婚約者は世紀末

毛蟹葵葉

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ゴリマッチョゲットだぜ!

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2日後に私の目は覚めた。
天蓋付きのベッドはお嬢様の嗜みというやつなのだろう。当然のように私はそこで寝ていた。

「キシリアちゃん!良かった」

滂沱の涙を流しながら、私に抱きつくのはやたらむさ苦しい女性。私の母親のような気がする。
ほのかな香水の香りがただよっているはずなのに、何故か酸っぱい。汗臭い気がする。

ワキガじゃないよね。この人。それにしても……。

彼女の身体は大きい。ドレスがミチミチと食い込み今にも破裂しそうだ。

「すんげー、きんにく」

思わず私は感想を述べてしまった。
筋肉は好きだが、そこまで欲しくはない。嗜み程度に身につけたい物だ。

「あら、キシリアちゃん。貴女にはまだ早すぎるわ。子供のうちに筋肉をつけすぎるのは良くないもの」

母親そう言って微笑むけれど、強者が時折見せる。はかなげな笑顔だ。守ってあげたくなる。
しかし、発言はまさに避妊具を「これなに?」問いかけた毛も生え揃っていない、子供にかけるようなものだ。

「お母様は、昔からそうでしたの?」

それにしても、父親も中々な筋肉だったはずだが、儚さから程遠い母親と何故結婚したのだろう?
弱味でも握られたのだろうか?それとも股間?母親ならば股間を握り潰しそうな気がするけれど。

「いいえ、結婚したらこうなってしまったの」

つまり、結婚するまでは普通の令嬢だったという事か。彼女に何があったのだろう?
恐ろしくて聞けない。

そもそも、私はまだ筋肉にヤられていないよな?筋肉は脳にも侵食していくのだ。そして、いつか頭痛を筋肉痛と混同して、湿布をおでこに貼るようになるのだ!

不安になって、自分の手足を見て、頬を摘む。
まだ、筋肉は付いていないようだ。
大丈夫。大丈夫。

私にはするべき事がある。
まずは、婚約者の把握。おそらく今の私の年齢は10歳くらいだろう。
もやしと婚約するのは、やめる。私は筋肉と結婚するのだ!

「あの、もやし、いえ。私には婚約者は居ますか?」

「今度、顔合わせ予定のトウショウ家のメンディー様が候補者としていらっしゃるわ」

刀削麺?削られた細い麺のような殺傷能力の低そうな名前だ。
そんな奴と婚約なんて無理だ。
絶対に頼りにならない。せめて、バリカタ極太縮れ麺じゃないと。

「いつ、顔合わせをするんですか?」

「そうね、来月に予定されているけど、混乱しているでしょう?無理しなくて良いわよ」

母親は、今度は、いぶし銀のような深みのある微笑みを浮かべた。
見た目がゴリマッチョだから、すっかり忘れかけていたが、母親はやはり良い人らしい。
めちゃめちゃ厳しい人が不意に見せる。優しさのような言葉をかけられて、不覚にも涙が出てきそうになる。

「大丈夫ですわ。私、ちゃんと顔合わせします」

「キシリア。無理なんてしなくていいのよ」

そう言って母親が私を抱きしめた。
むわんと30日目のカレーのような、熟成された汗の匂いがした気がした。

また、私は気絶してしまった。目が覚めたのは顔合わせ当日だった。
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