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私の初恋の夕顔

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「あの時、そうだったの?」

「はい。僕は貴女の顔が見たかったんです」
 朔也は言葉の意味を理解して全て肯定した。
 私の心に絡み付く、夕顔は既に蕾が綻びかけていた。何もかも全てが手後れだ。自分の兄に恋をしかけていたなんて。
 この想いは私の心をギリギリと締めつけ、ただ胸が苦しい。

 しかし、今はそれにショックを受ける前にするべき事がある。

 麗美の事だ。与一が殺されてから不可解な事ばかり彼女にはあった。私は泣きそうな気持ちを抑えて、無理に表情を取り繕い朔也の方を向く。

「質問してもよろしいでしょうか?」
 まず知らなくてはいけないことは麗美の事だ。彼女はどうやって昨日過ごしたのだろう。
「何でしょう?」
「麗美さんの事です」
「なに?探偵気取りかい?」
 奏介は皮肉な笑みを浮かべ茶化す。少しだけ腹が立ったが、私はそれを無視する。
「彼女は私を閉じ込めてからもずっとああでしたか?」
「え?」
 構わず続けると、奏介は思いもしなかった事を聞かれたようなポカンとした顔をした。
「健康な精神状態で長時間の錯乱状態に陥るはあまりありません。彼女はずっとあの状態でしたか?」
 皆、私の説明に納得したような顔をした。
「確かに……。考えもしなかった」
 奏介は、考え込むように呟く。
「そうだね。何度か人を変えて様子を見に行ったけど。ずっと『殺される』って大騒ぎしていたよ。それに、見てよこの部屋。犯人と争ったにしても、あまりにも乱れているでしょ?」
 私の質問に答えてくれたのは真人だ。彼は部屋の中をもう一度確認するように一眺めした。
 麗美の部屋は片付けがなっていないでは収まらないくらい物が散乱し、陶器なども割れている。
 揉み合うにしても部屋がこのまで乱れるだろうか?
「はい。揉み合ってできただけでないのですね?」
 しかし、彼女は殺されるときどのくらい揉み合ったのか、この部屋では全くわからない。
「そうだね。どれだけ揉み合ったのかこれじゃわからないよね」
 奏介は私の考えと同じようだった。
「部屋の物を投げているようで、凄い物音がありましたよね?」
「うん。確かに麗美さんは感情的になるけど、あそこまではなかったわ」
 朔也の確認するような言葉に、香織はその時を思い出したのか、怯えたように自分の両腕を抱き締め。それを、真人は抱き締めた。
「四人で交代で様子を見たけどずっとあんな感じだったよ」
「そうね。真人さん」
 それは、どう考えても異常だ。まるで、幻覚が見えているような反応だ。ドラッグを使用したような可能性もある。
「そうですか。その、何かドラッグをしていたとか知りませんか?」
 私の一言で三人は怯えたように顔を見合わせた。聞いてみて、関係が薄く弱味を見せたらつつき合うような、従兄弟の彼らにそれがわかるはずもない事に気がつく。
「ないと思う。そう、思いたい。普段から気が短いところはあるけど昨日のように、一日中取り乱す事はなかったと思うよ」
「そうですね」
 真人の返事に朔也は同意するように返事をした。
 「おい!朔也!お前なにか入れたのか?」
 奏介は反射的に朔也を責め立てた。なぜ、突然そんな事を言い出すのだろう。
「僕は貴女たちじゃありませんよ?」
「クソッ」
 奏介は朔也を忌々しそうに睨み付ける。
「だいたいそんな事をしたらすぐに証拠が出ます。僕はそんな事をしません。まずは、お互い殺されないように考えるべきではありませんか?」
 朔也の言う通りだった。助けはすぐには来ないのだから。まずは、生き残る事を考えるべきだ。
「いつぐらいに助けは来ると話していましたか?」
「嵐の影響で明日の昼だそうです」
「明日だって?僕の透析はどうなるんだ?!無能な奴らだ」
 奏介は、苛立ち混じりに叫び出す。
「奏介さん。落ち着いて。きちんと食事と水分を制限できれば問題はありません」
「他人事だと思って……」
 奏介は眦をつり上げて私を見る。しかし、命が関わっている事なのに、何も言わないわけにはいかない。
 このまま彼を放置すると危険だ。何をしでかすのか私にも想像がつかない。

「とにかく落ち着いてお互い考えませんか?」
 朔也の一言に皆小さくため息をつく。確かに私も頭に血が昇りすぎていたかもしれない。
「少しだけ席を外すよ」
「私も」
 そう言うと真人と香織は麗美の部屋から出ていった。
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