振り向いてよ、僕のきら星

街田あんぐる

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第8話 雨のにおいとあなたのにおい

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「ねえ。衣真くんは、公募に出さないの」

 話題を変えた。書評の会はど真ん中の文芸サークルではないけれど、小説や詩歌を新人賞に出している先輩は何人もいる。大学院生の先輩なんて、すでに詩の賞を受賞しているというんだからすごい。

 衣真くんにはそれくらいの才能がある。この18歳は、18歳にしてことばを自在に操る。奇術師マジシャンが整頓されたトリックでほら、とハンカチをひるがえすように。

 衣真くんはことばを整頓し、ときに撹乱かくらんし、そして華麗にハンカチを取り去ればほら、拍手喝采。
 その力がある。衣真くんの書くものを読めばわかる。短編しか読んだことがないけれど、長編を書いたこともあると言っていた。

 応募しないなんてもったいない、と僕が口を出すことではないけれど。

「機が熟すのを待ってるんだよ」
「まだ熟してないんだ」
「うん。いずれ」

 機が熟したら、衣真くんの恋人になりたい。でもそれは、衣真くんのいっときのふしあわせを願うこと。僕はそれを超えるよろこびをあげられるだろうか? 僕は衣真くんのまぶしい光の裏の影まで好きでいられるだろうか? 傘の下の、僕が焦がれてやまない横顔を見る。

「待っていれば、今だってわかるよ」

 衣真くんは創作の話をしているけれど、僕には違う話に聞こえた。聞こえてしまった。傘の下の秘密。
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