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婚約発表当日。
私はケネスから贈られたブラウンのドレスを着た。
フリルなどが控えめに施されて、落ち着いた印象のドレスで私は気に入っていた。

「……仮面さえなければ、何を着ても似合いますね」

支度を終えたアンヌの一言は、褒め言葉ととっておくことにした。
不愉快そうな顔をした執事に呼ばれて、私は馬車に乗ろうと屋敷の廊下を歩いていた。

「まあ、お姉さま。ケネス様からそのようなダサい色のドレスを贈られたのですか?」

急に声をかけてきたのはルシンダだ。
彼女は自分の髪の毛の色に合わせたのか、薄桃色のドレスを着ていた。
今日の婚約発表のパーティに彼女も参加するのだろう。
ルシンダのドレスはフリルやレースなどふんだん使われていて、彼女のためにどれだけお金をかけているのかそれだけでわかる。
反面。私のドレスというと地味もいいところだ。
だからといって悲しい。という気分にはならなかった。
城でのケネスの扱いを私は良くわかっていたので、ドレスを工面してくれた事に感謝すらしていた。
だから、私はルシンダから見て「ダサイドレス」を着ていても悲しいとは思わなかった。
しかし、なんの反応もしないのでルシンダのすぐ隣にいた母が意地悪そうな顔でニヤリと笑った。

「平民に多い色の髪の毛だから、仕方ないけどそんな色のドレスを仕立てるお針子も気の毒よね」

私はここまで人を貶める言葉を、平然と母は吐けるのだろう驚いていた。

「お姉さま。見てください。私のドレス素敵でしょう?早くお城でお姉さまと並びたいわ」

ルシンダはそう言って屈託なく微笑む。
つまり、私と並んでドレスのことで貶めたいのだろう。

「素敵ですね」

「負けた気分ですか?」

ルシンダの一言に、私は彼女のことが哀れに思えてきた。
両親のような人間に育てられたからこそ、彼女はここまで傲慢になってしまった。
それを考えると、私は寂しい思いをしたけれど両親に育てられなくてよかった。
こんなふうに人を貶めていいわけがない。
言った言葉はいつか自分に返ってくるから。

「何に対して勝ち負けなのかわかりませんが、そういうふうにしか物を考えられない事が気の毒だと思いました」

「何ですって!?」

ルシンダと母は取り合わない私に、怒りを滲ませた顔で睨みつけてきた。

「それでは失礼します」

私は少しだけ気分が良くなって二人の前から去った。

二人は私に手出しできないことを知っている。
平民とはいえケネスは王族の血を引いているのだ。たとえ彼が王族の姓を名乗ることができなくても。
私に手出しすれば二人には何かしらペナルティがあるのだから。
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