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第三章 執着のテンシ
第25話 救出ゲーム
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「はぁー……何やってんだろ、ジブン。リツに気を遣わせてしまうなんて……兄失格だ……」
「まぁまぁ、やってしまったことは仕方ないし? ゲームが終わった後に、謝ればいいんじゃない?」
違う会場でゲームに参加するリツと別れた後、旋は歩きながら盛大にため息をついた。妹の前でレイに対して腹を立て、黙り込んでしまった事を反省し、右手で顔を覆っている。
隣を歩くミナトはどこか微笑ましそうに、旋を励ます。
「そう、ですね……。よし! ゲームをクリアして、絶対にリツに謝ります!」
「うんうん! その意気だよ、旋くん」
グッと握り拳を空に掲げた旋に、ミナトは拍手を送った。彼の肩に乗っているノワールも、二本の触手でミナトの真似をしている。旋の後ろを歩くレイだけは、何も反応を示さない。
「そういえば、どうしてミナトさんも今回のゲームに呼ばれたんですか? 執着のテンシの種をまだ、回収できていない……とかではなさそうですけど……」
「うん、種は持ってるよ~。それでもこの学園に居続ける限りは定期的に、こうやってゲームに呼ばれるんだぁ。特定のテンシに目をつけられてる子は特にね。オレはさ……かなり執着されてるからね、彼に。だから、この執着ゲームには必ず、参加させられるんだぁ。直近だと、二月十七日にも参加したよ~」
ミナトは頬を掻きながら、そう言って苦笑いを浮かべる。
そもそもミナトは『執着のテンシの逆恨みで、顛至島に連れてこられた』のだと、思い出した旋は「あー……」と短く唸った。
「それはまた厄介な話ですね……」
「まぁもう慣れたけどね~」
そんな会話をしている内に、ゲーム会場である人形エリア前に到着した一行は、気を引き締めてそこへ足を踏み入れた。コンクリート地面に、壊れた陶器の人形がたくさん転がっているこのエリアは妙に空気が重く、旋は雰囲気に飲み込まれそうになる。
「大丈夫そ? 旋くん」
ミナトは旋の顔を覗き込み、ふわりと微笑んでみせた。その励ますような優しい笑みに、旋は気持ちが少し楽になり、「大丈夫です」と答える。
人形エリアの中心辺りに辿り着くと、執着のテンシが二体、地面に降り立って待ち構えていた。全身に蔦が絡まった檻のような見た目の体の扉部分は開いており、藤の花にそっくりな翼は地面にベタッと広がっている。
「ここで一旦、待機だよ。旋くんとオレは」
「へ……分かりました」
執着のテンシから少し離れた位置で、ミナトにストップをかけられた旋は素直に立ち止まる。そんな彼の隣をレイは通り過ぎ、執着のテンシに近づいていく。
「ちょ……レイ! どこ行く気だよ!?」
「私達相棒は執着のテンシに捕らわれなければならない。故に、レイ・サリテュード=アインビルドゥングは捕らわれに行くだけだァ」
「ほら昨日、『執着のテンシの体内に捕らえられている相棒を助け出すゲーム』って軽く説明したでしょ? その“捕らえられている状態”を作り出すための準備に向かうんだよ、レイさんは」
レイの代わりにノワールがそう答えた後に、ミナトは言葉を補足する。その説明を聞いてもあまりピンときていない旋に、ミナトは「見てたら分かるよ」と言う。
「それじゃあ、ミナトくん、私も行ってくるぞォ」
「うん、いってらっしゃい。すぐ会いに行くからね、ノワにぃ」
「うむ」
ミナトと軽く言葉を交わしたノワールは肩から降り、通常の大きさに戻ると、レイとは違う執着のテンシの方へ歩き出す。
先にテンシの元へ辿り着いたレイは、開いた扉のような部分から体内に足を踏み入れる。少し遅れてノワールも、もう一体のテンシの体内へ入った。
「え……あれって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、少なくともノワにぃとレイさんなら。第一、相棒が執着のテンシの体内に入らないと、ゲームが始められないからね」
