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それから、私はミラベルの目を盗んでジョンと会うようになった。
ジョンと一緒にいるのはとても居心地がいい。彼は私の聞かれなくない事を絶対に聞いてはこない。
それに、私の顔を見たいとは絶対に言っては来ない。
お互いに訳ありだから。それは当然ではあるのだけれど、それなのに、後ろ暗い事があるような気分になるのは何故だろう。
たぶん、自分の顔を彼に見せることができないからだ。
もしも、素顔を見せてしまえば私は彼に罵倒されるだろう。
そう思うだけで怖かった。
しかし、彼と会わないという選択肢はなかった。
いつものように、ミラベルの隙を見て草原に行くとジョンが待っていた。
「今日は遅かったな」
ジョンは苦笑い混じりだ。かなり待ってくれたようだ。
それにしても今日は風が強い。
「うん、ミラベルが出ていくのが少し遅くて、いつも思うんだけど、毎日ここにきてるの?」
私はフードが飛んで行かないように、手で押さえながら冗談めかして問いかけると、ジョンは曖昧な笑みを浮かべた。
「まあな」
「なぜ?」
「ここが好きだから、俺はお前が来なくなっても毎日来ると思う」
「そう」
ジョンがそう言いたくなる気持ちが少しだけわかる。
私は醜い自分を忘れたくて、けれど、一人になるのは不安だからここに来ている。彼もまた似たようなことを考えて来ているのだろう。
そっとしてほしい。だけど、一人にはなりたくない。
そんな複雑な気持ちに近い。
しかし、確実にわかっていることがある。
私たちはいつか二度と会わなくなる。そんな気がするのだ。
「お互い訳ありだからな、いつか会えなくなるだろうな」
その口ぶりからジョンは遠くない未来に、確実にこの地から離れるのがわかった。
寂しいと思う。しかし、彼を引き止める事は私にはできない。
今できるのは、彼との想い出を大切に心に刻むだけだ。
しかし、別れの日は早く知りたい。
心の準備のために。
「そうね。近いうちに遠くに行く予定があるの?」
「そんなところだ。たまに帰ってくるつもりだが」
私の質問にジョンは曖昧な返事をした。
「ねえ、村長さんの息子さんではないのね」
違うとわかっていたけれど、そうだったら良かったのに。
「そっちの方が良かったか?」
ジョンはクスリと悪戯っぽく笑う。
「そうね、わからない」
「そうか」
わからない。私はきっと一生この地にいるのだと思う。
もしも、ジョンがこの地にずっといるのなら、私の素顔をきっと見られてしまうだろう。
そうなったら。私は彼に嫌われてしまう。思い出は綺麗なままの方がずっといいから。
「……」
「それにしても今日は風が強いな」
何も言わない私に気遣ってなのか、ジョンは話を逸らした。
「そうね」
「気をつけろ。フードが捲れるぞ」
ジョンがそう言った瞬間、大きな風が吹き。
フードが揺らいだ。手で押さえようとしても遅かった。
「危ない」
慌てるジョンの声。明るくなる視界。私は怖くて彼の顔を見ることができなかった。
ジョンと一緒にいるのはとても居心地がいい。彼は私の聞かれなくない事を絶対に聞いてはこない。
それに、私の顔を見たいとは絶対に言っては来ない。
お互いに訳ありだから。それは当然ではあるのだけれど、それなのに、後ろ暗い事があるような気分になるのは何故だろう。
たぶん、自分の顔を彼に見せることができないからだ。
もしも、素顔を見せてしまえば私は彼に罵倒されるだろう。
そう思うだけで怖かった。
しかし、彼と会わないという選択肢はなかった。
いつものように、ミラベルの隙を見て草原に行くとジョンが待っていた。
「今日は遅かったな」
ジョンは苦笑い混じりだ。かなり待ってくれたようだ。
それにしても今日は風が強い。
「うん、ミラベルが出ていくのが少し遅くて、いつも思うんだけど、毎日ここにきてるの?」
私はフードが飛んで行かないように、手で押さえながら冗談めかして問いかけると、ジョンは曖昧な笑みを浮かべた。
「まあな」
「なぜ?」
「ここが好きだから、俺はお前が来なくなっても毎日来ると思う」
「そう」
ジョンがそう言いたくなる気持ちが少しだけわかる。
私は醜い自分を忘れたくて、けれど、一人になるのは不安だからここに来ている。彼もまた似たようなことを考えて来ているのだろう。
そっとしてほしい。だけど、一人にはなりたくない。
そんな複雑な気持ちに近い。
しかし、確実にわかっていることがある。
私たちはいつか二度と会わなくなる。そんな気がするのだ。
「お互い訳ありだからな、いつか会えなくなるだろうな」
その口ぶりからジョンは遠くない未来に、確実にこの地から離れるのがわかった。
寂しいと思う。しかし、彼を引き止める事は私にはできない。
今できるのは、彼との想い出を大切に心に刻むだけだ。
しかし、別れの日は早く知りたい。
心の準備のために。
「そうね。近いうちに遠くに行く予定があるの?」
「そんなところだ。たまに帰ってくるつもりだが」
私の質問にジョンは曖昧な返事をした。
「ねえ、村長さんの息子さんではないのね」
違うとわかっていたけれど、そうだったら良かったのに。
「そっちの方が良かったか?」
ジョンはクスリと悪戯っぽく笑う。
「そうね、わからない」
「そうか」
わからない。私はきっと一生この地にいるのだと思う。
もしも、ジョンがこの地にずっといるのなら、私の素顔をきっと見られてしまうだろう。
そうなったら。私は彼に嫌われてしまう。思い出は綺麗なままの方がずっといいから。
「……」
「それにしても今日は風が強いな」
何も言わない私に気遣ってなのか、ジョンは話を逸らした。
「そうね」
「気をつけろ。フードが捲れるぞ」
ジョンがそう言った瞬間、大きな風が吹き。
フードが揺らいだ。手で押さえようとしても遅かった。
「危ない」
慌てるジョンの声。明るくなる視界。私は怖くて彼の顔を見ることができなかった。
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