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6.再会 その1 ※

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 急な展開に頭が追いつかない。ここは海外だから、挨拶の様なものなんだと無理に理解しようとする。

「で、でも…初対面ですし…。まだ、お仕事があるのでは…?」

「大丈夫だよ。君の香りについてきかせてほしい事がある。」

私の香り。試作品の香水をつけていた為、その残り香の事だろう。調香や香水に詳しい人である事、かなりのイケメンである事以外は全くわからない。そんな人と話し込んで大丈夫だろうかという警戒心も出てきてしまう。

「そんなに警戒しないで。興味深い香りなんだ。近くのレストランで少し話したい。」

香りの事を言われると警戒心が少し薄れる。あれよあれよと車に乗せられ、レストランに到着。名前も知らない、会ったばかりの人と食事をするなんて人生初。こぢんまりとしたレストランだが、内装や装飾品はどれを見ても歴史があり、一級品という事がわかる。お客さんは私達以外に誰もいない様だ。

「あの…私、こんな格好ですみません…。」

側から見たらチグハグな2人組だろう。雇用主とメイドか何かだと思われてもおかしくない。

「大丈夫。ドレスコードなんか気にしなくていいよ。」

スマートにエスコートしてくれる男性。されるがままに着席していた。
店主らしき人とフランス語でのやりとりしている。何を話しているかわからないレベル。

「嫌いな食べ物はある?あったら遠慮なく言って。」

「はい…。好き嫌いはありません。」

——香料について聞きたいならこんな所に連れ出さず、サクッと聞いてくれればいいのに。これから私騙される?高い壺とか、買わされるの?早く逃げなきゃ…。

あまりにも非現実的で、ネガティブが加速し、よからぬ想像だけが膨らむ。

「自己紹介が遅れて申し訳ない。あなたとゆっくり話したくて、ここに連れ込んでしまった。私の名前は、香原こうはられお。君は?」

人を見た目で判断してはいけないっておばあちゃんが言ってたっけ。顔立ちからして日本人ではないと思っていたが、まさか同じ日本人だったとは。

「私は、植花 茜です。日本人です。」

「茜さん、いい名前だね。私の母も日本人でね。父はフランス人だけど、幼少期は日本に住んでいた事もあったんだ。」

不思議と彼の表情が柔らかくなる。

——こんな、優しい顔する人なんだ。

「ハーフなんですね。」

どうしても警戒心が拭いきれない私は、冷たい言い方になってしまう。

「出逢えたのも何かの縁だから、美味しいお酒と食事を楽しもう。」

「……ごめんなさい。私、明日仕事なんです。香原さんが入って行こうとしていた会社で。なので、あまりゆっくりは出来ないです。」

「うん。知ってるよ。」

眼を細めたまま、見つめられる。

「へ?知ってる?」

「私もあの会社のスタッフなんだ。」

「あ、そうなんですか。まさか、前日にお会いできるとは。」

「会社について詳しく話聞かせてあげられるけど、秘密の調香レシピとか。」

これは、危険な香りがする。会って間もない人に秘密を教えるなんて、詐欺師がする手口ではないか。良からぬ事をグルグルと考えてしまう。

「まぁいい。ひとまず食前酒をいただこう。」

「私お酒は、あまり…。」

——普段なら飲めるけれど、今日パリに着いたばかりで疲れてるから、酔ったらどうしよう…。

「無理にとは言わないけれど、軽めの味わいだから、飲みやすいと思うよ。」

少しだけならと口に運んだ。

「…!!美味しい…。」

「うん。そんな顔見れて嬉しいよ。」

そんな会話をしているうちに料理が運ばれてきた。
彼がお料理の説明をしてくれるせいで、興味が湧き、コース料理を食べ終えてしまった。

「何が1番美味しかった?」

ニコニコと楽しそうに聞いてくる。

「り、りんごのタルトが美味しかったです。鼻に抜ける洋酒の香りが飲み込んだ後も残っていて、幸せな気持ちになりました。」

「ふふっ。調香師らしい感想をありがとう。…さぁ、場所を変えよう。」

また、彼のペースにのせられてしまう。

「あっ…ご馳走様でした。でも、もう…。」

「あと1時間だけ。私に付き合って。」

連れてこられたのは、会員制のバーの様な場所。しかも個室だった。

「茜さん、警戒しながらもついてきてくれた?嬉しいよ。」

——バレてたのね。こんな所までノコノコとついてきた私も私。

「1時間だけですから。」

「そうだね。時間は有効に使わなくちゃいけない。君のつけている香水はどこで手に入れた?」

レストランでの表情とは違う、少し怖気づいてしまう様な真剣な眼差しだった。

「まだ、試作品段階ですが私が作りました。」

「……そうか。嗅覚は慣れるということ君も知っているだろう?先ほど感じた香りも感じにくくなっていてね。だから、脱いでくれないか?」

「?!それは、できませ……。」

抱き寄せられて、すっぽりと彼の胸の中に収まってしまう。

「出来ないなら、俺が脱がせるだけだよ。どっちが好みかな?」

彼の眼は悪戯そうに笑っている。片方の手は背筋に、もう片方の手はスカートの中に入っていて、これからどうなるか容易に想像ができる。

「香原さん、困ります。こんなんじゃ…。」

「んー?こんなんじゃ、俺とセックスするみたい?」

——ちょっと待って、レストランにいた時と雰囲気変わりすぎじゃない?!
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