婚約者の番

毛蟹葵葉

文字の大きさ
上 下
4 / 6

レオン2

しおりを挟む
初めて彼女に会った日を私は一生忘れないだろう。

「初めまして、私の婚約者殿」

彼女は私の顔を見ると頬を赤く染めて、はにかんだ。
見るからに大人しそうな婚約者に、私は胸を撫で下ろす。面倒なくらい気難しい少女ではなくてよかった。

これなら、条件を飲んでくれるかもしれない。私は彼女の見た目にすっかり騙されていたのだ。

「サラです」
「よろしくサラ。私はレオンと呼んでくれ」
「レオン様」

私の名前を呼ぶサラはとても愛らしくて、好感を持てた。しかし、彼女は番ではない。

「君は私の番ではないけれど、大切にしたい」

私なりの精一杯の誠意を言葉にして、サラの掌に口づけを落とした。
やはり、番というものの存在は、私にとっては至高で憧れの存在だったのだ。
億万長者の彼女を捨ててもいいと思えるくらいに。

もしも、私に番が現れたら婚約を解消してほしい。

そう、願いを口にしようとした。

「たかが、番という存在に目移りするのですか?」

たかが番?!

私はサラの言葉に絶句した。何を言っているんだこの女は、思わず怒鳴りつけようとしたが、それは出来なかった。

「番などに目移りするような男は、二度と女など抱けない身体になるべきです」

静かに淡々と話すけれど、彼女から漂うオーラはこの世の混沌を全て煮詰めたような禍々しいものだった。
怖い。ちびりそうだ。

「具体的に言いましょうか?引きちぎって。握り潰してやります」

「ひいっ」

思わず想像して、股間に手を当てる。大丈夫。潰れてはいない。
けれど、彼女の気迫ならば、潰れていてもおかしくはない。

たとえるなら、怒れる。暗黒のドラゴン。

みるみる室温が下がっていくのを感じながら、私は身の危険を感じていた。
きっと、番に目移りしたら潰された後に、間違いなく殺される。

「サラ。落ち着いてくれ、その、私は番などに目移りなんてしない」

落ち着けようと、口から出まかせを言うと、サラはニッコリと笑った。
しかし、その笑顔は貼り付けられた物で心にも無いもののように思えた。
表面上の笑顔って怖い。

「そうですか?本当に?本気で?」

畳み掛けるような質問。部屋の壁にパシリと亀裂が走るのが見えた。
この建物大丈夫か?

こ、殺される。

「本当だ!絶対に目移りなどしないと誓う!」

私がヤケクソで言うと、ようやく信じてくれたのか、サラは「良かった」とへにゃりと笑ったのだ。
笑った顔はまさに阿修羅だ。

それを見て言い知れない恐怖を感じていた。
彼女の持つオーラは、人間の持つ物ではない。どう見ても獣人よりも上位の存在だ。

彼女は人なのだろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...