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香織の死
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「あの、私がやりますから」
「いえ、これくらいやれます。それに支えがある方が歩きやすいですし」
出来上がった食事のカートをどちらが運ぶかで私達は話し合っていた。
朔也の言っている事は、シルバーカーを押す高齢者と同じような事だ。
「わかりました。それ、なんだか高齢者みたいな言い方ですね」
「ふふふ」
朔也は声を出して笑う。
「いきましょう」
香織と真人が部屋で待っているはずだ。二人は何をしているのだろう。きっと、寄り添うように過ごしていると思うけれど。
「私の作った物で大丈夫かしら?」
「作り方には問題はなかったので大丈夫ですよ。たぶん」
朔也は少しだけ不安になるような事を言う。たぶんわざとだ。
「着きましたよ。失礼します。朔也です。お食事をもって参りました」
コンコンと香織の部屋をノックするが、反応は全くない。
「……」
互いに顔を見合わせて私達は不安を覚えた。
「真人様?香織様?」
朔也は大きな声を出してノックをするが反応はない。
「開けましょう」
私の言葉に朔也は頷き、ドアノブに手をかけた。
「失礼します!」
勢いよくドアを開けると、そこには血溜りの中、右手に本を持った真人が左手でお腹の傷を押さえるように、うつ伏せで倒れていた。
そのお腹には深々とナイフが刺さっている。
「真人様!?」
朔也がしゃがみこみ彼を抱き起こすが、虚ろな目線は虚空を見ていた。
私は、近寄ってすぐに彼の首筋に触れるが、脈拍はなかった。
出血量からして、恐らく今生きていたとしても助からない可能性が高い。
私が首を横に振ると朔也は痛みに耐えるように顔を歪めた
咄嗟に香織の姿を探すと、すぐに彼女は見つかる。
彼女は仰向けで目を閉じて倒れていた。
「香織さん!?」
香織の首筋にも同じように触るが、脈はない。その首には赤い絞められた手型があった。
「あ、そんな。嘘でしょう?」
私は全身の力が抜けたかのようにその場に座り込む。
「今度はなんの騒ぎ?」
背後から奏介の呆れたような声がした。
「奏介さん。二人が」
慌てて振り返ると彼は、二人の遺体を見て一瞬だけ眉をひそめるだけで、すぐに私を見つめる。
そこには何も感情はない。戸惑いも。悲しみも。恐怖も。何を考えているのか全く読めない。
「だったら何?」
その口から出た言葉は、心底どうでも良さそうなものだった。
カッと火がついたように、私はそれに腹が立つのがわかる。この男はどこまで身勝手なのだろう。何年もの付き合いのある従兄弟がこんな形で殺されているというのに、それに何も感じないなんて。
「何ですか!大切な従兄弟が亡くなってよくそんな事が言えますね!」
私は苛立ち混じりに奏介を睨み付ける。怒ると思わなかったのか彼は少しだけ驚いた表情をしてすぐに無表情になった。
「僕は殺されたくないから部屋からもう出ない。誰も信用なんて出来るものか。どうせお前らがやったんだろ」
しかし、奏介は、それに取り合う様子もなく。己の考えを淡々と話す。
まるで、私達が犯人だと言わんばかりだ。
「朔也。それに、もう食事は出さなくていい」
「え?」
「どうせ、毒が入っているんだろう?」
奏介は、ギラギラと目を輝かせて朔也を睨み付ける。それには鬼気迫る物があった。
「何を言って」
「そうじゃないか。僕の身体はどんどん動きにくくなってる。胸も苦しい」
「それは……」
水分を過剰に摂取した事による。肺に水が溜まっている状態ではないのだろうか?心不全になりかけているのかも。私は奏介の訴えに瞬時に考えを巡らせる。
「何も言わなくていい!わかってるよ。みんなにやってるんでしょ?」
しかし、奏介は私の言葉を聞きたくないと遮る。朔也がここにいる人間全員に毒を盛っているような物言いだ。
「そんな事しませんよ。貴方たちではありませんから」
