夕顔は朝露に濡れて微笑む

毛蟹葵葉

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真相3

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「麗美さんの体内から。幻覚作用のある物質が検出されました」
 それが、何なのか私には何となく理解できた。それは、真人が残してくれたヒントだ。
「麦角菌ですか?」
「よくご存じで。押収されたライ麦パン全てからそれが出てきました。ちなみにこれは廃棄処分予定の物だったそうです。与一さんの指示で持ち込んだようです」
 つまり、与一は麗美を確実に錯乱状態に陥らせるために持ち込んだということになる。
「それだけではありません。真人さんと香織さんの体内からも幻覚作用のある物質が検出されました」
「麦角菌ですか?」
 真っ先に疑ったのはそれだ、けれど、真人はすぐにそれを見抜いていたようだった。朔也にパンを出さないでくれと指示していたのを私は見ていた。
 彼らにどうやってそれを食べさせたのだろう?
「いいえ、ダチュラです」
「ダチュラ?」
「チョウセンアサガオと説明した方が分かりやすいですかね」
 サンルームで真人が話していた幻覚作用のある植物の中に、確かそれが含まれていた。
「どうやって二人はそれを摂取したのですか?」
「島に持ち込んだ食品の中に混入していました。食品の指示をしたのは与一さんです。関係者からの証言を貰っています」
「それって」
「はい。関係者はダチュラの粉末をサプリメントと説明をされていたようですが」
 与一がこうなるように仕向けたという事になるではないか。運良く朔也と私と奏介はそれを食べなかった事になる。
「ダチュラを摂取した真人さんと香織さんは、錯乱状態に陥って殺しあった可能性が高いです」
 とても信じられない話だが、錯乱状態に陥った二人なら十分にありえる。人は何をするのかわからない生き物だ。
 錯乱状態で私に向かってきた麗美を見ているとそう思うのだ。
 嫌いが殺意にかわる瞬間。
 二人は愛し合っていたけれど、もしも、真人が香織が殺人犯と知ってしまったら?恐怖で彼女を手にかけるかもしれない。
 そうなるように与一は仕向けていた。
「手始めとして彼は自殺をして、私達を疑心暗鬼に陥らせようとしていたんですね」
 しかし、息を引き取るよりも先に香織に殺されてしまった。もしかしたら、それすらも彼の計算なのかもしれない。
「恐らくそうです」
「与一さんが起こした事件ではありませんか」
「はい」
「食材も全て決まっていた。個人の好みにも合わせてあった」
 突飛でいて、何もかもが計算されている。これは、みんなを巻き込んだ与一の復讐劇のようだ。
 与一の娘ではない私も憎しみの対象だったのだ。死ぬ前に殺してやろうと思ったのかもしれない。
「私も殺されていた?」
「そうかもしれません」
 何故だろうとても引っ掛かるのだ。なぜ、冷静な香織が突発的に3人もの人をなぜ殺したのだろう。あんなにも気弱な彼女が、何がトリガーだったのだろう。

 誰かが彼女の背中を押したのではないのか?


 与一の思惑通りに事が本当に進む確率は奇跡のようだと私は思う。
 誰かがそうなるように囁いたのではないだろうか。
 たとえば『麗美が真人の婚約が確定した』『遺言書に麗美と結婚しなければ相続権がないと書かれる予定だ』と。
 真人と別れたくない、遺産相続したい香織はその言葉を鵜呑みにして行動を起こした。
 それが出来るのは一人しかいない。
 それに、なぜ奏介が高カリウム血症になったのだろう?奏介用に食材はわけられてあったのに。私の目があったのにどうやって?
 彼は甘い言葉で囁いて、言葉巧みに奏介にドライフルーツを食べさせていたのではないのだろうか?
 与一の自殺すら真実なのかはまだ信じられない。
 だってそうじゃないか。これから死ぬ人間が私とまた会いたいなんて話すだろうか?
 それが、与一の演技だったらまた別だが。
「朔也さん……」
 朔也は私の知らないところで、何をあの島でしていたのだろう?どこまで与一の望み通り動いたのだろう?
 頭に浮かぶのは朔也への無数の疑問だ。
 そもそも、与一本人から全て自分で仕組んだ事だと聞いていない。聞けるはずもないのだが。

 だけど、私にはなにも言えない。
 だってそうじゃないか。実の母親を殺されて、飼い殺される未来しかない。産まれたときから彼は与一に利用されていた。
 そんな彼が逃げるためにこれを計画したのなら。私は朔也に同情していた。
「朔也さんは罪に問われますか?その、食事を用意したのは彼ですよね」

「どうでしょうね。彼が直接手を下したわけではありませんから、それはないでしょう」
 私はその言葉を聞いて安堵した。出来ることは、余計な話しをしないだけだ。
 この疑念は、叶わない恋心と一緒に胸にしまっておく方がいいだろう。

「大筋の説明は終わりましたので、取り調べを始めたいと思います」
 私は再び顔が強張るのがわかった。
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