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ヒヤシンスは、今日も頑張ることにした

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 自分。というものに違和感を覚えたのは物心がついた頃だった。
 この世界にあるはずのないものを食べてみたいと言い出したし、ないものをあるかのように言い出したり。
 不思議な子供だったと思う。家族も戸惑っていたはずだ。
 それでも、優しい家族は私を気味悪がったりはしなかった。
 明確に自分の名前を認識した時から、私のうちなる記憶を少しずつ思い出していった。

「ヒヤシンス」

 銀色の髪の色。青いヒヤシンス瞳。血の気を感じさせない美貌は幼いながらもすでに滲み出ている。

 絵で見ても綺麗だったが、現物はもっと綺麗だった。

 ああ、なんてことだろう。
 私は、悪女ヒヤシンスに転生していたのだ。

「ど、ひぃぃ!!」

 私は、全てを知った瞬間、令嬢にあるまじき悲鳴をあげてそのまま気絶した。

 悪女ヒヤシンスとは、「哀は愛に染まる」という小説に登場する悪女の名前だ。
 この小説。タイトルはなんだかいい感じにかっこいいのだが、内容は魔王討伐物の勧善懲悪のゴリゴリのざまぁ物だったりする。
 私はそれに登場する。ざまぁ。される予定の令嬢に生まれ変わってしまったのだ。
 内容としては、ある日、聖痕が浮かび上がったメンバーと共に魔王を討伐するといったベタなものだ。
 ヒヤシンス・ローラレイは、勇者、フェリクス・ウィリアムの婚約者で、性格は地獄そのもの。聖女マリアベルへの嫌がらせどころか、殺人未遂をしれっと何度でもやってしまうような女だ。恐ろしい女だ。
 ヒヤシンスは、「聖女」と自称してゴリ押しで魔王討伐の旅についていく恥知らずなキャラクターだった。
 色々とアウトな存在だと思う。
 当然のように最後には、断罪されて、ギロチンされるのだ。

 こうなった場合。真面目に生きていけばそんな目に遭うことはない。と、誰もが思うはずだ。

 いいや、そんなことはない。

 清廉潔白そうな顔をした奴ほど、案外恐ろしい内面を持ち合わせているものだ。

 フェリクスの聖女マリアベルへの愛は執着にも近く。

 ギリギリ幽閉で済みそうな罪を処刑へと持っていくような執念深さを持ち合わせていた。

 怖くない?少しくらいは元婚約者というよしみで許してくれよ。って思うんだよ。わたし。やっぱりダメ?

 どれだいい子に生きようと、フェリクスとマリアベルと関わってしまえば20才を迎える前に、首と胴体がさようならする未来が待っている。

 運悪く。私は知略を巡らせる事ができるような女ではない。
 どちらかというと、残念な分類だ。
 死んだ理由も覚えていないが、たぶん、うっかり死んでしまったような気がする。

 だったら、自分にできることは限られていた。

「うん、関わらないで逃げよう。ほっといても二人は勝手にくっつくでしょうよ」

 そう心に決めて、今日から、美味しいご飯を食べて勉強も頑張って元気に生きることにした。

「よし、頑張るぞ!!」

 まあ、世の中はそんなに甘くはないのだとすぐに知ることになるのだけれど。
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