朔也の冷たい言葉に私は引っ掛かりを感じた。今まで誰も口を開かなかった彼らの秘密の事だろうか。
「いえ、これくらいやれます。それに支えがある方が歩きやすいですし」
出来上がった食事のカートをどちらが運ぶかで私達は話し合っていた。
朔也の言っている事は、シルバーカーを押す高齢者と同じような事だ。
「わかりました。それ、なんだか高齢者みたいな言い方ですね」
「ふふふ」
朔也は声を出して笑う。
「いきましょう」
香織と真人が部屋で待っているはずだ。二人は何をしているのだろう。きっと、寄り添うように過ごしていると思うけれど。
「私の作った物で大丈夫かしら?」
「作り方には問題はなかったので大丈夫ですよ。たぶん」
朔也は少しだけ不安になるような事を言う。たぶんわざとだ。
「着きましたよ。失礼します。朔也です。お食事をもって参りました」
コンコンと香織の部屋をノックするが、反応は全くない。
「……」
互いに顔を見合わせて私達は不安を覚えた。
「真人様?香織様?」
朔也は大きな声を出してノックをするが反応はない。
「開けましょう」
私の言葉に朔也は頷き、ドアノブに手をかけた。
「失礼します!」
勢いよくドアを開けると、そこには血溜りの中、右手に本を持った真人が左手でお腹の傷を押さえるように、うつ伏せで倒れていた。
そのお腹には深々とナイフが刺さっている。
「真人様!?」
朔也がしゃがみこみ彼を抱き起こすが、虚ろな目線は虚空を見ていた。
私は、近寄ってすぐに彼の首筋に触れるが、脈拍はなかった。
出血量からして、恐らく今生きていたとしても助からない可能性が高い。
私が首を横に振ると朔也は痛みに耐えるように顔を歪めた
咄嗟に香織の姿を探すと、すぐに彼女は見つかる。
彼女は仰向けで目を閉じて倒れていた。
「香織さん!?」
香織の首筋にも同じように触るが、脈はない。その首には赤い絞められた手型があった。
「あ、そんな。嘘でしょう?」
私は全身の力が抜けたかのようにその場に座り込む。
「今度はなんの騒ぎ?」
背後から奏介の呆れたような声がした。
「奏介さん。二人が」
慌てて振り返ると彼は、二人の遺体を見て一瞬だけ眉をひそめるだけで、すぐに私を見つめる。
そこには何も感情はない。戸惑いも。悲しみも。恐怖も。何を考えているのか全く読めない。
「だったら何?」
その口から出た言葉は、心底どうでも良さそうなものだった。
カッと火がついたように、私はそれに腹が立つのがわかる。この男はどこまで身勝手なのだろう。何年もの付き合いのある従兄弟がこんな形で殺されているというのに、それに何も感じないなんて。
「何ですか!大切な従兄弟が亡くなってよくそんな事が言えますね!」
私は苛立ち混じりに奏介を睨み付ける。怒ると思わなかったのか彼は少しだけ驚いた表情をしてすぐに無表情になった。
「僕は殺されたくないから部屋からもう出ない。誰も信用なんて出来るものか。どうせお前らがやったんだろ」
しかし、奏介は、それに取り合う様子もなく。己の考えを淡々と話す。
まるで、私達が犯人だと言わんばかりだ。
「朔也。それに、もう食事は出さなくていい」
「え?」
「どうせ、毒が入っているんだろう?」
奏介は、ギラギラと目を輝かせて朔也を睨み付ける。それには鬼気迫る物があった。
「何を言って」
「そうじゃないか。僕の身体はどんどん動きにくくなってる。胸も苦しい」
「それは……」
水分を過剰に摂取した事による。肺に水が溜まっている状態ではないのだろうか?心不全になりかけているのかも。私は奏介の訴えに瞬時に考えを巡らせる。
「何も言わなくていい!わかってるよ。みんなにやってるんでしょ?」
しかし、奏介は私の言葉を聞きたくないと遮る。朔也がここにいる人間全員に毒を盛っているような物言いだ。
「そんな事しませんよ。貴方たちではありませんから」
朔也の冷たい言葉に私は引っ掛かりを感じた。今まで誰も口を開かなかった彼らの秘密の事だろうか。
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