年下くんは三十路の私より経験が豊富でした。

オリゴ糖

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2.試作品と同僚 その1

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 調合を繰り返してやっと試作品が出来上がった。今まで作ってきた試作品は100通り以上。

「ふぅ~…。やっと近いものができた…!」

 何度も香料の配合割合を変えて、時間の経過で変化する香りを試作。香りの第一印象から主要の香り、残り香までの匂い立ちを考えながら、香料を配分して変化させ美しく仕上げる。これは私が大好きな作業。香り方で着けている人の印象が変わる。身にまとう人のシーンやその時の気分なども想像する。

「茜?またこんな時間までいたの?」

 背後ろから声をかけられて、びくりとした。

「あー、立花君。いつも後ろから声をかけないでって言ってるよー。」

「ごめんごめん。さっきから周りうろうろしてたんだけどな。また、試作品作ってたの?俺にも試させてよ。」

 立花は、中途入社し、同い年の同期で、よき相談相手。今回私が作っている香水のプロジェクトを後押ししてくれた1人でもある。戦隊モノのレッドのような存在。責任感があって活発な人なのだけれど、物腰は柔らかい。女子社員達からは、彼氏にしたいと声が上がるほど人気者である。

「うん!お願いしようかな。今試作品をわけるから、明日、出社してから着けてくれないかな?」

「おっけー。わかってるよ。でも、別にわけなくても朝、茜が着けてくれたらよくない?」

 一瞬ぎくりとした。確かにそうなのだが、他部署からも人気者の立花を朝から独占するのは女子社員からの視線が痛い。30歳目前の女は、他人の嫉妬心に触れず、ひっそりと過ごしたいわけである。

「あ、朝は忙しいからからさぁ!」

 最もらしい言い訳をしてみる。

「ふーん。でも、俺が悪い同僚なら他の会社へサンプルの情報を横流ししたりするかも?」

 意地悪な笑みをみせる。

「はぁ…。正直言うと、女子達の視線が気になるの。変な噂がたっても嫌だもん。立花君は、そんな人じゃない、信じてるよ!真っ直ぐな所好きだよ!」

「…はいはい。同僚として好きでいてくれるのは嬉しいよ。でも、もう遅いから早く帰ろうか。家まで送ってくから。」

「私の話ちゃんと聞いてました?電車で帰れるから、大丈夫だよ。」

「22時まで残ってる社員なんかいないって。」

 いつも、こうやって試作に没頭している私を退社させてくれる人なのだ。

「立花君ってお兄ちゃんみたいだね!いつもありがとう。」

「ほら、いいから帰るよ。」

 こう話している間に、茜のカバンや大量の資料とサンプルをまとめて扉を開けて待っている。こうやって帰るのも数えきれないくらいだ。

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