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口うるさい理由

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 トリスタンと私は隣の領地に住んでいる幼馴染だ。
 いわゆる家族ぐるみの付き合いをしていて関係はとても良好で、親同士は定期的に会っているし、子供の私たちは毎日のように会っていた。
 トリスタンはデュラン伯爵家の嫡男で、私はカセル男爵家の長女だ。
 爵位の差はあっても、トリスタンは偉そうなところはなく優しかった。
 幼い頃は、トリスタンの後を親鳥を慕う雛鳥のようについて回っていた。
 あの年代の男の子からしたら鬱陶しかったはずだが、トリスタンは嫌がることなく私と遊んでくれた。
 兄のロータスが居ない時も、トリスタンが側で励ましてくれた。

 つまり、血の繋がりはないけれど、私たちは兄妹同然で育ったのだ。

 幼い時、トリスタンは、それはもう私のことを甘やかした。兄のロータスが苦言を呈するほどに。

 しかし、ある日をきっかけにトリスタンの小言が始まる事になった。
 悪いのは間違いなく私で、今も反省もしている。

 8歳になったばかりの私はトリスタンのところに行って驚かせようと思って、こっそり屋敷から抜け出した。
 このあたりの記憶があやふやで覚えていないが、とにかくこっそり屋敷から出て行ったのだけは覚えている。
 体調があまり良くなくて、すぐに疲れてる草むらで寝ていたら気がついたら夜になっていた。
 それはもう大騒ぎだったらしい。
 うちの使用人はともかく、デュラン家の使用人も出てきて大捜索が始まった。
 兄は王立学園に行っていたのでいなかった。

「ポーリーン!」

 草むらで眠っていた私を見つけたのはトリスタンで、その必死な様子に怒られる。と、思った。
 しかし、彼は怒る事はなくて「見つかって良かった」と言って、私の事をかなり強く抱きしめた。
 トリスタンの身体が熱いな。と、ぼんやりと考えながら、私はそのまま意識を失った。

 それから私は一週間ほど熱に魘された。
 かなり危なかったらしく目が覚めた時に、トリスタンの幻覚が見えてとうとうおかしくなったのかと思った。

 本当に死にかけていたらしく、トリスタンはすぐに見つけられなくてごめん。と、泣きながら謝った。
 悪いのは私だというのに。

 そこからだ。
 トリスタンがとても口うるさくなってしまったのは。
 あの時、彼は半狂乱になって探し回っていたらしい。

 あと、少し大人になった今ならわかるけれど、あの後、両親はデュラン家にめちゃくちゃ謝ったと思う。
 本当に申し訳ない事をしてしまった。

 ……全部自分のせいなので、誰にも言わずにこっそりと屋敷を抜け出す事は二度としないと心に誓った。
 あとは、外で眠らないようにしている。

 それでも、トリスタンにはかなり口うるさく叱られるようになった。




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