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ナイジェルとセルドリスの確執は奥が深そうな気がした。
「セルドリスは、私の事を嫌っているから。不幸になる相手と結婚させたかったんだろう」
ナイジェルは、セルドリスの事を嫌っている様子はなさそうに見える。
ここまでのことをされているのに。
嫌いな相手に対して、不幸になれ。と思うのは勝手だ。
しかし、そのせいでたくさんの人が振り回されて、辛い思いをする事は間違っている。
私と同じようにナイジェルも悪意を向けられる事に慣れているように見えた。
ズキリと胸が痛む。こんなにも優しい人が苦しむのはとても悲しい。
ナイジェルの話を聞いて、私はある疑問が浮かんだ。
「……あの王命には、なぜ穴があったんですか?わざとあるようにしか思えなくて」
ナイジェルを不幸にさせたい。と、思っているわりには、王命はどうとでも取れるような内容だった。
血縁関係なんて、書面でならいくらでも捏造できる。
「わざとだよ。試してるんだよ。自分に忠誠心があるかどうか」
「……なぜ?」
ナイジェルが言っている事が理解できなかった。
「私にはわからないな。理解できないから」
「こちらの都合でこんな形での婚約になってしまい。申し訳ありません」
「そもそも、王命が出てから相手は期待してなかったよ」
ナイジェルは力無く笑った。
そして、私に顔を近づけてこう言った。
「でも、君はとても魅力的だよ。だからね、婚約者が交換になって実は凄く嬉しいんだ」
また、ナイジェルの顔が近づき唇が頬に触れそうになる。
漆黒の睫毛は伏せられて、私は顔の距離よりも睫毛の長さに驚いていた。
その瞬間だ。
「やめろ!」
今まで黙っていたマリカがナイジェルを強引に引き剥がした。
そして、「嫌われたくなかったら距離感をもっと考えて行動しろ」と怒り出した。
「私は自分の悪い噂なんていくらでも知っている。出し抜かれたなんて思ってない。他の誰でもない。君がよかった」
「君がよかった」と、今まで生きてきて、兄以外の人間にそう言われた事はあっただろうか。
必要とされる事がこんなにも嬉しいなんて思いもしなかった。
鼻の奥がツンと痛くなって、涙がこぼれそうになり私は唇を噛み締めた。
初対面だというのに、ナイジェルはずっと私に優しくて好意的で、記憶の中のレオナルドのようだ。
私も、他の誰でもない。ナイジェル様がよかった。
辛い環境から逃げ出すつもりで、この道を選んだけれどそれで良かった。
不幸に酔いしれ、ゆっくりと心が死んでいくのを待たなくてよかった。
「……ところで、なぜ侍女や護衛もつけずに出たんだ?逃げられたのか?」
純粋な心配からでた言葉に、私は誰かに頼るという事をするべきだったと後悔した。
護衛もつけずに貴族の令嬢が一人旅をするなんて、常識的にあり得ないと分かっていたが、それ以外の方法がなかった。
だからそうしただけ。
でも、もっと早くに彼に助けを求めても良かったと今なら思う。
護衛の話をしたら二人ともやはり憤っていた。
「ありえない。嫁入りの令嬢の護衛を拒否するなんて何様のつもりですか」
マリカは、眦を吊り上げて声を荒らげだす。
「しかも、銀貨数十枚って……。バカにするにも程がある」
ナイジェルは、静かに怒りを露わにさせた。
「辺境伯を侮辱しているな。抗議文を送ろう。ペナルティは、……向こうの対応で考えようか」
ナイジェルは、本気で怒ると笑顔が出るのか、それが怖いと改めて思った。
~~~
お読みくださりありがとうございます
今日の更新はこれで終わりです
感想、お気に入り登録、エールありがとうございます
更新頑張ります
次は、ナイジェル視点です
二話で終わります
ナイジェルとセルドリスの確執は奥が深そうな気がした。
「セルドリスは、私の事を嫌っているから。不幸になる相手と結婚させたかったんだろう」
ナイジェルは、セルドリスの事を嫌っている様子はなさそうに見える。
ここまでのことをされているのに。
嫌いな相手に対して、不幸になれ。と思うのは勝手だ。
しかし、そのせいでたくさんの人が振り回されて、辛い思いをする事は間違っている。
私と同じようにナイジェルも悪意を向けられる事に慣れているように見えた。
ズキリと胸が痛む。こんなにも優しい人が苦しむのはとても悲しい。
ナイジェルの話を聞いて、私はある疑問が浮かんだ。
「……あの王命には、なぜ穴があったんですか?わざとあるようにしか思えなくて」
ナイジェルを不幸にさせたい。と、思っているわりには、王命はどうとでも取れるような内容だった。
血縁関係なんて、書面でならいくらでも捏造できる。
「わざとだよ。試してるんだよ。自分に忠誠心があるかどうか」
「……なぜ?」
ナイジェルが言っている事が理解できなかった。
「私にはわからないな。理解できないから」
「こちらの都合でこんな形での婚約になってしまい。申し訳ありません」
「そもそも、王命が出てから相手は期待してなかったよ」
ナイジェルは力無く笑った。
そして、私に顔を近づけてこう言った。
「でも、君はとても魅力的だよ。だからね、婚約者が交換になって実は凄く嬉しいんだ」
また、ナイジェルの顔が近づき唇が頬に触れそうになる。
漆黒の睫毛は伏せられて、私は顔の距離よりも睫毛の長さに驚いていた。
その瞬間だ。
「やめろ!」
今まで黙っていたマリカがナイジェルを強引に引き剥がした。
そして、「嫌われたくなかったら距離感をもっと考えて行動しろ」と怒り出した。
「私は自分の悪い噂なんていくらでも知っている。出し抜かれたなんて思ってない。他の誰でもない。君がよかった」
「君がよかった」と、今まで生きてきて、兄以外の人間にそう言われた事はあっただろうか。
必要とされる事がこんなにも嬉しいなんて思いもしなかった。
鼻の奥がツンと痛くなって、涙がこぼれそうになり私は唇を噛み締めた。
初対面だというのに、ナイジェルはずっと私に優しくて好意的で、記憶の中のレオナルドのようだ。
私も、他の誰でもない。ナイジェル様がよかった。
辛い環境から逃げ出すつもりで、この道を選んだけれどそれで良かった。
不幸に酔いしれ、ゆっくりと心が死んでいくのを待たなくてよかった。
「……ところで、なぜ侍女や護衛もつけずに出たんだ?逃げられたのか?」
純粋な心配からでた言葉に、私は誰かに頼るという事をするべきだったと後悔した。
護衛もつけずに貴族の令嬢が一人旅をするなんて、常識的にあり得ないと分かっていたが、それ以外の方法がなかった。
だからそうしただけ。
でも、もっと早くに彼に助けを求めても良かったと今なら思う。
護衛の話をしたら二人ともやはり憤っていた。
「ありえない。嫁入りの令嬢の護衛を拒否するなんて何様のつもりですか」
マリカは、眦を吊り上げて声を荒らげだす。
「しかも、銀貨数十枚って……。バカにするにも程がある」
ナイジェルは、静かに怒りを露わにさせた。
「辺境伯を侮辱しているな。抗議文を送ろう。ペナルティは、……向こうの対応で考えようか」
ナイジェルは、本気で怒ると笑顔が出るのか、それが怖いと改めて思った。
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二話で終わります
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