聖女様の生き残り術

毛蟹葵葉

文字の大きさ
上 下
9 / 25

落とし所

しおりを挟む
「貴女たちはアイオラさんの事を一度でも考えた事はありますか?」

「考えない日なんてありませんでした」

 マリネッタの声は恐ろしいほどに落ち着いていた。
 それは、静かに怒りに耐えているように見えた。
 私を産んだ人の発言に、マリネッタは大きく息を吐いた。

「それ、本気で言ってます?あなた達は、一度もまともにアイオラさんのことを見ていません」

 マリネッタの断言に私は驚いていた。
 少なくとも表面上は、綺麗な格好をして上手に取り繕う事ができていると思っていたからだ。

「だっておかしいでしょう。丈が短くてぶかぶかのワンピースを着ているのに、それに対して何も思わなかったのですか?」

 マリネッタに指摘されて、着ているワンピースの丈が短い事に気がついた。

「そ、それは、アイオラが、元々痩せているから」

「神殿に来始めた時から痩せていましたけど、今日ほどではありませんでした。どれだけ彼女を放置したのですか?あまり会っていない私ですら、かなり痩せた事に気がついているのに」

「……」

 マリネッタの指摘に母だった人は黙り込んだ。
 反論したらボロが出ると思ったからだろう。

「後天的に聖女になる条件を知っていますか?」

「……」

 マリネッタの質問に、母は答えられない。
 当然だ。それを知っているのはごく少数だからだ。
 なぜ知られていないかというと、それを試そうとする人たちが出るかもしれないから。

「一度死にかける事ですよ。彼女が今際の際を彷徨っていた時、あなた達はアイオラさんを気にかけましたか?」

 血が繋がっただけの人たちは何も言えずに顔を見合わせるだけだった。

「それに、もしも、まともな親だったら、アイオラさんをこんな場所に呼び出したりなんてしませんよ。歩いて立っているのもやっとでしょう!」

「そ、それは」

「まだ、私に言わせたいんですか?」

 マリネッタは、まるで私のことを全て知っているかのような口調だった。

「アイオラさんは、定期的に神殿に祈りをしに来てました。何度か頬にアザがありましたよ」

「そ、それは、教育のために、この子は少し傲慢だから、何度もやったわけじゃないわ」

「私が頬に触れようとした時、怯えた顔をしましたよ。虐待が日常的に行われていた証拠です」

 マリネッタは本当に私のことをよく見てくれていたのだ。
 そして、自分が想像している以上に気にかけてかけてくれていた。

「これ以上私が発言したらあなた達の不利になりますよ。アイオラ様の親だから、私はまだ言いたいことを我慢しているんです。アイオラ様どうしたいですか?」

「私はこの家から籍を抜きます」

 あくまで私の考えを優先して聞いてくれるマリネッタに、自分の思いを口にする。
 もう、ずっと前から考えていたことだった。
 こんな家いらない。こんな家族いらない。

 私の気持ちはシンプルにそれだけだった。

「み、未成年は籍を抜ける事はできない」

「……そうなんですよね。ですから、アイオラ様の身柄は神殿預かりとします」

 父の指摘はごもっともで、実際に法律上ではそう決まっている。抜け道がないわけではないけれど。それをするには労力が必要だ。

「正直なところ、貴族籍があった方が何かと便利ではあるんですよね。今、勢いだけで籍を抜いて後悔するかもしれませんし」

 家族だった人たちが、籍を絶対に抜くな。というのなら死んでも籍を抜こうと思うが、マリネッタがそう言うのなら、素直に従おうと思った。
 実際に持ち帰って何年も考えた上で決めても遅くはない。

「それなら、成人してから決めます。でも、ここに二度と戻ってくるつもりはありません」

「わかりました。神殿はアイオラ様の考えに寄り添います」

 マリネッタは、にっこりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました

ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」 国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。 なにやら証拠があるようで…? ※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*) ※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

【完結】勘違いしないでくれ!君は(仮)だから。

山葵
恋愛
「父上が婚約者を決めると言うから、咄嗟にクリスと結婚したい!と言ったんだ。ああ勘違いしないでくれ!君は(仮)だ。(仮)の婚約者だから本気にしないでくれ。学園を卒業するまでには僕は愛する人を見付けるつもりだよ」 そう笑顔で私に言ったのは第5王子のフィリップ様だ。 末っ子なので兄王子4人と姉王女に可愛がられ甘えん坊の駄目王子に育った。

「庶子」と私を馬鹿にする姉の婚約者はザマァされました~「え?!」

ミカン♬
恋愛
コレットは庶子である。12歳の時にやっと母娘で父の伯爵家に迎え入れられた。 姉のロザリンは戸惑いながらもコレットを受け入れて幸せになれると思えたのだが、姉の婚約者セオドアはコレットを「庶子」とバカにしてうざい。 ロザリンとセオドア18歳、コレット16歳の時に大事件が起こる。ロザリンが婚約破棄をセオドアに突き付けたのだ。対して姉を溺愛するセオドアは簡単に受け入れなかった。 姉妹の運命は?庶子のコレットはどうなる? 姉の婚約者はオレ様のキモくて嫌なヤツです。不快に思われたらブラウザーバックをお願いします。 世界観はフワッとしたありふれたお話ですが、ヒマつぶしに読んでいただけると嬉しいです。 他サイトにも掲載。 完結後に手直しした部分があります。内容に変化はありません。

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

処理中です...