その子にかけて欲しい。と常々思っていた。
「……」
二人はなんとも言えない顔をして黙り込んだ。
何だろう。私がお金がない事に対して空気を読んでいると思ってしまったのだろうか。
せめているつもりは全くない。けれど。
「ああ、でも、トリスタンも向こうで運命の人と巡り会えるのかもね」
二人のラブロマンスを何度も聞いていた私は、自然とそういったことに憧れていた。
「まあ、うふふ」
私が慌てて話を変えると、クロエは楽しそうに声を出して笑った。
「私もそういうの少し憧れるわ」
まあ、自分には関係のない話ではあるけれど、田舎の貧乏な男爵家の娘を見初める男なんていないはずだ。
なぜなら、都会の貴族にはすでに婚約者がいる人が多いらしい。
それに、自分にそれほどにまでの価値があるとは思えないのだ。
「やっぱりポーリーンは、ああいう場所には行かない方がいい。結婚するならあんな場所で捕まえた男よりも、真面目でお前のことが大好きでつまらない男の方がいい」
「そうね」
堅実な相手と結婚するのが一番の幸せだと思う。
兄とクロエは奇跡的な掛け合わせで幸せになれたのだ。だからこその運命の相手なのだと思う。
~~~
お読みくださりありがとうございます
感想、お気に入り登録、ありがとうございます!
1,713
お気に入りに追加
3,091
あなたにおすすめの小説
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
愛とは誠実であるべきもの~不誠実な夫は侍女と不倫しました~
hana
恋愛
城下町に広がる広大な領地を治める若き騎士、エドワードは、国王の命により辺境の守護を任されていた。彼には美しい妻ベルがいた。ベルは優美で高貴な心を持つ女性で、村人からも敬愛されていた。二人は、政略結婚にもかかわらず、互いを大切に想い穏やかな日々を送っていた。しかし、ロゼという新しい侍女を雇ったことをきっかけに、エドワードは次第にベルへの愛を疎かにし始める。
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。
【完結】本当に私と結婚したいの?
横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。
王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。
困ったセシリアは王妃に相談することにした。
興味はないので、さっさと離婚してくださいね?
hana
恋愛
伯爵令嬢のエレノアは、第二王子オーフェンと結婚を果たした。
しかしオーフェンが男爵令嬢のリリアと関係を持ったことで、事態は急変する。
魔法が使えるリリアの方が正妃に相応しいと判断したオーフェンは、エレノアに冷たい言葉を放ったのだ。
「君はもういらない、リリアに正妃の座を譲ってくれ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる