年下くんは三十路の私より経験が豊富でした。

オリゴ糖

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15.研修2日目 その2

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 出社すると立花の姿があった。

「立花君、おはよう。」

振り返る彼の顔は正気がなく、明らかに顔色が悪かった。

「茜、おはよ。」

「具合悪いの…?大丈夫…?」

「茜、昨日は本当にごめん!そして、今朝もごめん。俺、どうかしてたわ。茜を傷つけたいわけじゃない、約束する。好意のない相手から迫られる恐怖もわかった……。きっと俺にとって茜は、理想で、踏み込むと自分が自分じゃなくなる……茜は禁足地みたいな…感じだ。」

「へ…?禁足地…??」

「例えだよ!例え!良き同僚、良き理解者でいてやるから、ちゃんと仕事しろよー!」

—ありがとう。立花君。きっとすごく頑張って消化してくれたんだ。

「うん…うん!ありがとう立花君!でも、大丈夫…?今朝…。」

「しー!その話は、しないでくれ…。」

どんどん顔色が悪くなっていく立花。今は聞かないでおこうと茜は心に誓った。

 日本支部2グループと本社数名で、パリでのマーケティングについて話を詰めていく。
パリ市内の実在する数店舗内で事前に募集と依頼したお客さんに対してアンケートを実施、収集。日本での近い状況は再現出来ないが、パリでの反応を確かめる事ができる重要なマーケティング、必要な情報収集だ。

「では、明日は各々が店舗へ直接出勤し、来店したお客様へ接客とアンケート収集に携わって下さい。」

本社の社員からそう伝えられる。フランス語が苦手な茜は不安がつのる。

「茜。不安か?」

少し体調が回復した立花君が心配してくれた。

「うん…少しね。でも、頑張らないと…!」

「明日は、一緒に実際の店舗をまわろう。今日は、その店舗に行ってデモストレーションしに行こう。」

「え?…でも、そんな効率の悪い事できないよ。」

「言葉通じなかったら伝わるもんも伝わんなくて、意味ないだろ。午後から各店舗に出向くぞ。」

立花は、いつも無謀だと思われる事も突破して、実績を残してきた。だから、今回も大丈夫と確信してする。
立花の作戦としては、開発担当が不在でも商品を宣伝し、アピールしてもらえるよう完璧な資料を置き、絵葉書の様な厚紙に香水を振りかけ配り、その後簡単なアンケートに答えてもらうという至ってシンプルなものだった。

「このブランドが好きで、興味のある人にはしっかり届く。午後まで少し時間がある。だから、茜は香水サンプルを少し多めに用意して。俺は資料を手直ししてくるから。13時出発な!」

13時まで後2時間。少しでも負担にならないように、茜自身できる事をしたが、無力さを感じてしまう。

「ただの調香師…。」

今朝そう言われた事を思い出し、心が痛い。立花が昼食を取らない事を考え、作業しながらでも食べられる物を買いに外へでた。

「茜さん?また、会えたね。」

低くて甘い声。

「香原さん…!」

「うん。ランチかな?」

——社長モードの香原さんも素敵。

「はい。同僚が忙しくしていて、昼食を取る暇がなさそうなので…。」

眉間がピクリと動く。

「忙しい?資料は、完璧だったのにどうして?……まぁ、立ち話もなんだから、あそこのベンチにでも座らない?コーヒーを持ってくるから待っててよ。」

5分程経っただろうか。香原は、紙袋とコーヒーを茜に差し出してきた。

「これ、立花君のランチも入ってるから、渡してね。…で、どうしたの?何かミスがあったかい?」

少し空気がピリッとする。

「ありがとうございます。私が原因です。各店舗に1人づついくことになったのですが、私がフランス語が苦手な事を考慮して立花君が一緒に回ってくれるというんです。そのために、資料を手直ししたいと。」

「そうか。茜さんはいい同僚を持ったね。私が一緒に行ってあげたいところだけど、それは違うしね。」

「私の力不足で…立花君に迷惑をかけてしまい、落ち込んでましたが、今頑張らないとです!」

「あの香水は君の力作だろ。自信をもって。不足分を補い合えるのが良いチームだ。誰かが秀でていてもバランスが悪い。さぁ、彼の所にランチを持って行ってあげて。」

背中をトンと押され、自然と心と身体が前を向く。

「ありがとうございます!」

深々とお辞儀をして、本社へ戻っていった。

「ふぅ…。立花君か。調子が狂うな…。」
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