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三人の胸肉(ミンチ)
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「ディックお前に褒美をやろう」
魔王討伐を果たした私達は謁見室で、国王の有難いお言葉を聞いていた。
国王の横にはこの国の王女が頬を赤く染めてディックの顔を見ていた。
彼はとてつもなく美形だ。
茶色の髪の毛は艶やかで後ろに束ねてあり、翡翠を思わせる瞳はうっすらと金色がかっていた。
その顔は中性的ではあるけれども、鍛え上げられた体躯のおかげでとても逞しかった。
やっぱり、一言で言えばとてつもなく美形だったのだ。
「しかし、本当に構わないのか?」
「はい」
私は二人のやりとりをただぼんやりと聞いていた。
早く領地に戻ってゆっくりとしたい。
やっと、私は何の問題もなく継げる。そう思うと、心が踊るようだ。
何の望みのない領地ではあるけれど、生まれ育った場所はとても心地のよい場所で思い入れは深い。
「それでは、ディックにはデロング領を授けよう」
国王の言葉に私は時間が止まったかのように固まる。
え、嘘でしょう?私との取引は……。
パーティのメンバーの三人が「貴族様。可哀想ぅ。でも役立たずだったから仕方ないわね」とクスクスと笑い声が聞こえた。
そうか、国王からしたら私は今回の旅の同行で死ぬはずだったのだ。
ディックにデロング領を授けるつもりでいたのか。
けれど、私は何も言えなかった。逆らえば即死刑になることがわかっていたのだ。
口をつぐむなかった。
「ありがたきお言葉。デロング領の全てが私の物になったのですね」
「ああ、そうだ。しかし、お前なら……」
国王がどこか惜しそうにディックを見つめていた。
しかし、私には明日の身の振り方を考えることで精一杯だった。
勇者に使用人として雇ってもらえるだろうか?無理ならどこかで働き口を聞いてもらえないだろうか?とぐるぐると頭の中で回る。
「勇者様。私達も同行しますね」
パーティメンバーが小声で囁くのが聞こえた。
「勇者様。申し訳ありません。同乗させて頂くことになるなんて」
私は屋敷の荷物をまとめるために、とりあえず領地に戻らなくてはならなかった。
私には報奨はなく、馬車に乗ろうにもお金がなく。仕方ないと歩いて帰ろうとしたところにディックに声をかけられた。早く帰って荷物をまとめろという事だろう。
助かった。
「ディックでいい。もう、勇者ではない。それに、一緒に帰るのは当然の事だ」
ディックはうっすらと頬を赤く染めていた。
「ディック様。あの三人は?」
馬車にあの三人が居ないことに気がついて、私は彼に質問した。
後々、彼女達も来るのかもしれない。
「ああ、確かに魔王を倒すまでは仲間だったが、今は違う。ただの他人でしかない」
あそこまで、三人とイチャイチャしていたのに、酷い言いぐさだ。
けれど、考えてみれば彼はあの三人に冷ややかだった気がする。
私は三人が怖くて彼とは滅多に話すことはなかったけれど、目の届く範囲で瀕死の重傷の時は高級ポーションを分けてもらえたし、優先的に治療をされていた気がする。
意外と嫌な人ではなかった?
そう思うと少しだけ気が楽になった。
もしかしたら、私を使用人として雇ってくれるかもしれない。
「あ、あの」
「ディック様!私達を置いていくなんて酷いです!なんでこの役立たずを連れていくんですか!四人で幸せになりましょう!」
突然。あの三人が馬車の窓を開けて、ディックに声をかけてきた。
「黙れ。死ね」
ディックはそう言うなり剣を柄から抜きとり、三人を斬りつける。
「霧散しろ!」
「ブッシャー!!!」
三人はほぼミンチの状態でグシャリと馬車から落ちた。
大丈夫なのだろうかと心配になるが、ミンチになった三人のうちの誰かが治してくれる事に気がついて、ホッと胸を撫で下ろした。
たぶん助かるだろう。
「怖い……。怖かった」
勇者は怯えたように私に言うと、なぜか膝の上に乗せられた。
しかし、私からしたら死なないことがわかっていても、無差別に三人を斬りつけるディックの方が怖い。
「あの、三人は怖いんだ。おぞましい物を俺の腕に押し付けてきて」
たぶん胸の事だろう。確かに三人ともスイカのような、爆弾のような胸を、つけていた。
巨乳が怖いのか……。
チラリと三人の跡地を見ると、胸肉もミンチになっていた。
私の胸肉を確認すると、虚乳という言葉がぴったりのささやかさで。そよ風が通りすぎていくような凹凸の無さだ。
これなら殺されないだろう。大丈夫だ。
私は回復魔法を使えないので、ミンチにされたら一発で死ぬだろう。
たとえ使えてもミンチになったら使えないだろうが。
「大丈夫ですよ。三人の胸はミンチになりましたから。もう、怖いことなんてありません」
私は彼を励ますように、頭を撫でる。
「ユーリ」
ディックは私のささやかな胸の中に顔を埋めて、ズズズと啜るように匂いを嗅ぎ始めた。