「あー……その、まさか、あんな風に自ら捕らえられに行くとは思ってなかったです……」
「分かる~。初めての時、同じこと思ったよ。オレも」
旋とミナトが会話している間に、レイとノワールの体に執着のテンシが四本の紐を挿し、扉がゆっくりと閉まった。紐を挿された瞬間、レイは一瞬だけ不快そうな顔をし、ノワールは短く低い悲鳴を上げ、徐々に萎れていく。ちなみに、レイは背中の中心辺りに三本とうなじに一本、ノワールは全て無造作に紐が挿されている。
しおしおになっているノワールを目にしたミナトは苦笑いを浮かべ、旋は心配そうに捕らえられた彼らを交互に見た。
「……あの紐、なんですか?」
「あれは――」
ミナトが旋の質問に答えようとした瞬間、『ピンポンパンポン』とチャイム音が鳴る。そこでミナトは「この放送を聞けば、なんとなく分かるよ」と伝え、旋は頷く。
『現在、ゲーム開始五分前。今からゲームのルール説明を行う。これから君達に挑戦してもらうのは、相棒との絆が試される救出ゲームだ。今から言う四つのミッションを順番にクリアし、執着のテンシの体内に捕らえられた契約相手を救い出せればゲームクリアとなる――』
女性の機械音声アナウンスが流れ、以下のミッションが告げられる。
其の一。契約相手と心を一つにして、扉を開け。
其の二。大蛇から牙を奪え。その際、契約相手は大蛇をコントロールせよ。
其の三。執着のテンシと契約相手の意識を繋ぐ紐を三本、奪った牙で断ち切れ。
其の四。契約相手と協力し、執着のテンシにトドメを刺した後に種を回収せよ。
『――この四つのミッションを四十四分以内クリアし、契約相手を救出せよ。ゲーム終了時に、其の四までクリアしていない場合は、ヒトも契約相手も執着のテンシの餌となる。ただし、執着心がテンシに勝り、乗っ取りに成功した際は、契約相手がゲーム参加者の運命を決めよ。なお、同じチーム内に限り、“ミッション開始前”と“クリア後”のみ、他者の手助けを許可する。また、ゲーム終了後のアクシデントも各自で対処せよ。それでは、健闘を祈る』
ルール説明が終わると再び、チャイム音が鳴り、次にゲーム開始のカウントダウンが流れる。それと同時に、執着のテンシがゆっくりと浮上していく。
「あの、ミッション前後の手助けって、相棒の能力的に空を飛べない人をテンシの元まで連れて行ったりするのはOKってことですか?」
「そ。旋くんって確か、空飛べたよね? レイさんの能力なら」
「はい。そう言うミナトさんはどうするんですか?」
「オレもね~、実は飛べるんだ~。ノワにぃの能力のおかげで」
ミナトはそう言った後、ノワールにもらった彼の羽を飲み込む。すると、ミナトの背中からノワールと同じ黒薔薇の翼が生え、少しだけ彼の体が宙に浮く。それを見て、旋は目を輝かせ「かっこいい」と呟く。
「ありがと。かっこいいよね、ノワにぃの翼って」
ミナトは嬉しそうにはにかみ、ほんの一瞬、翼を旋の方に見せる。
旋は“黒薔薇の翼が生えたミナト”を、『かっこいい』と言ったつもりだった。だが、翼自体もかっこいいと思っている為、否定せずに頷いた。
「他に、気になる部分はあった? ルール説明を聞いて」
「うーん……なんとなくは分かったので、後はレイに合ってるかどうか、確認してみます」
旋はそう言いながら、いつもの大剣を作り出し、浮遊する執着のテンシを見上げた。
「……仲直りできるといいね、レイさんと」
「はい……。でも、もうこうなったら、意地でもジブンの意思は曲げないつもりなんで……。とりあえずその前に、もっと本気でレイとぶつかってきます」
「うん、応援してる。けど、無茶だけはしないでね」
「ミナトさんも……責任を感じて、無茶するのだけはやめてくださいね」
――まぁ、もしもの時は、なんらかの形でオレがきっちり責任は取るよ。
ミナトが奈ノ禍に言った事を聞いていた旋は、真っすぐな瞳で自分の想いを伝える。けれども、ミナトは「なんの話?」ととぼけた為、旋は眉を下げ、「絶対に無茶しないでくださいね」と念押しした。
「大丈夫、分かってるよ。……絶対、皆で生き残ろうね、旋くん」
「はい!」
その返事と同時に、ゲーム開始のアナウンスが流れ、旋とミナトは空高く飛び上がる。
