【完結】料理好きわんこ君は食レポ語彙力Lv.100のお隣さんに食べさせたいっ!

街田あんぐる

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第一部 ご飯パトロン編

63. 超贅沢な天丼

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文渡あやとさーん! 手が! 手が震えてます! 一回置きましょう!」
「でも! 衣がダメになっちゃう!」
「ええい! 仕方ない! 入れていいですよ! 落としちゃダメですよ! 油に置くように……!」
「怖いよー!!」

 柘植野は泣きそうだ。
 エプロンをして、アームカバーもして、メガネもかけた万全の装備で、エビを天ぷら油に入れようとしている。
 できるだけ腕を伸ばして鍋から距離を取って、まだ柘植野はヒィヒィ言っている。

 柴田はあきれた。
 文渡さんって、揚げ物のときはこんなにビビリなんだ。
 なんでもできるカッコいい大人だと思ってたけど、文渡さんにもできないことがあるんだな。

「怖いよー!! 入れます!! 今入れますからね!!」
「早く入れてください! 衣が垂れる!」
「入れます!! 入れました!! わー怖い!!」
「もう入っちゃえば大丈夫ですよ」
「あー怖かった……。すぐるさんのおかげで天ぷらを揚げられました」

 柘植野は額に脂汗あぶらあせをかいて、ギャーギャー騒いだからか息も上がっている。

 柴田はまたあきれた。

「取り出すまでが天ぷらですからね! それにまだ何尾も残ってますから!」
「うぅ……がんばります……」
「応援してますから! がんばれー! がんばれー!」
「2匹目、入れまーす!! 怖いよー!!」
「がんばれー! 大丈夫ですよー!」

 柴田は楽しくて、くすくす笑った。

「入った! ね、言ったでしょう? 僕には優さんに教えてもらうことがたくさんあるって」
「よく分かりました!」

 柴田は幸福に笑って、1匹目のエビをチェックした。
 柘植野がビビったせいで衣がかたよってしまっているが、許容範囲だろう。

「優さん」
「なんですか?」
「僕たちはこれから、ご飯と言葉を交換するだけじゃなくて、もっといろんなものを教え合って、交換していくんですよ」
「おれも今、そうなのかなって思いました」
「ふふ。あなたは賢い」

 柘植野は、ぱあっと幸福に笑った。

「ちゃんとエビの様子を見てくださいね! それも揚げ物の仕事ですからね!」
「はいはい、でも油怖いよー!!」

 2人の今日の夕ご飯は、海老天だけの超贅沢な天丼という計画。そんなわがままが通るのは、家庭料理だけだ。
 柘植野と柴田が「いただきます」をするのは、もう少し先になりそうだけれど。
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