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 ライザは、自分が真っ先に挨拶された事に対して全く疑問に思っていない様子で無邪気に微笑んだ。
 
「ええ、リジーさんお久しぶりです。お姉様のドレス楽しみですね!自分の事じゃないのにワクワクします!」

 当事者を置いてけぼりのやり取りに、私は苦笑いを浮かべたくなる。
 リジーが作りたいのは、私のドレスではなくてライザのドレスだ。
 見ていたらそれがよくわかる。

「ふふふ、ライザ様は相変わらずお美しいですね。そうですね。まずはパンフレットから」

 リジーは、言うなりパンフレットを私の前ではなく、母とライザの目の前に置いた。
 パンフレットのなかのドレスは全て、フレディの瞳の色でもあるグリーンばかりだ。
 その中で、一際目を引いたのは、一番フレディの瞳の色に近くて、洗練されたデザインのドレスの絵だ。
 そのドレスが似合いそうなのは、私ではなくてどう見てもライザだ。
 母も同じことを思ったようだ。そのデザインを手に取るなりこう言った。

「このドレス、ライザが似合いそうね」

「でしょう?」

 リジーは瞳を輝かせてそう返した。どう考えても、ドレスをライザに着させたいがためにデザインをパンフレットの中に入れたように見える。

「わあ、素敵」

 ライザもデザイン画を見て、うっとりとした顔をしている。
 当初の目的など二人とも忘れている様子だ。

「リジーは、いつもセンスがいいから。これをライザ用に作ってちょうだい」

 母は他のドレスには目もくれずに依頼をした。

「アストラお嬢様のドレスはどれになさいますか?」

「お姉様なら、どのドレスも……、ゴホッ」

 ライザは、言いかける途中で咳き込み出した。
 そこで慌て出したのは母だ。「大丈夫?」と声をかけながら背中を撫で始めた。

「アストラのドレスは適当に似合いそうなものでいいわ」

 母はこれ以上話したくないと言わんばかりに席を立つ。

「では、これは?」

 リジーが指差したのは、古いデザインの物でとても野暮ったかった。
 おそらく売れ残りがありどうしても処分したいのだろう。

「そうね。それでいいわ」

 母は見ようともせずに、それでいいと返した。

「かしこまりました」

 リジーはニンマリと笑って返事をした。

「さあ、ライザ。ベッドで休みましょう」

 母は、使用人を呼び慌ただしく退室した。
 残ったのは、リジーと私だけだ。
 リジーは、先ほど見せていた愛想笑いを消して無表情になっていた。
 いつもそうだ。
 彼女は私に笑顔すら向ける価値がないと思っている。

「アストラ様。採寸はしなくても結構です。元々ある物ですから、日にちが近くなったら改めてサイズ調整いたします」

 リジーは、私のドレスではなくてライザのドレス作りに専念したいのだろう。

「老婆みたいな貴女には、十分すぎるドレスですよ」

 本当なら着せてやりたくもない。と、言外に滲ませているのが嫌でもよくわかる。
 痩せぎすで真っ白な髪の毛をした私は、老婆のようにしか見えない事を揶揄しているのだろう。

「……」

 私の髪の毛は老婆のよう真っ白だ。
 昔は、銀色の髪の毛だった。ある日を境にこうなってしまった。
 でも、それに気がついてくれた人は誰一人としていない。
 リジーはすぐに立ち去り。一人で残された部屋には、誰も来る気配はない。
 誰も私のことを気にかけようともしない。

「ちゃんと、誕生パーティーも婚約発表もできるのかしら」

 不安で仕方なかった。
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