旋はレイ、ミナトはノワールが捕らわれた執着のテンシの元へ辿り着くと、浮かんだ状態でじっと、自分の相棒を見据えた。
「まぁまぁ、やってしまったことは仕方ないし? ゲームが終わった後に、謝ればいいんじゃない?」
違う会場でゲームに参加するリツと別れた後、旋は歩きながら盛大にため息をついた。妹の前でレイに対して腹を立て、黙り込んでしまった事を反省し、右手で顔を覆っている。
隣を歩くミナトはどこか微笑ましそうに、旋を励ます。
「そう、ですね……。よし! ゲームをクリアして、絶対にリツに謝ります!」
「うんうん! その意気だよ、旋くん」
グッと握り拳を空に掲げた旋に、ミナトは拍手を送った。彼の肩に乗っているノワールも、二本の触手でミナトの真似をしている。旋の後ろを歩くレイだけは、何も反応を示さない。
「そういえば、どうしてミナトさんも今回のゲームに呼ばれたんですか? 執着のテンシの種をまだ、回収できていない……とかではなさそうですけど……」
「うん、種は持ってるよ~。それでもこの学園に居続ける限りは定期的に、こうやってゲームに呼ばれるんだぁ。特定のテンシに目をつけられてる子は特にね。オレはさ……かなり執着されてるからね、彼に。だから、この執着ゲームには必ず、参加させられるんだぁ。直近だと、二月十七日にも参加したよ~」
ミナトは頬を掻きながら、そう言って苦笑いを浮かべる。
そもそもミナトは『執着のテンシの逆恨みで、顛至島に連れてこられた』のだと、思い出した旋は「あー……」と短く唸った。
「それはまた厄介な話ですね……」
「まぁもう慣れたけどね~」
そんな会話をしている内に、ゲーム会場である人形エリア前に到着した一行は、気を引き締めてそこへ足を踏み入れた。コンクリート地面に、壊れた陶器の人形がたくさん転がっているこのエリアは妙に空気が重く、旋は雰囲気に飲み込まれそうになる。
「大丈夫そ? 旋くん」
ミナトは旋の顔を覗き込み、ふわりと微笑んでみせた。その励ますような優しい笑みに、旋は気持ちが少し楽になり、「大丈夫です」と答える。
人形エリアの中心辺りに辿り着くと、執着のテンシが二体、地面に降り立って待ち構えていた。全身に蔦が絡まった檻のような見た目の体の扉部分は開いており、藤の花にそっくりな翼は地面にベタッと広がっている。
「ここで一旦、待機だよ。旋くんとオレは」
「へ……分かりました」
執着のテンシから少し離れた位置で、ミナトにストップをかけられた旋は素直に立ち止まる。そんな彼の隣をレイは通り過ぎ、執着のテンシに近づいていく。
「ちょ……レイ! どこ行く気だよ!?」
「私達相棒は執着のテンシに捕らわれなければならない。故に、レイ・サリテュード=アインビルドゥングは捕らわれに行くだけだァ」
「ほら昨日、『執着のテンシの体内に捕らえられている相棒を助け出すゲーム』って軽く説明したでしょ? その“捕らえられている状態”を作り出すための準備に向かうんだよ、レイさんは」
レイの代わりにノワールがそう答えた後に、ミナトは言葉を補足する。その説明を聞いてもあまりピンときていない旋に、ミナトは「見てたら分かるよ」と言う。
「それじゃあ、ミナトくん、私も行ってくるぞォ」
「うん、いってらっしゃい。すぐ会いに行くからね、ノワにぃ」
「うむ」
ミナトと軽く言葉を交わしたノワールは肩から降り、通常の大きさに戻ると、レイとは違う執着のテンシの方へ歩き出す。
先にテンシの元へ辿り着いたレイは、開いた扉のような部分から体内に足を踏み入れる。少し遅れてノワールも、もう一体のテンシの体内へ入った。
「え……あれって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、少なくともノワにぃとレイさんなら。第一、相棒が執着のテンシの体内に入らないと、ゲームが始められないからね」
「あー……その、まさか、あんな風に自ら捕らえられに行くとは思ってなかったです……」
「分かる~。初めての時、同じこと思ったよ。オレも」
