MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第三章 執着のテンシ

第35話 延長戦-アクシデント-③

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サン! あくつサン!」
 リツは奈ノ禍を抱きかかえ、テンシから距離を取る。そして、シャボン玉が飛んで行った方に視線を向けるが、既にそれは見えなくなっていた。

 テンシは地面から少し浮いた状態で、紐と蔦を振り回し続けている。先程テンシの攻撃が当たった奈ノ禍の背中と脚は、線状に抉られており、吐く息は苦しそうだ。

「……りっつー……あーしのコトはいいから……」
「奈ノ禍サン、少しだけ我慢しててくださいっす」
 リツはそう言うと、奈ノ禍を抱きかかえて飛び上がり、テンシの攻撃を避けながらその動きを観察した。

 最初は適当に振り回していると思っていた紐と蔦の動きに、規則性がある事に気がつく。それを完全に覚えたリツはかなり距離を取ってから、周囲に他のテンシがいない事を確認すると、奈ノ禍を草原の上にそっと座らせた。

「りっつー……?」
「ここで少しだけ待っててくださいっす」
 リツはが能力で作ってくれた、着用者の全身を守ってくれるポンチョを脱ぐと奈ノ禍の肩にかけ、ふわりと微笑んだ。その際、目が合った奈ノ禍とリツには互いの『音楽』が聴こえた。

 直ぐにリツがテンシの方へ駆け出したため、それが聴こえたのはほんの一瞬だった。それでも、リツの『音楽』にノイズが微かに混じっている事に奈ノ禍は気がつき、引き留めようと立ち上がる。だが、それは叶わず、倒れ込んでしまう。

 単独でテンシに向かって行くリツの背中が、また別の少女とダブる。
「リッツー……まって……お願いだから行かないで!」
 奈ノ禍の声に、リツは足を止めなかった。奈ノ禍は這ってでも必死にリツを追うが当然、追いつかない。

 リツは途中で自分の大鎌を見つけて拾い上げると、徐々に近づいてきていたテンシとの戦闘を再開させる。規則性のある攻撃を全て避け、リツはテンシに近づく。そして、テンシを斬るために大鎌を振りかざす── 

「いやだ……たすけて……」
「え……」

 ──が、テンシの檻内体内から少女の声が聞こえると同時に、拘束された女子生徒が鉄格子越しに見え、リツは攻撃を止めた。それを狙っていたかのように、紐と蔦が規則的な動きを止め、一斉にリツの手足に絡みつき、体の一部檻の扉が開く。そこから顔を出した大蛇がニタリと笑い、徐々にリツに近づいてくる。

 手首にも蔦が強く絡みつき、リツは大鎌を地面に落とす。それでもなんとか藻掻くが、首も絞められ、そのまま体を持ち上げられてしまう。

 大蛇は『勝ち』を確信したように「シシシ……」と笑い、リツに噛みつこうと大口を開く。だが、その牙がリツに届く前に現れた人物によって、大蛇は真っ二つに斬られた。その後すぐに、リツを拘束していた紐と蔦も大量のナイフに切り落とされ、ついでとばかりにも斬りつけていく。

 諦めずにずっと必死に足掻いていたリツは突然の事に驚き、そのまま無防備に地面へ吸い込まれていく。けれども、地面に体がつく前に、誰かに受け止められる。

「……めぐるにぃ!」
 リツは自分を抱きとめてくれた人物……の顔を目にすると、驚きながらもどこか安心したような表情になる。

「大丈夫か、リツ。怪我は――」
 旋は柔らかな表情でそこまで言いかけたが、リツの首の痣を見た瞬間、怒りが湧き上がり、数秒だけ口をつぐむ。

「――……あのテンシを斬ってくるからリツは下がっててくれるか?」
 再び口を開いた旋はそう言いながら、リツを地面に下ろす。そして、リツを抱きとめるために一度、消していた大剣を出現させ、旋は中のテンシに向かっていこうとした。凄まじい殺気を放って。

