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「オスカー様」

 それから、夜会の度にオスカーはデイジーに声をかけられるようになった。

「あ、私は失礼しますね」

 私はその度に空気を読んで席を外すようにしている。
 いずれ、婚約者の立場を譲るつもりなので、なかなかのファインプレーなのではないかと自分の事を褒めている。

「デルドレー!ちょ、ちょっと」

 しかし、席を外そうとする度にオスカーは、必ず私を呼び止めようとするのだ。
 やはり、婚約者としての立場があるからなのだろう。

「あの、何か?」

「何かじゃなくて、なぜ、いなくなるんだ」

「だって、お話したいんでしょう?」

 物語では、オスカーはデイジーのことをすでに好きになっている。
 だから、わたしは空気を読んでいる。

「別に!?君、僕のことなんだと思ってるんだ」

「一時的な婚約者ですよ」

「ち、ちょっと酷くない?」

 酷いと言われて私は首を傾ける。
 ちょっと何を言っているのかわからない。

「酷い?私が?あの、二人でごゆっくり邪魔者は消えますので」

 引き止めるオスカーを無視して、私はその場から離れた。

「ねえ、アンタ」

 一人でぼんやりとしていると、突然声をかけられた。

「あの、何か?」

 声をかけてきたのはデイジーで、腹を立てた様子で私を見ていた。

「なんでオスカーを離してくれないの?」

「は?」

 離すも何も、私は気を遣って席を外しているくらいだ。

「愛されるのは、私デイジーなのよ!」

「……」

「アンタ、私の設定とは全然違うじゃない」

「は?」

 私の設定。という言葉に、ある考えが浮かんだ。
 まさか、そんなはず。と、心の中で否定するけれど、自分も転生しているのだからその可能性はなくはない。

「消えてよ!」

「私の設定って何?」

「あ、聞こえてた?メンヘラなんだから、私の書いた通りに動きなさいよ。悪役令嬢!」

「なんで、私がメンヘラって知ってるの?」

「……」

 デイジーは答えようとはしない。
 しかし、私の書いた通り。というワードから、デイジーがこのクソみたいな物語の作者である可能性が高い。
 
「ねえ、愛らしき花デイジーって駄作知ってる?」

 だから、わたしはデイジーを煽る事にした。

「駄作ですって!?」

「あの小説のいいところって絵が綺麗なところだけよ」

「……!!」

「設定は適当。作者の都合で当て馬をヒーローにして、内容だって破綻してる」

 それから、私は愛らしき花デイジーのダメなところを言い続けた。

「アンタに何がわかるって言うの!私は書きたい事を書いたの!それだけの事なのに、ネットでは叩かれて、私、可哀想!」

 デイジーは、言いながら泣き出した。
 そんなの知らん。

「金もらって仕事してるなら、まともなものを書けって事だよ!ふざけるな!」

 私が強く叱責すると、デイジーは膝から崩れ落ちた。
 ふたたび叱責しようと息を吸い込むと、オスカーの声が聞こえてきた。
 
「デ、デルドレー!」

 オスカーは、慌てた様子で私の肩を掴んだ。
 虐めていると思ったのだろうか。
 しかし、状況的にはそう見られてもおかしくない。

「あ、オスカー様、怖かった。私」

 デイジーは、私に叱責された事すら忘れてうるうると両目に涙を浮かべていた。

「君、いい加減にしてくれないか!迷惑なんだ!僕には婚約者がいるのに、馴れ馴れしく話しかけてきて」

 当然デイジーを慰めるのだろうと思っていたら、オスカーはとてもまともな事を言い出して、私は戸惑った。
 
 いや、こういう時って、私を叱責するものじゃないのか。

「え、オスカー様?」

 デイジーも同じ事を思ったようで戸惑っている。

「どうせ、デルドレーに何か罪を着せるためにそんなところに座っているんだろう」

「うっ」

 図星だったようでデイジーは、唇を噛み締めて黙り込んだ。

「僕が好きなのはデルドレーだよ」

 オスカーの唐突な告白に私は言葉を失った。
 物語はどうなっている。

 だが、しかし、この物語は作者の手を離れて、私とオスカーが紡いでいるのだと気がつく。

「私は普通くらいに好き」

 まだ、オスカーのことを友達くらいにしか思えないけれど、たぶん、好きになれるような気がした。

 これから先の物語は私たちが作っていけばいいのだから。
 




~~~~

お読みくださりありがとうございました!
完結です!

新作書いています!

悪役令嬢に転生しましたが、ポンコツすぎて死にそうです

という、タイトルです

よかったらどうぞ、主人公が酷い目に遭います!!

ドアマットじゃないです!安心して読めます

ソムリエも、黒歴史の書も出てきません!

ヒーローが、ヒロイン大好きです!

よかったらどうぞ!
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みんなの感想(10件)

しまこ
2024.08.18 しまこ

楽しく読ませていただきました。
終わっちゃって残念!
もう少し、2人の愛が深まる(のか分からないけど)ところまで読みたかったなぁ。あと、王子がどうなるのかなぁとか。
また、他の作品を楽しみにしてます。

解除
歌川ピロシキ

完結お疲れ様でした!
うん、飽きたならエタらせずに潔く完結させちゃう方が良いよね。
ここんとこ忙しすぎてやっとこっちを読み終わったので、新作ものんびり読みます♪

解除
Kimy
2024.04.14 Kimy

えーっ、最大の謎(?)というか、主人公が一番文句言いたいだろう相手がわかったところで、
もう終わっちゃうのですか?(つд⊂)

完結お疲れ様でした。次回作も楽しみにしています。(^ー^)

毛蟹葵葉
2024.04.15 毛蟹葵葉

新作は、ギャグ方向に振り切ります(`・ω・´)

解除

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