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第6話 ひかりの影
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僕のクラスに岡部という男子がいる。衣真くんと同じ高校の出身だ。衣真くんの母校はこの大学に年間何十人と合格者を輩出するところだから、クラスに1人いたって何の不思議でもない。
岡部は僕と同じ一浪組で、それもあってときどき話をする。からっとしていい奴だ。クラスでも目立つタイプで、まとめ役。
彼が幹事になって、一浪男子組でコンパが開催された。
参加者は僕も含めて5人で、お好み焼き屋の長テーブルに各々腰を下ろした。二十歳になっているのは岡部だけで、レモンサワーをちびちび飲んでいる。僕たちはお好み焼きだけ頼む。
盛り上げ役の岡部が酔って陽気になっているから、ほかのメンツは飲まなくても話が弾む。
6月ともなるとクラス内にカップルが数組成立して、その噂話から始まって恋バナになる。ヤっただのヤらないだのと探り合う。僕は聞かれて、正直に「男と付き合っていた」と答えた。
「お、マジ? おれも高校のときカワイイ男の子と付き合ってたんだわ」
岡部が軽い口調で反応した。
カワイイ男の子、と言われるとすぐに衣真くんが思い浮かんでしまう。そこで岡部と衣真くんが同じ高校だと思い出した。もしかして、と聞こうとして口をつぐんで、どきどきする心臓を押さえつける。
「カワイイってなに? 女装男子?」
「いやいや~。顔がいいとかじゃないんだけど、なんていうの? 小動物系? とか女子には言われてたけど。仕草と表情がカワイイ系」
「え~、想像がつかんわ。写真ないの」
「写真じゃ伝わらないんだよな~」
それ、衣真くんだよね。って言葉が出てこない。いい奴だけどガサツな岡部と、僕の大好きな綺麗な衣真くんが結びつかなくて脳が焼き切れそうだ。じわり、と泣きたくなる。
「そんなカワイイならなんで別れたんだよ」
「確かに。キープしとけよ。まさか乗り換えたのかー?」
黙って、うまく割れなかった割り箸を見つめている僕を置いて会話が進む。
「いや~! 喧嘩すると大変なのよ! お父さんが哲学者で? まず『善とは何か』からお説教が始まるわけ」
「うわっ。重……」
「普段はカワイイんだけど。いつも正しい行いについて考えてるからこっちの言い訳の余地がないわけ。善と悪の基準がその子の中でぜーんぶ決まってんの。それは動かしようがないのよ」
「キツいな~!」
「それ、衣真くんだよね」
はっきり遮るつもりが、乾いた声しか出なかった。
「ん? 知り合い?」
「サークルが同じだから。あんまり悪口は聞きたくない」
自分の言葉で宴席がしゅるしゅると盛り下がる。それでも、これ以上聞くのは無理だった。岡部と衣真くんのカップルを想像するのも限界だった。
「あー……。ごめん」
「いや、僕もごめん」
何に対して謝っているのかよく分からないけど、謝った。
岡部は僕と同じ一浪組で、それもあってときどき話をする。からっとしていい奴だ。クラスでも目立つタイプで、まとめ役。
彼が幹事になって、一浪男子組でコンパが開催された。
参加者は僕も含めて5人で、お好み焼き屋の長テーブルに各々腰を下ろした。二十歳になっているのは岡部だけで、レモンサワーをちびちび飲んでいる。僕たちはお好み焼きだけ頼む。
盛り上げ役の岡部が酔って陽気になっているから、ほかのメンツは飲まなくても話が弾む。
6月ともなるとクラス内にカップルが数組成立して、その噂話から始まって恋バナになる。ヤっただのヤらないだのと探り合う。僕は聞かれて、正直に「男と付き合っていた」と答えた。
「お、マジ? おれも高校のときカワイイ男の子と付き合ってたんだわ」
岡部が軽い口調で反応した。
カワイイ男の子、と言われるとすぐに衣真くんが思い浮かんでしまう。そこで岡部と衣真くんが同じ高校だと思い出した。もしかして、と聞こうとして口をつぐんで、どきどきする心臓を押さえつける。
「カワイイってなに? 女装男子?」
「いやいや~。顔がいいとかじゃないんだけど、なんていうの? 小動物系? とか女子には言われてたけど。仕草と表情がカワイイ系」
「え~、想像がつかんわ。写真ないの」
「写真じゃ伝わらないんだよな~」
それ、衣真くんだよね。って言葉が出てこない。いい奴だけどガサツな岡部と、僕の大好きな綺麗な衣真くんが結びつかなくて脳が焼き切れそうだ。じわり、と泣きたくなる。
「そんなカワイイならなんで別れたんだよ」
「確かに。キープしとけよ。まさか乗り換えたのかー?」
黙って、うまく割れなかった割り箸を見つめている僕を置いて会話が進む。
「いや~! 喧嘩すると大変なのよ! お父さんが哲学者で? まず『善とは何か』からお説教が始まるわけ」
「うわっ。重……」
「普段はカワイイんだけど。いつも正しい行いについて考えてるからこっちの言い訳の余地がないわけ。善と悪の基準がその子の中でぜーんぶ決まってんの。それは動かしようがないのよ」
「キツいな~!」
「それ、衣真くんだよね」
はっきり遮るつもりが、乾いた声しか出なかった。
「ん? 知り合い?」
「サークルが同じだから。あんまり悪口は聞きたくない」
自分の言葉で宴席がしゅるしゅると盛り下がる。それでも、これ以上聞くのは無理だった。岡部と衣真くんのカップルを想像するのも限界だった。
「あー……。ごめん」
「いや、僕もごめん」
何に対して謝っているのかよく分からないけど、謝った。
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