旋とミナトが会話している間に、レイとノワールの体に執着のテンシが四本の紐を挿し、扉がゆっくりと閉まった。紐を挿された瞬間、レイは一瞬だけ不快そうな顔をし、ノワールは短く低い悲鳴を上げ、徐々に萎れていく。ちなみに、レイは背中の中心辺りに三本とうなじに一本、ノワールは全て無造作に紐が挿されている。
しおしおになっているノワールを目にしたミナトは苦笑いを浮かべ、旋は心配そうに捕らえられた彼らを交互に見た。
「……あの紐、なんですか?」
「あれは――」
ミナトが旋の質問に答えようとした瞬間、『ピンポンパンポン』とチャイム音が鳴る。そこでミナトは「この放送を聞けば、なんとなく分かるよ」と伝え、旋は頷く。
『現在、ゲーム開始五分前。今からゲームのルール説明を行う。これから君達に挑戦してもらうのは、相棒との絆が試される救出ゲームだ。今から言う四つのミッションを順番にクリアし、執着のテンシの体内に捕らえられた契約相手を救い出せればゲームクリアとなる――』
女性の機械音声アナウンスが流れ、以下のミッションが告げられる。
其の一。契約相手と心を一つにして、扉を開け。
其の二。大蛇から牙を奪え。その際、契約相手は大蛇をコントロールせよ。
其の三。執着のテンシと契約相手の意識を繋ぐ紐を三本、奪った牙で断ち切れ。
其の四。契約相手と協力し、執着のテンシにトドメを刺した後に種を回収せよ。
『――この四つのミッションを四十四分以内クリアし、契約相手を救出せよ。ゲーム終了時に、其の四までクリアしていない場合は、ヒトも契約相手も執着のテンシの餌となる。ただし、執着心がテンシに勝り、乗っ取りに成功した際は、契約相手がゲーム参加者の運命を決めよ。なお、同じチーム内に限り、“ミッション開始前”と“クリア後”のみ、他者の手助けを許可する。また、ゲーム終了後のアクシデントも各自で対処せよ。それでは、健闘を祈る』
ルール説明が終わると再び、チャイム音が鳴り、次にゲーム開始のカウントダウンが流れる。それと同時に、執着のテンシがゆっくりと浮上していく。
「あの、ミッション前後の手助けって、相棒の能力的に空を飛べない人をテンシの元まで連れて行ったりするのはOKってことですか?」
「そ。旋くんって確か、空飛べたよね? レイさんの能力なら」
「はい。そう言うミナトさんはどうするんですか?」
「オレもね~、実は飛べるんだ~。ノワにぃの能力のおかげで」
ミナトはそう言った後、ノワールにもらった彼の羽を飲み込む。すると、ミナトの背中からノワールと同じ黒薔薇の翼が生え、少しだけ彼の体が宙に浮く。それを見て、旋は目を輝かせ「かっこいい」と呟く。
「ありがと。かっこいいよね、ノワにぃの翼って」
ミナトは嬉しそうにはにかみ、ほんの一瞬、翼を旋の方に見せる。
旋は“黒薔薇の翼が生えたミナト”を、『かっこいい』と言ったつもりだった。だが、翼自体もかっこいいと思っている為、否定せずに頷いた。
「他に、気になる部分はあった? ルール説明を聞いて」
「うーん……なんとなくは分かったので、後はレイに合ってるかどうか、確認してみます」
旋はそう言いながら、いつもの大剣を作り出し、浮遊する執着のテンシを見上げた。
「……仲直りできるといいね、レイさんと」
「はい……。でも、もうこうなったら、意地でもジブンの意思は曲げないつもりなんで……。とりあえずその前に、もっと本気でレイとぶつかってきます」
「うん、応援してる。けど、無茶だけはしないでね」
「ミナトさんも……責任を感じて、無茶するのだけはやめてくださいね」
――まぁ、もしもの時は、なんらかの形でオレがきっちり責任は取るよ。
ミナトが奈ノ禍に言った事を聞いていた旋は、真っすぐな瞳で自分の想いを伝える。けれども、ミナトは「なんの話?」ととぼけた為、旋は眉を下げ、「絶対に無茶しないでくださいね」と念押しした。
「大丈夫、分かってるよ。……絶対、皆で生き残ろうね、旋くん」
「はい!」
その返事と同時に、ゲーム開始のアナウンスが流れ、旋とミナトは空高く飛び上がる。
旋はレイ、ミナトはノワールが捕らわれた執着のテンシの元へ辿り着くと、浮かんだ状態でじっと、自分の相棒を見据えた。
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