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9.研修1日目 その1

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 ホテルの部屋へ戻ったのは21時を過ぎていた。帰り際にキスされた事で身体は熱っているようだった。

 ——おかしい…。こんな感覚知らない。また、会えるかな。

 シャワーを浴びてから、急いで眠りについた。

 翌朝、ホテルを出て本社へ向かう途中、立花君と遭遇した。

「茜ー!おはよー!」

「おはよう立花君。」

 立花君と事件が起きてからちゃんと話さずにパリへ研修に来てしまったので、気まずさが残るが、冷静に挨拶をする。

「今日から、頑張ろうな。そういや、昨日資料届に部屋に行ったんだけど、いなかった?それとも避けられてる?」

「そ、うだね。いなかったかも。避けてないよ!」

私のぎこちない返答に、眉をひそめる。

「そっか。ならいいんだけど、俺ら同じ研修グループだから、よろしくね。茜フランス語苦手だったよね?俺がサポートするから安心してね。」

 爽やかすぎる笑顔。立花君は、あの事件を何とも思ってないのだろうか…。気にしすぎてるのは私だけ…??

「ありがとう!頼りにしてるよ!」

「後で昨日届けられなかった資料渡すね。なんか、雰囲気変わった?」

「えっ…?!そ、そうかな?」

 心臓がバクバクし始める。昨日の出来事を思い出し、顔に血液が集まる様な感覚になった。

「なんだよー、俺に教えてくれないんだ?てか、何赤くなってるの?」

ジリジリと距離を詰めてくる立花君。
昨日の出来事を立花君に教えてあげることは出来ない。

「赤くないからね!これは、緊張してるだけ!」

茜の答えでは納得していない様子。

「困った事があったら、俺を頼ってよ。」

「……ありがとう。でも、今は大丈夫だよ。」

立花君は、小さい子どもを見つめる様な眼差しを向け、頭を撫でる。

 本社の一階に皆集まると、社員ミーティングに参加し、今後の日程を伝えられた。
 今回の研修は、テストマーケティングをする目的がある。今日から2日間は本社の見学を各グループごとに行い、テストマーケティングの準備。3日目に実施、4日目から評価と修正を行い、商品開発へ繋げる予定になっている。間で懇親会の様なものがあり、順調に進めば、自由行動をしても良いことになっている。
 各グループごとに集められ、詳細の説明を受けている途中、周りがざわつき始めた。全員の視線の先には、張りのあるスーツを着た堂々とした出で立ちの男性がひとり。品の良い雰囲気であることは間違い無い。

「皆さん、おはよう。日本支部から研修に来ている皆さん、これから1週間宜しくお願いします。素敵な作品に仕上がる事を期待していますね。社員の皆さんの活躍も日頃から期待していますよ。無理はしないように。」

周りからは、身悶えるような深いため息が聞こえる。
芯がある低くて甘ったるい声…この声は…。

「立花君、みんなどうしたの…?あの人…??……むぐっ!!ん?!」

「しー!茜それ以上話さない方がいい。」

周りの様子を見ながら、立花君に口を塞がれている。

「むむ??!!(なに??!!)」

口を押さえられながら、さらに小さい声で、耳打ちされる。

「あの人は、パリ本社代表取締役、香原れお だよ。俺らがいる所は日本支部本社になっている。世界中にこの会社を広めた天才だよ。特に日本支部には力を入れているらしい。茜知らないのか?」

——ええぇぇ?!
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