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再会

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 今日もマスコミが多い。地上から無数のカメラマンとキャスターがギャーギャーとわめくような声が聞こえる。
 あれから1ヶ月過ぎた。手の傷は癒えて痕が残ってしまったけれど、日常生活には問題ないそうだ。私が病室でぼんやりと外を眺めていると、コンコンとノックの後にドアが開いた。
「よう」
 そこに現れたのは、気まずそうな雰囲気を出す西田だった。久しぶりに彼を見た気がする。私は挨拶も出来ずに仕事を辞めてしまっていた。
 あまりの突然さに驚きつつも、私は何となく彼が事件の関係者であることを察していた。
 病室に入ってもいいのは、事件の関係者と身内だけ。
「西田さん、あの、」
「まぁ、つまりそういうことだ」
 やはり、彼は事件の関係者ということになる。
「名前を聞いた時な、アンタじゃないといいなって思ったんだけどな、でもさ、透析行っても会わないし、気になって電話替わって貰っちまったよ。あんな事言って仕事の範囲を越えてるな」
 彼は自嘲するように目を伏せた。
「あの時の警察の方だったんですね」
「まぁな、名乗らなくて悪かったよ。普段から仕事の事なんて言えねぇから、知らないのは仕方ないだろ」
 あの時、聞かないで欲しそうな空気があったので、私は深く聞くことが出来なかった。
「そうですね」
 西田は気遣わしげにこちらを窺っていた。
「あの、なにかテレビでも観ますか?」
 無音なのもさすがに息が詰まりそうで、私がリモコンを手に取ると。西田は苦笑いしてそれを取り上げる。
「今は、やめといた方がいい。っとに誰がリークしたんだか」
 西田は連日の報道を観ているのだろう、一度だけ興味本位で観た番組は面白おかしく色々な事を言い続けていた。マスコミの対応には精神的にくるものがある。
 プライバシーや配慮なんて言葉はなく、ヅカヅカと人の心の中に土足で入り傷をつけて、何もかもを奪い去っていくのだ。
 私の顔は隠されていたが、それを知られるのも時間の問題だろう。
 私も被害者という事になるのにそんな事など関係なく、思い出したくない事を彼等は娯楽のように繰り返しテレビで報道しているのだろう。
 病院の前に詰めかけているカメラの数を見るだけでわかる。
 病院にだってかなり迷惑をかけている。
 気分はとても悪い。
「まぁ、あのさ。そんなに気に病むなよ。おい、隠れてねぇで出て来いよ。連れてきてやったんだからさ」
 再びドアが開くと、部屋に入ってきたのは、いくぶんかやつれた朔也の姿だ。
 彼を見るだけで忘れかけていた想いが燻り、また私の心をギリギリと締め付けてくるのがわかる。
 離れていても彼の事を忘れられなかった。
「鳴海さん……」
 再会を喜ぶよりも、私は彼の事が心配で仕方なかった。
 こんなにも痩せてしまったということは、執拗にマスコミに追い回されていたのかもしれない。
 サイガフーズと決別するための後処理も少しはあったかもしれないけれど。心労がとても強そうだった。
「あぁ!もう、なんで辛気臭くなるのかね。心配だったんだろう?事情聴取始まったら滅多に会えなくなるから来たんだろう?さっさと話しとけよ!」
 西田は複雑な気持ちでお互いを見つめる私たちにもどかしそうに怒り出す。そこには、思いやる気持ちが強くあった。
「はい。今まで会いに行けなくて申し訳ありません」
 朔也は歯切れの悪い返事をする。
「逢いたかったです」
 私はその一言で人生の全てが報われたようなそんな気がした。自己嫌悪で病室でウジウジしていたことすら忘れられるくらい、嬉しい。
 本当は二度と逢えないと思っていた。
「私もです」
 朔也の手が私の傷跡の残る手をそっと包み込む。忘れかけていた夕顔の蔓が、再び私の身体に絡み付くように感じた。
 この恋はきっと忘れられないだろう。
 だけど、忘れなくても。報われなくても。持ち続けてもいいじゃないかと私は思う。何一つ悪いことなんてしていないのだから。
 私達は言葉を交わす事なく互いを見つめ合った。
 彼が私をどう思っているのかわからないけれど、少なくとも大切に思ってくれていることだけは、手の温もりから伝わってくるようだ。
「おい、そろそろいいか?なにも話してないようだけど、本当にいいのか?お前ら」
「あぁ、はい」
 朔也は慌てたように私の手から自分のそれを離した。言葉はなくても思いやる気持ちは強く伝わってきた。
「本当は、今、色々話したいことはあるんだけどな。事情聴取の時に話す事になってるから我慢する」
 西田は困ったような微笑みを浮かべる。気不味い場面に居合わせたように。
「?はい」
「俺は知りあいだから、真殿さんの事情聴取は出来ないんだよな。だけど、担当の奴にはくれぐれもと言っておく。だから不安にならないようにな」
 西田なりに私を本当に気遣ってくれているのだろう。
「はい」
「一人だとか思うなよ。みんなついているんだから」
 それは、西田の雰囲気からすぐにわかった。どれだけ私の事を心配してくれていたのだろう。心が温まるように感じた。
「はい。ありがとうございます」
「あの、僕は励ましに来たのになんでそんな事言うんですか?」
 朔也はどこか恨めしそうに西田を睨む。
「悪いな。なんか不安そうな顔してたからつい。本当にお前も何か言えよずっと一緒に助け合ったんだろ」
「そうですけど、顔を見ると懐かしすぎて言葉がでなくて」
 私は家族に何年ぶりに逢ったようなそんな心境で、会えば沢山話したい事があるのに嬉しさで言葉が出ない。
 きっと、朔也も同じなのだろう。
「わかります」
「まだ、若いってのに枯れてんな。こんな嫌になる毎日じゃわからなくもないけどな、早く落ち着くといいな」
 乱暴な一言だがそこには、あまり事件を触れてほしくなかった私の思いを汲み取るように優しい。
「はい」
 落ち着けばまた何か変わるのだろうか?今は全く想像ができない。
 仕事は結局辞めてしまったし。生活はどうしたらいいのだろうか?ふと、不安が頭を過る。
「また、不安そうな顔してる。なんとかなるって、俺だって透析しながら仕事してるんだから」
 西田は私の気配を察知したようで、優しく励ましてくれた。
「はい。そうですね。きっとなんとかなる」
 私はうっすらと微笑む。
「じゃあ、また。取調べが終わったら声かけるな」
 今度は西田が私の手を握りしめてくれた。
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