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第7話 一生すきでいさせてよ
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好きな人は僕の知ってる誰かの恋人で、ということは僕の好きな人ではいられない。好きな人のいない集まりなんて憂鬱なばかりだ。
ギリギリまで寝て、高校の頃から着てるヨレたTシャツを着て、髪を雑にくくって、コンタクトだって七面倒なだけだから黒縁メガネで家を出た。
今日、書評の会の集まりには衣真くんと内山さんの両方が来ると分かっている。2人はほかの会員には交際を隠している。いつから付き合っているんだろう? 全然気づかなかった、って悔しくなる。
久しぶりに傘のいらない日だった。僕は無駄に歩き回って時間を潰して、1分前に会議室のドアを開けた。
衣真くんがぱっと顔を上げて僕を見る。「やっと来たね」って言うみたいに、小さくにこっとする。
僕は衣真くんが欲しくて欲しくて、胸をかきむしってこの感情を全部かき出してしまいたくなる。鼓動が悪い具合に早くなる。肺が潰れたように苦しくて、手近な椅子になんとか座った。
「……伊藤くん、飲み物買ってこようか? 顔色が悪いよ」
いつもクールな関根さんの隣に座ったら、顔を覗き込まれる。彼女の心配そうな顔を初めて見た。そんな顔をさせるのが申し訳なくて、余計に苦しくなる。
「いや……自分で、買ってくる。ありがとう」
自分の声はかさかさに乾いて、関根さんにようやく届くくらいだった。関根さんは少しだけ目を見開いて、何か言いたそうだったけど、結局僕の自由にさせてやることに決めたようだった。
財布だけ持って会議室を出て、ずるずるとへたり込んだ。
僕は衣真くんが好きだ。
この気持ちをかき出せたらどんなにいいだろう。燃やして、ススにして、さよならって笑って先に進めたら。
「さよなら」って思ったら泣けてきた。目が潤んでくるのが分かって、こらえる前にひと粒こぼれた。じんじん熱い涙だった。喉のすぐそこまで嗚咽がせり上がるのをぎゅうと押さえつけて耐えている。
——さよなら、僕の恋。
なんて思ったら気障すぎて笑えてきた。笑ったらもっと泣けてきた。
燃やしたくないよ。世界一綺麗な人に恋をしていたいよ。一生でいいよ。一生好きでいさせてよ。
ゆっくり立ち上がって、購買に飲み物を買いに行った。
ギリギリまで寝て、高校の頃から着てるヨレたTシャツを着て、髪を雑にくくって、コンタクトだって七面倒なだけだから黒縁メガネで家を出た。
今日、書評の会の集まりには衣真くんと内山さんの両方が来ると分かっている。2人はほかの会員には交際を隠している。いつから付き合っているんだろう? 全然気づかなかった、って悔しくなる。
久しぶりに傘のいらない日だった。僕は無駄に歩き回って時間を潰して、1分前に会議室のドアを開けた。
衣真くんがぱっと顔を上げて僕を見る。「やっと来たね」って言うみたいに、小さくにこっとする。
僕は衣真くんが欲しくて欲しくて、胸をかきむしってこの感情を全部かき出してしまいたくなる。鼓動が悪い具合に早くなる。肺が潰れたように苦しくて、手近な椅子になんとか座った。
「……伊藤くん、飲み物買ってこようか? 顔色が悪いよ」
いつもクールな関根さんの隣に座ったら、顔を覗き込まれる。彼女の心配そうな顔を初めて見た。そんな顔をさせるのが申し訳なくて、余計に苦しくなる。
「いや……自分で、買ってくる。ありがとう」
自分の声はかさかさに乾いて、関根さんにようやく届くくらいだった。関根さんは少しだけ目を見開いて、何か言いたそうだったけど、結局僕の自由にさせてやることに決めたようだった。
財布だけ持って会議室を出て、ずるずるとへたり込んだ。
僕は衣真くんが好きだ。
この気持ちをかき出せたらどんなにいいだろう。燃やして、ススにして、さよならって笑って先に進めたら。
「さよなら」って思ったら泣けてきた。目が潤んでくるのが分かって、こらえる前にひと粒こぼれた。じんじん熱い涙だった。喉のすぐそこまで嗚咽がせり上がるのをぎゅうと押さえつけて耐えている。
——さよなら、僕の恋。
なんて思ったら気障すぎて笑えてきた。笑ったらもっと泣けてきた。
燃やしたくないよ。世界一綺麗な人に恋をしていたいよ。一生でいいよ。一生好きでいさせてよ。
ゆっくり立ち上がって、購買に飲み物を買いに行った。
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