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考えなし
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「少し、聞いてもいいですか?」
「はい。何か」
「誰かがここに侵入して、食べ物に何か混入することは可能ですか?」
私の質問に朔也は腕組みをして考えるような仕草を見せる。
「食べ物は基本的に僕が管理しているので、混入させる事は不可能です。作り置きは基本的にしませんから、僕が入れる事は可能ですが。もしかして、僕を犯人だと疑っていますか?」
朔也は私が言いにくくてあの場で言えなかった事を言い出す。少しだけ怒っている。
「あ、その。ごめんなさい。そんなつもりじゃないんです」
犯人だと疑われている事に腹を立てているのかもしれない。私はそう思ってとっさに彼に謝った。
「あのですね、さっき言えたのに、二人きりで確認するなんて、考えなしにもほどがありますよ」
朔也は自分が疑われているような物言いに怒るどころか、私の迂闊さに腹を立てていた。
「僕が二人を殺していたら貴女もここで殺されている」
確かにその通りだ。
「は、はい。そうですが、確証もなにもないのにみんなの前で話して余計な混乱を起こすのもどうかと思いまして」
昨日、私が一方的に責め立てられた件もありあの場ではとても言えなかった。もし、言おうものなら、奏介がここぞとばかりに朔也を責めそうな気がしたのだ。
「なるほど。ここで『僕が』調理するものに関しては僕以外の人間には無理ですね」
朔也は考え込むように頬を掻いた。朔也以外に誰が調理をするというのだろう。
麗美達に料理が出来るようにはとても思えなかった。
「というと?」
「勝手に食材を誰かが持っていくんですよ。ほら見て。ドライフルーツがこんなにも減ってる」
そう言うなり朔也がタッパーを持ち上げて私に見せる。そこには、ドライフルーツは半分入っていた。もとはどのくらい入っていたのだろうか?
「これ、満タンだったんですか?」
「ええ、本当に困ります。多少余裕をもって用意してありますが、こんなふうに食い尽くされてしまうと料理すらままならなくなります」
朔也は勝手に食材を食い尽くす子供を持つ母親のように少し怒っていた。きっと、これをした人物は常日頃からこういうことを平気でしているのだろう。
でも、私も似たような事を昔して、母親に怒られた記憶があった。ふいに思い出すとなんだか寂しくなってしまう。
もう、私を怒ってくれる母親はいないのだ。
「確かにそうね」
「ですからここから勝手に持ち出された物に関しては何も言えません」
何を持ち出されたか朔也は言うことは可能だが、それをどうしたかなんて把握できるわけがない。
「でも、何か引っ掛かるんですよね」
「引っ掛かるというと何がでしょうか?この野菜や果物は全て無農薬です。何か入ってなんかいません。それに、食中毒には気を付けています」
ハッキリとしない私の言葉に朔也は心外だと言わんばかりに、食材は安全だと訴える。
「食中毒……。ノロウイルスで痙攣を起こす幼児は居ますけど、成人では聞きませんし、もしそうならみんな下していますからね」
「……あの、やめてもらえますか?」
「ご、ごめんなさい」
料理中に、食中毒の話を出すのはあまりにも不謹慎で朔也は責めるように睨み付けてきた。
「少し落ち着きませんか?誰が二人を殺したのか知りたいでしょうが、まずは自分の身を守ることを考えなくてはいけません」
朔也はあえて人前でこんなことを聞かなかった私が心配のようだ。確かに向う見ずだったと自分でも思う。
だけど、まだ実感がわかないのだ。
「はい。そうですね。でも、ここにいる誰かが人を殺すなんて信じられません」
「鳴海さんは人がいいんですね。ほぼ初対面で、悪印象しか持たれていないのにそんな事を言えるなんて」
信用できないと言いつつも、やはり私はここの誰かが人殺しをしたなんて信じたくなかった。
疑心暗鬼になって私にしたことと人殺しは全く別だ。
「でも、私は嫌われても仕方ないじゃないですか。人を平気で殺せるような人がどこかに紛れているなんて考えられないんです。『嫌い』や『憎い』と思っても『殺したい』に結び付くなんて」
立場上嫌われるのも、疑われるのも仕方ない事だと私は思っていた。納得は出来ないが。
「貴女は優しいですね」
朔也は何かを懐かしむような微笑みを浮かべる。
「ずっとそのままでいてほしいです。嫌な事。汚い事なんて知らないままでいてほしい」
「違います。みんなそう思ってますよ。私と同じ考えです」
私はとても汚い人間だ。朔也に浅ましくも仄かな恋愛感情を抱き、それを打ち消そうと無様にもがいている。
「どうかな。でも、これだけは。善人面した奴ほど危ない人間なんていない」
確かにその忠告は正しい。最初は優しかった真人は与一が殺された時、私にあの冷たい眼差しを向けたのだから。
「はい。確かにそうかもしれません」
「僕が言えるのはそれだけです。話し込むと先がすすみません。とりあえず作りませんか?」
「わかりました」
私は朔也に言われるままに目の前の物に集中しようとして、ひとつだけ聞き忘れていた事に気がつく。
「ひとつ教えてもらいたいのですが」
「なんですか?」
また私の突然の質問に朔也は困ったような表情をする。
「ここはなぜテレビがないんですか?」
「ああ、ここは、マスコミから逃げるための島ですから。テレビなんて余計な情報なんて必要ないから置いてないのです」
