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だからこその運命の相手

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 楽しい月日の終わりというものは、案外あっけないものだ。

「そろそろ、トリスタンも王立学園に行く頃か」

 ある日、ロータスがしみじみとそう呟いた。
 私と義姉の前でだ。

「お兄様って、王立学園で義姉さまと出逢ったんでしょう?」

 兄はすでに結婚していて、義姉の名前はクロエという。
 出会いはなんと王立学園だったりするのだ。
 なんでも、兄に一目惚れしたクロエが猛アタックを仕掛けたとか、生家は王立学園のある王都に屋敷を持つ侯爵家だ。
 お淑やかさと気品と……どこか怖さがある。
  
「うふふ、そうね」
「懐かしいな」

 クロエは楽しげに笑い。兄を見た。
 ロータスは、苦笑いしつつクロエと目を合わせる。
 
「運命的な感じだったんでしょ?」

 出会った瞬間は、雷に打たれたような衝撃だったと以前クロエが話していた。
 兄は見た目だけは、美形に分類される。
 私もロータスもそれを知ったのが、王立学園に入ってからだ。
 入園して、初めて届いた手紙には女性に追いかけられて困る。と記されていて。なんの自慢だ。と、私は思ったが。
 長期休暇で信じられないほどに窶れたロータスの姿を見て、都会は恐ろしい。という、認識に変えた。
 
「そうなるかしらね。ロータス様はとてもおモテになったから」

 困った顔で笑うクロエ。
 兄は、調子に乗る性格ではないので、モテたとしても浮ついたことはなく、誰彼構わず付き合った事はなかったと思う。
 なんなら自分がモテることに対して軽く引いていたくらいだと思う。
 そんな真面目なところをクロエは好きになったらしい。
 
「ポーリーンは、行かない方がいいな」

 兄は言いながら、私の頭を撫でた。
 行くつもりはないが、勝手に決められるのはなんだか嫌な気分だ。
 
「なんで?」
「可愛いから。やっかみを受けるわよ。それに攫われるかも、知らない人について行ったらダメよ」

 その答えは兄ではなくクロエがしてくれた。
 彼女はなにも言わないが、「いろいろ」あったようだ。
 もしかしたら、攫われるような事もあったのかもしれない。
 言いたくなさそうにしているから、聞かないけれど。
 彼女がそう言うのなら、私にとって不利益なことが王立学園であるのかもしれない。

 ……それにしても、愛情フィルターというのは恐ろしい。
 邪魔でしかない小姑の私を「可愛い」と、言ってのけてしまえるのは愛する男の妹だからではないかと思う。
 心からの言葉だとわかるから、何というか。気恥ずかしい。
 あと、子供扱いしないで欲しい。
 ついでに、惚気るのもやめて欲しい。
 
「はいはい。行かなくても困らないし、欲しい知識はいくらでも得られるわよ。役に立つかどうかは別として、王立学園に行ったとしてもそれが身になるのかと言われたら。そうだとも言えないし」

 ……正直、うちにはお金がない。行けないこともないが、クロエのお腹には新しい命が宿っていて、叔母である私としては自分にお金をかけるのではなく、その子にかけて欲しい。と常々思っていた。
 
「……」

 二人はなんとも言えない顔をして黙り込んだ。
 何だろう。私がお金がない事に対して空気を読んでいると思ってしまったのだろうか。
 せめているつもりは全くない。けれど。
 
「ああ、でも、トリスタンも向こうで運命の人と巡り会えるのかもね」

 二人のラブロマンスを何度も聞いていた私は、自然とそういったことに憧れていた。
 
「まあ、うふふ」

 私が慌てて話を変えると、クロエは楽しそうに声を出して笑った。
 
「私もそういうの少し憧れるわ」

 まあ、自分には関係のない話ではあるけれど、田舎の貧乏な男爵家の娘を見初める男なんていないはずだ。
 なぜなら、都会の貴族にはすでに婚約者がいる人が多いらしい。
 それに、自分にそれほどにまでの価値があるとは思えないのだ。
 
「やっぱりポーリーンは、ああいう場所には行かない方がいい。結婚するならあんな場所で捕まえた男よりも、真面目でお前のことが大好きでつまらない男の方がいい」
「そうね」

 堅実な相手と結婚するのが一番の幸せだと思う。
 兄とクロエは奇跡的な掛け合わせで幸せになれたのだ。だからこその運命の相手なのだと思う。

 
 

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