振り向いてよ、僕のきら星

街田あんぐる

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第2話 まぶしい

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 ゴールデンウィークに合宿がある、なんて聞くと華やかなサークルの華やかな団体旅行を想像するかもしれない。実際は、学校の部活棟の一室に缶詰になるだけ。畳敷きの部屋で各自気ままに過ごす、いかにもうちのサークルらしいイベントだ。
 名称は「積読消化合宿」。名前の通り本を読む人もいれば、書評を書く人もいれば、課題のレポートに必死な人もいる。自由な空間。
 そんなゆるい雰囲気の中、僕は若干体調が悪かった。
 今日は細い雨の降る低気圧。持病の頭痛が顔を出す。部室棟にはぬるい冷房がかかっている。うっすらと肌寒く、でも羽織るものは持っていない。
 頭痛はいつものことだから心配はかけたくない。先輩たちには何も言わず、本を読んでいるフリをする。実際は一文字も頭に入ってこない。

「おやつ買ってきましたー!」

 衣真いまくんの楽しげな声も、頭にズキズキ響く。お茶とジュースとチョコとポテチを「飲み物・おやつコーナー」に並べる姿をぼんやりと見る。
 衣真くんはマメだなあ。ちまちまとお菓子を並べ直す様子は、巣穴を整えるリスみたいだ。そう思っていると、衣真くんは振り返って僕を見た。
 ぱちっと視線が合う。見ていたのがバレたことより、体調の悪い表情を見られたことに動揺する。
 衣真くんは小首をかしげた。それからすすすと寄ってきて、僕の前に正座で座った。

「体調悪い?」

 僕の顔を覗き込んで、声をひそめて訊く。

「あ……うん」
「何か欲しいかなと思って。これ、冷えてるお水。常温のお水もあった。スポドリは冷えてるのしかなかった。低血糖ならチョコ、あるよ」
「え」

 僕は目を丸くして衣真くんの顔を見つめた。

「買ってきてくれたの、わざわざ」
「うん」

 衣真くんは「当たり前だ」という表情で、ふわりと微笑んだ。衣真くんの周りだけ、陽だまりみたいに優しく温かい。僕はほんのちょっとだけ泣きそうになった。

「ありがとう……。常温のお水、もらおうかな」
「うん。ほかのも置いとくね。ほかに欲しいものがあったら、言って」
「うん。あの、ほんとにありがとう……」

 頭がどんよりと重くて、うまくお礼の言葉が出てこない。僕の心には、もっと伝えたい気持ちがたくさんあるのに。
 衣真くんだけが、雨の中、購買まで行ってくれた。衣真くんだけが気づいて、行動に移してくれた。なんでもないことみたいに。

「あのお菓子とかって、カモフラージュ……」

 僕に気を遣って、あくまで全員分の買い出しってことにしてくれた……?

「うん。でもせっかく購買に行ったから。どうせみんな食べるでしょ」

 衣真くんはあっけらかんと目を細めるけど、それってすごく大変なことだ。
 飲み物だけで5キロのレジ袋を、傘を差しながら運んできてくれた。僕のために。

「大丈夫だよ」

 にこっと笑って、衣真くんは僕に小さくうなずいた。それから大変なことは何もなかったみたいにお菓子コーナーを物色し始めた。
 衣真くん、すっごく優しいなあ。普通だったら、面倒でやらないことだ。僕だって、ここまでの親切はしない。できない。自分のちっぽけな心が恥ずかしくなる。
 衣真くんは人に親切にするのが当たり前なんだ。すごいなあ……。
 もらったお水で頭痛薬を飲む。思考がぼんやりして、薬を飲むことも頭から抜け落ちていたのだ。
 冷えた身体に、常温のお水の優しさがしみ込んでいく。スポーツドリンクも口に含む。こちらは冷たい。でもちょうどいい甘さがこわばった身体をほどいてくれる。
 お水とスポーツドリンクを交互に飲む。心が温かく満たされていく。衣真くんの優しさも一緒に、身体の中に溶け込んでいくような気がした。
 衣真くんは、すごい。僕はこの人に敵わなくていいんだ。素直にそう思えた。
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