振り向いてよ、僕のきら星

街田あんぐる

文字の大きさ
上 下
7 / 35
第3話 こころの深いひと

1

しおりを挟む
 百均のアクセサリーコーナーにどぎまぎしながら、できるだけ地味なヘアピンを買った。4月から伸ばしている髪が、いい加減うざったくてたまらない。
 美容師のお兄さんには「髪を耳にかけないでよ。癖がつくから」と口を酸っぱくして言われている。

「ヘアピンで留めたらいいよ。最近は『ヘアピン男子』とか言うでしょ」

 快活な若い美容師さんは、あっさり難易度の高いことを言う。「ヘアピン男子」なんて聞いたこともなかったけれど、曖昧にうなずいておいた。
 そして僕はうっかりしたことに、どこでヘアピンを買えるのかを聞き忘れた。ショッピングビルのキラキラしたアクセサリーコーナーが頭に浮かんで尻込みする。キラキラしていなくてもいいのだ。黒で、目立たなくて、しっかり留まればそれでいい。誰か女の人に聞こう。
 まず頭に浮かんだのは姉と母だけど、僕の家族はあまり仲がよくない。いや、仲がいい/悪いに分類されるような感じじゃなくて、疎遠なのだ。家族一人ひとりとの距離が、すごく遠い。ヘアピンの話だけで連絡するにはちょっと難しい関係だ。
 僕の学部には女子学生があまり多くなくて、仲のいい女性の友人はいない。うーん、と考え込んで数日が経った。
 書評の会の集まりで、僕は同期の関根さんのヘアピンに気づいた。関根さんは黒髪を一本の三つ編みにまとめて肩に流している。その耳の上あたりに、大きなパールのヘアピンを留めていた。
 まだ開始時刻までには時間がある。関根さんとすごく親しいわけではないけど、聞くなら今だと思った。

「関根さん、そのヘアピンきれいですね」
「……ん? ありがとうございます」

 関根さんの微妙な沈黙で、気づいた。周囲の人たちには、僕が関根さんに気があるように見えている……!
 顔がぼっと熱くなる。そんな、衣真くんもいるっていうのに……。

「あ、いや、僕もヘアピン欲しいんですけど、そんなおしゃれなのじゃなくて、黒で、しっかり留まればなんでもよくて、髪が、伸ばしてるんですけど、邪魔で」
「……ああ、なるほど」

 僕は焦って文になってない切れ切れのセリフを並べて、関根さんはいつものクールな顔を崩さずに「なるほど」とだけ言った。

「だから、どこで買えばいいんでしょうか? すみません、聞ける人がいなくて……」
「ああ、百均でいいんじゃないですか? ねえ、濱田はまださん」

 関根さんは、四年生の黒髪ボブの先輩に話を振った。新歓のとき、僕にサークルの説明をしてくれた人だ。

「そうね。百均の方がむしろシンプルなものが見つかると思いますよ」
「なるほど。ありがとうございます」

 衣真くんは真面目な顔で、僕たち3人の会話をふんふんと聞いている。さっき衣真くんのことが一瞬頭をよぎった気がしたけど、なんだったか思い出せなくて考えるのをやめにした。大したことじゃなかったんだろう。
 というわけで話は冒頭に戻り、僕は細いピンの詰め合わせ(パッケージには「アメピン」と書いてある)と、大きめのぱっちんピンを手に入れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最後の君へ

海花
BL
目的を失い全てにイラつく高校3年の夏、直斗の元に現れた教育実習生の紡木澪。 最悪の出会いに反抗する直斗。 しかし強引に関わられる中、少しづつ惹かれていく。 やがて実習期間も終わり、澪の家に通う程慕い始める。 そんな中突然姿を消した澪を、家の前で待ち続ける……。 澪の誕生日のクリスマスイブは一緒に過ごそう…って約束したのに……。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...