彼らは本当に私という存在を隠したかったのだろう。
「はい。何か」
「誰かがここに侵入して、食べ物に何か混入することは可能ですか?」
私の質問に朔也は腕組みをして考えるような仕草を見せる。
「食べ物は基本的に僕が管理しているので、混入させる事は不可能です。作り置きは基本的にしませんから、僕が入れる事は可能ですが。もしかして、僕を犯人だと疑っていますか?」
朔也は私が言いにくくてあの場で言えなかった事を言い出す。少しだけ怒っている。
「あ、その。ごめんなさい。そんなつもりじゃないんです」
犯人だと疑われている事に腹を立てているのかもしれない。私はそう思ってとっさに彼に謝った。
「あのですね、さっき言えたのに、二人きりで確認するなんて、考えなしにもほどがありますよ」
朔也は自分が疑われているような物言いに怒るどころか、私の迂闊さに腹を立てていた。
「僕が二人を殺していたら貴女もここで殺されている」
確かにその通りだ。
「は、はい。そうですが、確証もなにもないのにみんなの前で話して余計な混乱を起こすのもどうかと思いまして」
昨日、私が一方的に責め立てられた件もありあの場ではとても言えなかった。もし、言おうものなら、奏介がここぞとばかりに朔也を責めそうな気がしたのだ。
「なるほど。ここで『僕が』調理するものに関しては僕以外の人間には無理ですね」
朔也は考え込むように頬を掻いた。朔也以外に誰が調理をするというのだろう。
麗美達に料理が出来るようにはとても思えなかった。
「というと?」
「勝手に食材を誰かが持っていくんですよ。ほら見て。ドライフルーツがこんなにも減ってる」
そう言うなり朔也がタッパーを持ち上げて私に見せる。そこには、ドライフルーツは半分入っていた。もとはどのくらい入っていたのだろうか?
「これ、満タンだったんですか?」
「ええ、本当に困ります。多少余裕をもって用意してありますが、こんなふうに食い尽くされてしまうと料理すらままならなくなります」
朔也は勝手に食材を食い尽くす子供を持つ母親のように少し怒っていた。きっと、これをした人物は常日頃からこういうことを平気でしているのだろう。
でも、私も似たような事を昔して、母親に怒られた記憶があった。ふいに思い出すとなんだか寂しくなってしまう。
もう、私を怒ってくれる母親はいないのだ。
「確かにそうね」
「ですからここから勝手に持ち出された物に関しては何も言えません」
何を持ち出されたか朔也は言うことは可能だが、それをどうしたかなんて把握できるわけがない。
「でも、何か引っ掛かるんですよね」
「引っ掛かるというと何がでしょうか?この野菜や果物は全て無農薬です。何か入ってなんかいません。それに、食中毒には気を付けています」
ハッキリとしない私の言葉に朔也は心外だと言わんばかりに、食材は安全だと訴える。
「食中毒……。ノロウイルスで痙攣を起こす幼児は居ますけど、成人では聞きませんし、もしそうならみんな下していますからね」
「……あの、やめてもらえますか?」
「ご、ごめんなさい」
料理中に、食中毒の話を出すのはあまりにも不謹慎で朔也は責めるように睨み付けてきた。
「少し落ち着きませんか?誰が二人を殺したのか知りたいでしょうが、まずは自分の身を守ることを考えなくてはいけません」
朔也はあえて人前でこんなことを聞かなかった私が心配のようだ。確かに向う見ずだったと自分でも思う。
だけど、まだ実感がわかないのだ。
「はい。そうですね。でも、ここにいる誰かが人を殺すなんて信じられません」
「鳴海さんは人がいいんですね。ほぼ初対面で、悪印象しか持たれていないのにそんな事を言えるなんて」
信用できないと言いつつも、やはり私はここの誰かが人殺しをしたなんて信じたくなかった。
疑心暗鬼になって私にしたことと人殺しは全く別だ。
「でも、私は嫌われても仕方ないじゃないですか。人を平気で殺せるような人がどこかに紛れているなんて考えられないんです。『嫌い』や『憎い』と思っても『殺したい』に結び付くなんて」
立場上嫌われるのも、疑われるのも仕方ない事だと私は思っていた。納得は出来ないが。
「貴女は優しいですね」
朔也は何かを懐かしむような微笑みを浮かべる。
「ずっとそのままでいてほしいです。嫌な事。汚い事なんて知らないままでいてほしい」
「違います。みんなそう思ってますよ。私と同じ考えです」
私はとても汚い人間だ。朔也に浅ましくも仄かな恋愛感情を抱き、それを打ち消そうと無様にもがいている。
「どうかな。でも、これだけは。善人面した奴ほど危ない人間なんていない」
確かにその忠告は正しい。最初は優しかった真人は与一が殺された時、私にあの冷たい眼差しを向けたのだから。
「はい。確かにそうかもしれません」
「僕が言えるのはそれだけです。話し込むと先がすすみません。とりあえず作りませんか?」
「わかりました」
私は朔也に言われるままに目の前の物に集中しようとして、ひとつだけ聞き忘れていた事に気がつく。
「ひとつ教えてもらいたいのですが」
「なんですか?」
また私の突然の質問に朔也は困ったような表情をする。
「ここはなぜテレビがないんですか?」
「ああ、ここは、マスコミから逃げるための島ですから。テレビなんて余計な情報なんて必要ないから置いてないのです」
彼らは本当に私という存在を隠したかったのだろう。
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