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第二部 「優しいお正月」作戦編

9. 恋愛お試し期間

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「あの……相性、よかったですよね?」

 田中はきゅるんとした上目づかいで浅井を見る。
 あざといようで、不安を隠せていない。元セフレと比較されるのが不安なんだろう。

「あー、よかったな。またしようよ」

 浅井が頬にキスすると、田中は安心した声で笑った。

 ——柘植野の方が、ずっといいけどな……。

 柘植野とは大学時代から関係を持っているから、相性がよく感じるのは当たり前。
 田中か、マッチングアプリで捕まえたほかの誰かと回数を重ねれば、そのうちよくなる。

 そう理解していても、柘植野が欲しくなる。

 柴田も欲しい。
 さっきフロントで会ったとき、柘植野に身体を隠して、浅井を怖がる素振りを見せていた。

 柴田を抱きしめて、「おれは柴田くんが怖いことは絶対にしないよ」とささやいて、安心させてあげたい。
 それから安心させたところで「今から掘るぞ」と組み敷いて、泣きそうになる顔が見たい。

 柘植野はバリネコだから、柴田くんが上なんだろう。
 まだ手付かずの柴田くんの身体に、掘られるよろこびをじっくり教え込みたい。
 あの爽やかな青年の本性を、セックス大好きなバリネコに作り変えてやりたい。

 焦るな。あいつらは、たかだか1ヶ月続いてるだけだ。柘植野はどうしようもない男だから、すぐに別れてこっちに戻ってくる。

 別れてショックを受けている柴田くんに付け入って、エッチに持ち込むのもいい。

 待つことだ。あいつらはすぐに別れる。
 浅井は自分にそう言い聞かせた。

 その頃、隣室では。

文渡あやとさんの手すべすべ……ッ!! ぎゅって握ってて……!!」
「あん、しょんな、ごりごり、されたらぁ……!!」

 柴田は全身で柘植野におおいかぶさって、2人の男の部分をこすり合わせていた。

 不慣れな動きを柘植野が両手で支えている。
 柘植野の薄い手のひらと細い指に先端が引っかかると、たまらなく気持ちいい。
 柴田はしつこく柘植野の弱いところにこすり付けた。

「ひぅぅ……ッ!! またイきゅぅぅぅ……ッ!!」

 柘植野の腹に、白濁が散った。

「文渡さんまたイっちゃったの?」
「イった……イったから……もうむり……」

 柘植野の目は焦点が合っていない。
 さすがにやりすぎた! 柴田は反省した。
 荒い呼吸を繰り返す柘植野の唇に、ごめんなさいのキスをした。

「ごめんね文渡さん。おれイけてないから……ううん、文渡さんはもうしなくていいよ。すごいえっちな文渡さんガン見させて」
「そんなぁ……えっちだなんて……」

 Mっ気がある柘植野は、キュンとした。

「あー……。文渡さんエッロい……。おれが抜いたら拭いてあげる。一緒にお風呂入りたいな」
「うん。一緒に入ろ」

 柘植野はぽやぽやと返事をした。
 柘植野は本当にこれ以上イけないらしい。
 しかし、いくら柘植野がエロくても、射精にはあと少し足りない……。

すぐるさん、お尻、使う……?」

 期待にうるんだ目で、柘植野が柴田を見る。

「お尻は、エッチしすぎたからもうやめとこうって決めたじゃん! 切れたら大変だから! 文渡さんのえっち! 優しい! 好き!」
「うぅ、優さんは優しい……。好き」
「じゃ、じゃあ……」

 柴田はごくりとつばを飲んだ。

「文渡さんがお尻触ってるとこ、見たいなぁ~、なんて……」
「そ、そんな恥ずかしいこと……」

 柘植野は口ではそう言いながら、すんなり脚を立てて腕を伸ばし、すぼまりの周りをくるくる撫でた。

 え、えっちだ……!! 文渡さんがえっちに積極的すぎる……!!

 柴田は感動した。

「優さん見て?」
「見てるよぉ……! 解説付きなの最高……! 文渡さんほんとにえっちで頭おかしくなりそう……!」

 柘植野は恥じらいもなく、柴田に見せつける。

「あーエロすぎ。脳の血管切れました。お腹にぶっかけるよ? いいね?」
「うん、うん……!」
「あー、ヤバ……!」

 柴田の白濁は、腹を越えて柘植野の顔まで汚した。

「ハッ! 文渡さん大丈夫!?」
「だいじょぶ……じゃ……ない……」
「どのへんが大丈夫じゃない!? まず顔拭くね!? かけちゃってごめんなさい!」
「んぅ……だいじょうぶ……ありがとう」

 柘植野は、精液がぱたぱたと飛んだ顔で、無邪気に笑った。
 柴田の股間が、またピクリとした。

「文渡さんかわいすぎ……。目つぶって……拭きますからね……」
「ありがとう」

 柴田が一通り柘植野の身体を清め、2人は抱き合った。

「優さん、あの……」
「な、なんでしょう……!?」

 やりすぎて叱られる!?と柴田は緊張した。

「今日はちょっと、一緒にお風呂は……」
「うん。疲れさせちゃってごめんなさい。ゆっくり入ってきて」
「んん……。そうじゃなくて……。一緒に入ったらまたえっちな気持ちになっちゃうから……」

 柘植野ははにかみ、柴田の股間はまた熱くなる。

「もー! 文渡さん! そんなこと言われたらおれの方がえっちな気持ちになっちゃうからね!」
「ふふ。ごめんね。次は一緒に入りましょう」
「はい! またラブホ来るの、楽しみだなー!」

 柘植野は嬉しかった。

 通い慣れたラブホも、大好きな人と来ればこんなに素敵な場所なんだ。
 恋人と一緒なら、大きなお風呂にはしゃぐこともできるんだ。

 恋人ができて、よかったな。いや、優さんが恋人になってくれて、本当によかったな……!

 そして柘植野は、さりげなく「次」の約束ができたのが嬉しかった。

 柴田とは、まだ1ヶ月しか付き合っていない。恋愛としては、まだまだお試し期間のような心地だ。
 本当に自分が柴田の隣にずっといられるのか、確証がない。

 だから「次は一緒に入りましょう」の約束が嬉しかった。
 長くて数ヶ月の未来の約束だけど、柴田がそれまで自分と一緒にいてくれる気があると、分かったのが嬉しかった。

 こんなふうに、ずっと先の将来を約束する勇気を持てるようになるのは、いつなんだろう……。

◇◇◇

 柘植野が目を開けると、まだ真夜中だった。
 隣で、柴田が寝息を立てている。
 先に寝てしまった柘植野の手を、柴田の大きな手が包んでいた。
 柘植野はキュンとして、柴田がたまらなく好きだと思った。

 いつか、この人と将来の約束をしよう。
 優さんは自分から「タメ口で話したい」と伝えてくれる人だから、きっとお互いに歩み寄れる。
 将来の約束をする勇気が持てるまで、誠実なお付き合いをして、離れずに一緒にいよう。

 睡魔に弱い柘植野だが、この誓いは、朝目覚めてもまだ、柘植野の心にしっかりと刻まれていた。
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