「あぁ、未完成な完成体……。貧乳は世界の宝だ」
何か呟いたけれど、私は聞かなかった事にした。
魔王討伐を果たした私達は謁見室で、国王の有難いお言葉を聞いていた。
国王の横にはこの国の王女が頬を赤く染めてディックの顔を見ていた。
彼はとてつもなく美形だ。
茶色の髪の毛は艶やかで後ろに束ねてあり、翡翠を思わせる瞳はうっすらと金色がかっていた。
その顔は中性的ではあるけれども、鍛え上げられた体躯のおかげでとても逞しかった。
やっぱり、一言で言えばとてつもなく美形だったのだ。
「しかし、本当に構わないのか?」
「はい」
私は二人のやりとりをただぼんやりと聞いていた。
早く領地に戻ってゆっくりとしたい。
やっと、私は何の問題もなく継げる。そう思うと、心が踊るようだ。
何の望みのない領地ではあるけれど、生まれ育った場所はとても心地のよい場所で思い入れは深い。
「それでは、ディックにはデロング領を授けよう」
国王の言葉に私は時間が止まったかのように固まる。
え、嘘でしょう?私との取引は……。
パーティのメンバーの三人が「貴族様。可哀想ぅ。でも役立たずだったから仕方ないわね」とクスクスと笑い声が聞こえた。
そうか、国王からしたら私は今回の旅の同行で死ぬはずだったのだ。
ディックにデロング領を授けるつもりでいたのか。
けれど、私は何も言えなかった。逆らえば即死刑になることがわかっていたのだ。
口をつぐむなかった。
「ありがたきお言葉。デロング領の全てが私の物になったのですね」
「ああ、そうだ。しかし、お前なら……」
国王がどこか惜しそうにディックを見つめていた。
しかし、私には明日の身の振り方を考えることで精一杯だった。
勇者に使用人として雇ってもらえるだろうか?無理ならどこかで働き口を聞いてもらえないだろうか?とぐるぐると頭の中で回る。
「勇者様。私達も同行しますね」
パーティメンバーが小声で囁くのが聞こえた。
「勇者様。申し訳ありません。同乗させて頂くことになるなんて」
私は屋敷の荷物をまとめるために、とりあえず領地に戻らなくてはならなかった。
私には報奨はなく、馬車に乗ろうにもお金がなく。仕方ないと歩いて帰ろうとしたところにディックに声をかけられた。早く帰って荷物をまとめろという事だろう。
助かった。
「ディックでいい。もう、勇者ではない。それに、一緒に帰るのは当然の事だ」
ディックはうっすらと頬を赤く染めていた。
「ディック様。あの三人は?」
馬車にあの三人が居ないことに気がついて、私は彼に質問した。
後々、彼女達も来るのかもしれない。
「ああ、確かに魔王を倒すまでは仲間だったが、今は違う。ただの他人でしかない」
あそこまで、三人とイチャイチャしていたのに、酷い言いぐさだ。
けれど、考えてみれば彼はあの三人に冷ややかだった気がする。
私は三人が怖くて彼とは滅多に話すことはなかったけれど、目の届く範囲で瀕死の重傷の時は高級ポーションを分けてもらえたし、優先的に治療をされていた気がする。
意外と嫌な人ではなかった?
そう思うと少しだけ気が楽になった。
もしかしたら、私を使用人として雇ってくれるかもしれない。
「あ、あの」
「ディック様!私達を置いていくなんて酷いです!なんでこの役立たずを連れていくんですか!四人で幸せになりましょう!」
突然。あの三人が馬車の窓を開けて、ディックに声をかけてきた。
「黙れ。死ね」
ディックはそう言うなり剣を柄から抜きとり、三人を斬りつける。
「霧散しろ!」
「ブッシャー!!!」
三人はほぼミンチの状態でグシャリと馬車から落ちた。
大丈夫なのだろうかと心配になるが、ミンチになった三人のうちの誰かが治してくれる事に気がついて、ホッと胸を撫で下ろした。
たぶん助かるだろう。
「怖い……。怖かった」
勇者は怯えたように私に言うと、なぜか膝の上に乗せられた。
しかし、私からしたら死なないことがわかっていても、無差別に三人を斬りつけるディックの方が怖い。
「あの、三人は怖いんだ。おぞましい物を俺の腕に押し付けてきて」
たぶん胸の事だろう。確かに三人ともスイカのような、爆弾のような胸を、つけていた。
巨乳が怖いのか……。
チラリと三人の跡地を見ると、胸肉もミンチになっていた。
私の胸肉を確認すると、虚乳という言葉がぴったりのささやかさで。そよ風が通りすぎていくような凹凸の無さだ。
これなら殺されないだろう。大丈夫だ。
私は回復魔法を使えないので、ミンチにされたら一発で死ぬだろう。
たとえ使えてもミンチになったら使えないだろうが。
「大丈夫ですよ。三人の胸はミンチになりましたから。もう、怖いことなんてありません」
私は彼を励ますように、頭を撫でる。
「ユーリ」
ディックは私のささやかな胸の中に顔を埋めて、ズズズと啜るように匂いを嗅ぎ始めた。
「あぁ、未完成な完成体……。貧乳は世界の宝だ」
何か呟いたけれど、私は聞かなかった事にした。
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