「ま、待ってほしいっす!」
 このままではの中に捕らえられている生徒の存在に気づかずに、その人ごとテンシを斬ってしまうかもしれない。兄の殺気を感じ取ったリツはそう考え、慌てて旋の腕を掴んで引き止める。

「止めないでくれリツ!」
「旋にぃ落ち着いて! アタシの話を聞いてくださいっす!」
 妹を力尽くでは引きはがせない旋と、目一杯の力で兄の腕を掴むリツは言い合いになっている。そんな二人の元へ近づいてきたのは、旋の相棒であるレイだった。

 おとなし兄妹のやり取りを横目にレイは、自分達の周囲にドーム状のバリアを張る。レイの存在に気づいた兄妹は口論を止め、彼の方を見た。すると、レイが片腕でおとを抱え、奈ノ禍を背負っている事にも気がつき、特にリツが驚いて大きく目を見開く。

「圷サン! 無事だったんすね。よかっ――」
 リツは乙和の顔を見て、うれしそうに声をかけるが、レイの鋭い眼光も視界に入り、思わず途中で固まった。

「貴様ら……何をしている。ここは戦場だ。無防備に言い争うのは危険だと、自覚してくれ……」
 レイは乙和を地面に下ろすと、諭すような声で鳴無兄妹にそう言った。

「ごめん……」
「ごめんなさいっす……」
 レイの言葉にハッとした旋とリツは、同時に頭を下げる。そんな兄妹を見て、レイは慌て気味に「我に謝る必要はない」と言う。それからリツの方を見ると、背負っていた奈ノ禍をそっと彼女に引き渡す。

「奈ノ禍サン……?」
 自分に抱きついてきた奈ノ禍の体が、微かに震えている事に気がついたリツは戸惑う。

「リッツー……よかった。生きてて、ほんとによかった……」
しゅう奈ノ禍を守る為だったのだろうが……相棒を強制的に戦線から離脱させ、一人で戦うのは止め給え」
 奈ノ禍は泣きそうな声で、レイもどこか悲しそうに言葉を発した。彼女らの言葉にリツは、奈ノ禍をとても不安にさせていたのだと察し、相棒を優しく抱きしめ返す。

「奈ノ禍サン、ごめんなさい。もう一人で戦ったりしないから安心してほしいっす」
「うん。約束だからね」
 奈ノ禍はそう言いながら、ポンチョをリツに返した。リツは「はいっす!」と返事をすると、ポンチョを身に着ける。

「旋も一人で突っ走るのはやめてくれ」
 一方、レイは旋に向き合うと、彼に目線を合わせた。レイに真っすぐ見つめられ、旋は申し訳なさそうに「分かった」と頷く。



 ほんの少し時は戻り――旋とレイが草原エリアに足を踏み入れた頃。

 リツと同じチームの生徒に状況を確認している最中に、勢いよく飛んできた黒いシャボン玉をレイが片手で止めた。

 そのシャボン玉の中から現れた乙和に、リツと奈ノ禍が危機に瀕しているかもしれないと聞いた瞬間、旋は走り出す。当然、レイはすぐに旋の後を追おうとしたが、それよりも先にマントを乙和に掴まれてしまう。

「わたしも連れてって」
「なぜ我が」
「シャボン玉よりあなたの方が、リツちゃん達の元に早く戻れそうだから」

 淡々と言い放った乙和は、何がなんでもレイに連れていってもらう気でいるようだ。それを感じ取ったレイはこのやり取りを早く終わらせるためにも、仕方なく乙和を片手で抱き上げ、急いで旋を追う。

 レイの足であれば、すぐ旋に追いつけるのだが、運悪く他の生徒が戦っているテンシに行く手を阻まれる。そのテンシを刀で斬り、先を急ぐが別のテンシにも妨害されてしまう。それも突破したレイが視界に捉えたのは、無事にリツを救った旋と、地面を這う奈ノ禍だった。

 旋の方は大丈夫だと判断したレイは、それなりに付き合いがある奈ノ禍を放っておけなかったのもあり、彼女を背負い――今に至る。
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