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西田の優しさ
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「よう……」
取り調べを終えた私は西田に声をかけられた。
「あの、本来なら、こんなこといけないんですけど」
取り調べをしてくれた警察官が西田に注意をするが「まあ、まあ、細かいこと言うなよ。許せよ」言われて素直に引き下がった。
多目に見てくれるという事か。
「真殿さん。あんまり気に病むなよ。俺に言えるのはそれだけだ」
西田は的確な言葉を出す。
「アンタみたいな人間は、悪くなくてもすぐに自分を責めちまうんだ」
恐らく奏介の高カリウム血症や、与一のPCAに気がつけなかった事を言っているのだろう。
実際にその通りで気がついてどうにかなったか、ならなかったは別として看護師としての資質に問題があることを認識させられた気がした。
「そうかもしれません」
「俺は、アンタみたいな一生懸命な看護師は大好きなんだ。まあ、ちょっと空回りしてるところはあるけどな」
西田は働いている私の、そういうところをよく見ていたのだろう。今まで頑張ってきた事を否定されなかった。
それだけで、嬉しかった。
「だからさ、あそこの職場は辞めてもいいけどな、看護師はやめるな、気がつけなかった失敗を次にしなければいいんだ」
「はい」
西田なりに一生懸命に考えて言ってくれた言葉は、私の今の逆立った心を優しく包んでくれるようだった。
けれど、私は続けたくても看護師をする資格はもうない。
だってそうじゃないか、奏介の異変に薄々気がついていた。
いつだって声をかけられたはずだ。だけど、それをしなかったのは……。
朔也に与一の遺産を少しでも多く手にとって欲しかったからだ。私はどこまでも卑怯で醜い女だ。
才賀家に利用され続けた朔也に絶対に幸せになって欲しかったのだ。
「ありがとう。西田さん」
「いいって。元気で過ごせよ」
最低最悪だ。
こんなにも気遣ってくれる人にすら、自分を偽っているのだから。もう、きっと西田とも会うことはないだろう。
私は自分の欲望のために一番大切な物を捨ててしまった。
もう、看護師に戻るつもりなんてない。こんな人間が人に寄り添うことなんて出来るはずもないのだから。
「本当はな。被害者同士が仲良くするって俺としてはおすすめできないんだ」
西田がポツリと呟いた。
「だけどな、アンタらはどっか似てるんだよ。兄妹でもないのに」
「え?」
私は突然そんな事を言われて戸惑ってしまう。
「下手したら普通の兄妹よりも深い絆なのかもな。まぁ、あんな事件を二人で経験したらそうなるかもしれないけどな」
西田は朔也と私の事を話しているのだろう。
「二人で乗り越えるんだな。言葉に出さずともお互い大切に思ってるんだろ?」
「はい」
西田の言う通りだ。私にとって朔也はとても大切な人だ。だからこそ二度と会ってはいけないと思っていた。
いや、今も思っている。私という存在が彼にとって大きな影にならないだろうか。
「幸せになれよ。俺から言えるのはそれだけだ。血の繋がりなんか案外どうでもいい事だったりするんだから」
西田は心の底から私の幸せを願っているのだろう。
「じゃあな」
西田は『またな』とは言わなかった。
それが、本当の別れの挨拶だと気がつくのに時間はかからなかった。
「さようなら。本当に今までありがとうございました」
私はようやくそれだけ言うと取調室をあとにした。
今、とても朔也に会いたかった。
取り調べを終えた私は西田に声をかけられた。
「あの、本来なら、こんなこといけないんですけど」
取り調べをしてくれた警察官が西田に注意をするが「まあ、まあ、細かいこと言うなよ。許せよ」言われて素直に引き下がった。
多目に見てくれるという事か。
「真殿さん。あんまり気に病むなよ。俺に言えるのはそれだけだ」
西田は的確な言葉を出す。
「アンタみたいな人間は、悪くなくてもすぐに自分を責めちまうんだ」
恐らく奏介の高カリウム血症や、与一のPCAに気がつけなかった事を言っているのだろう。
実際にその通りで気がついてどうにかなったか、ならなかったは別として看護師としての資質に問題があることを認識させられた気がした。
「そうかもしれません」
「俺は、アンタみたいな一生懸命な看護師は大好きなんだ。まあ、ちょっと空回りしてるところはあるけどな」
西田は働いている私の、そういうところをよく見ていたのだろう。今まで頑張ってきた事を否定されなかった。
それだけで、嬉しかった。
「だからさ、あそこの職場は辞めてもいいけどな、看護師はやめるな、気がつけなかった失敗を次にしなければいいんだ」
「はい」
西田なりに一生懸命に考えて言ってくれた言葉は、私の今の逆立った心を優しく包んでくれるようだった。
けれど、私は続けたくても看護師をする資格はもうない。
だってそうじゃないか、奏介の異変に薄々気がついていた。
いつだって声をかけられたはずだ。だけど、それをしなかったのは……。
朔也に与一の遺産を少しでも多く手にとって欲しかったからだ。私はどこまでも卑怯で醜い女だ。
才賀家に利用され続けた朔也に絶対に幸せになって欲しかったのだ。
「ありがとう。西田さん」
「いいって。元気で過ごせよ」
最低最悪だ。
こんなにも気遣ってくれる人にすら、自分を偽っているのだから。もう、きっと西田とも会うことはないだろう。
私は自分の欲望のために一番大切な物を捨ててしまった。
もう、看護師に戻るつもりなんてない。こんな人間が人に寄り添うことなんて出来るはずもないのだから。
「本当はな。被害者同士が仲良くするって俺としてはおすすめできないんだ」
西田がポツリと呟いた。
「だけどな、アンタらはどっか似てるんだよ。兄妹でもないのに」
「え?」
私は突然そんな事を言われて戸惑ってしまう。
「下手したら普通の兄妹よりも深い絆なのかもな。まぁ、あんな事件を二人で経験したらそうなるかもしれないけどな」
西田は朔也と私の事を話しているのだろう。
「二人で乗り越えるんだな。言葉に出さずともお互い大切に思ってるんだろ?」
「はい」
西田の言う通りだ。私にとって朔也はとても大切な人だ。だからこそ二度と会ってはいけないと思っていた。
いや、今も思っている。私という存在が彼にとって大きな影にならないだろうか。
「幸せになれよ。俺から言えるのはそれだけだ。血の繋がりなんか案外どうでもいい事だったりするんだから」
西田は心の底から私の幸せを願っているのだろう。
「じゃあな」
西田は『またな』とは言わなかった。
それが、本当の別れの挨拶だと気がつくのに時間はかからなかった。
「さようなら。本当に今までありがとうございました」
私はようやくそれだけ言うと取調室をあとにした。
今、とても朔也に会いたかった。
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