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第8話 雨のにおいとあなたのにおい
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「好きだったのに」
呟いて陰鬱な気分に浸ることに、妙にハマっている。被害者ぶって、本当は加害者みたいな振る舞いをしているくせに。
衣真くんと顔も合わせたくなかったけど、今日の読書会は僕が好きな作家の小説だったので行くことにした。内山さんが来ないのは事前に確認しておいた。あの人は僕の好意に気づいていて、ライバル視しているのかもしれない。
僕がドアを開けると全員の視線がこちらを向いて、僕が「お疲れ様です」と言うと「伊藤くん!?」「金髪にしたの!?」とわっと盛り上がった。僕の金髪は、弊サークルのおしゃれな女性陣にも好評でなかなか嬉しい。
でも、衣真くんに褒められたのが一番嬉しかったな。もっとちゃんと聞いておけばよかった。
衣真くんに視線を向けると、ためらいがちにニコッと笑ってくれた。やっぱり好きだなって苦しくなる。それに、やっぱり大切だな。
読書会のあとは大雨だった。僕は梅雨晴れにすっかり油断して傘を忘れた。購買まで走るのと駅まで走るのと雨宿りするの、どれがマシか考えていたら、衣真くんがいた。にこりと傘を差しかけてくれた。
相合傘。いいのかな。内山さんがまた気を揉むんじゃないかな。でも、いっか。あまり近づきすぎないように。勘違いされないように。
「ありがとう。勉強会のこと、保留にしててごめん」
「ううん。ぼくが余計なことを言ったの」
「もう少し考えてもいいかな」
「もちろん。ごめんね」
「ううん、僕もごめん」
衣真くんの横顔を盗み見る。僕たちの身長は全然違わないことに初めて気がつく。やっぱり僕と衣真くんはどこかしらぴったりあつらえたようなところがある、と思う。
衣真くんが僕を見て笑う。胸が痛くなる。傘の中は衣真くんのにおいがする。
敵わないなあ。
やっぱり好きだった。衣真くんの笑顔が好きだった。こんなシンプルな言葉に収まる感情が、シンプルだからこそ深く愛しかった。
でも、衣真くんは誰にでも光を撒くひとだから、僕はきっと嫉妬で苦しくなる。
黙り込んだ僕を見て、衣真くんは軽く首をかしげる。
呟いて陰鬱な気分に浸ることに、妙にハマっている。被害者ぶって、本当は加害者みたいな振る舞いをしているくせに。
衣真くんと顔も合わせたくなかったけど、今日の読書会は僕が好きな作家の小説だったので行くことにした。内山さんが来ないのは事前に確認しておいた。あの人は僕の好意に気づいていて、ライバル視しているのかもしれない。
僕がドアを開けると全員の視線がこちらを向いて、僕が「お疲れ様です」と言うと「伊藤くん!?」「金髪にしたの!?」とわっと盛り上がった。僕の金髪は、弊サークルのおしゃれな女性陣にも好評でなかなか嬉しい。
でも、衣真くんに褒められたのが一番嬉しかったな。もっとちゃんと聞いておけばよかった。
衣真くんに視線を向けると、ためらいがちにニコッと笑ってくれた。やっぱり好きだなって苦しくなる。それに、やっぱり大切だな。
読書会のあとは大雨だった。僕は梅雨晴れにすっかり油断して傘を忘れた。購買まで走るのと駅まで走るのと雨宿りするの、どれがマシか考えていたら、衣真くんがいた。にこりと傘を差しかけてくれた。
相合傘。いいのかな。内山さんがまた気を揉むんじゃないかな。でも、いっか。あまり近づきすぎないように。勘違いされないように。
「ありがとう。勉強会のこと、保留にしててごめん」
「ううん。ぼくが余計なことを言ったの」
「もう少し考えてもいいかな」
「もちろん。ごめんね」
「ううん、僕もごめん」
衣真くんの横顔を盗み見る。僕たちの身長は全然違わないことに初めて気がつく。やっぱり僕と衣真くんはどこかしらぴったりあつらえたようなところがある、と思う。
衣真くんが僕を見て笑う。胸が痛くなる。傘の中は衣真くんのにおいがする。
敵わないなあ。
やっぱり好きだった。衣真くんの笑顔が好きだった。こんなシンプルな言葉に収まる感情が、シンプルだからこそ深く愛しかった。
でも、衣真くんは誰にでも光を撒くひとだから、僕はきっと嫉妬で苦しくなる。
黙り込んだ僕を見て、衣真くんは軽く首をかしげる。
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