56 / 104
第一部 ご飯パトロン編
56. 初めてのアルコール
しおりを挟む
「そういえばおれ、まだお酒飲んでないです」
洗い物をする柘植野に後ろから腕を回して、抱きつきながら柴田は言った。
「二十歳になってから?」
「そうです。お酒コーナーはおれには縁のない世界だと思ってました」
「今から飲んでみますか? 明日もお休み?」
「海野屋は休みです。教習所あるけど、日程変更します」
世間一般のお盆休みが終わり、柴田がバイトする海野屋はお盆の代休に入った。
柴田に自動車学校以外の予定はなく、のんびりと2人の時間を過ごしている。
「そう。それで問題ないようなら」
「やったー!」
「買いに行きましょうか」
じっとりと暑い熱帯夜をくぐり抜けて、2人はスーパーにたどり着いた。
柴田は目移りしてきょろきょろする。
「まずは、弱くて飲みやすいのと、少し強めのと、ビールを飲み比べてみるのがいいと思うんです。ビールを飲む機会はよくありますからね。甘いのはこの辺です」
柴田は、なるほど、とうなずいた。
マスカット味のサワーを選ぶ。柘植野が強めのレモンサワーとビールをカゴに入れた。
そして柘植野は、白ワインのボトルも手に取ってレジへ向かう。
「柘植野さん! 飛ばしすぎじゃないですか!?」
「ワインは僕の分です。柴田さんが飲めなかった分も全部飲むから大丈夫ですよ」
「はええ……。強いんですね」
「そこそこね」
半額シールの貼られたしなしなのフライドポテトと刺身をつまみに買い、帰宅した。
「パッチテストは大丈夫なんですよね?」
「はい。赤くならなかったです」
「じゃあ、これから」
柘植野はマスカットサワーを開けて、柴田に差し出した。
「柴田さんのお誕生日に、乾杯」
「えへへ……。ありがとうございます」
柘植野はワイン用のグラスを取りに行き、戻ってきてぎょっとした。
「コラーッ!! ジュースの勢いで飲まないの!! まずはひと口ずつ飲みなさーい!!」
「ひええごめんなさい……」
柘植野は焦って大声を上げた。驚きすぎて息が上がっている。心臓に悪い……。
「いえ……。こちらこそ大きな声を出してごめんなさいね。びっくりして……」
「バカですみません……」
「柴田さんはバカじゃないです。思い切りよく行動できるのは、柴田さんのいいところですよ。でもお酒は危ないから、一旦お水飲みましょう」
柴田にグラス1杯の水をちびちび飲ませる。
その間に柘植野は、ポテトと刺身をつまみに、白ワインをどんどん飲む。
「柘植野さんもジュースのペースで飲んでるじゃないですか」
「自分のアルコール耐性が分かったら、安心してこのペースで飲めるんですよ」
「ふうん……」
「気分はどうですか?」
「別に普通です。でもおいしくないです……」
「あらら。味付けが悪いのか、アルコールの味を受け付けないのか、どっちでしょうね」
柘植野は缶に口をつけ、ひと口飲んだ。
よくできたマスカット味だと思う。味そのものは悪くない。
「柴田さんはアルコールの味がまだ苦手なんじゃないかな。やめておきますか?」
「せっかく3種類揃えたんで、全部飲んでみます」
柴田はレモンサワーを飲み、「さっきと同じ味がする」と主張した。
そしてビールを口に含んだ瞬間真顔になり、嫌そうな顔で飲み込んだ。
「お酒苦手です~~……。味が苦手です」
「それはね、慣れます」
「ほんとですか!?」
「そのうちアルコールの味そのものが好きになるんですよ。不思議なもので」
言いながら、柘植野は柴田が残した缶を空けていく。
「柴田さん? 体調は大丈夫ですね?」
柴田は迷った。ここで「気分が悪い」と言えば、柘植野さんは泊めてくれるかもしれない。そしてちょっとエッチなことも……!
「はい! 全然大丈夫です!」
嘘はつけなかった。
こんなことなら、我慢してもっと飲めばよかった。
酔っ払ったら、きっと躊躇わずに柘植野さんに「したい」って言えたのに。
「柘植野さんは酔っ払ってないんですか?」
柘植野さんの方から、迫ってくれないかな。
「んー、多少酔ってるね」
柘植野は口を大きく開いて、山盛りの刺身のツマを一気に口に入れる。
柴田は柘植野がツマをどんどん食べるのを横目で見ている。
柘植野さんは、身体は華奢なのにたくさん食べるし、口が大きい。あんなに大きく開くなんて……。
柴田だってAVくらい見たことがある。行為に口を使うことも知っている。
だから、大量のツマがどんどん吸い込まれていく柘植野の口は、ミステリアスでエロティックに思えた。
「どうしたの? 食べちゃいますよ」
「あ、食べちゃえるなら、どうぞ」
「はあい」
柘植野はプラスチックトレーのツマをかき集めにかかった。
柴田はまた、横目で柘植野が口を大きく開けるのを見ている。
えっちだ。
「ごちそうさまでした」
柘植野が手を合わせて、慌てて柴田も合わせる。
柘植野がごちそうさまをするとき、細い指は指先まで綺麗に揃って、整った爪の形がよく分かる。
「ごちそうさまでした」と声を発する唇は小ぶりで、さっきあんなに大口を開けていたとは思えない。
綺麗で、ミステリアスで、えっちだ。
柘植野さんはどうして、エッチなことを教えてくれないんだろう?
「柘植野さんは、酔うとどうなるんですか」
「んー? 楽しい気分になる。柴田さんがもっと大好きになる」
「もっと大好きに!? 嬉しいです!!」
柘植野はくすくす笑う。それから缶をまとめて立ち上がりかける。
柴田は腰を上げる前の肩に寄りかかって、まだ行かないでほしいアピールをした。
柘植野は優しく笑って、柴田の髪を撫でる。
柴田はそれだけでも嬉しくて、どきどきしながら柘植野に身体を寄せて甘える。
柘植野は猫のようにしなやかに身体をひねって、柴田の耳に口を寄せた。
「ねえ。エッチなキス、してみますか?」
「ええええエッチなキス!?!? したいです!! とてもしたいです!!」
柘植野は柴田に向き直って、真剣な顔で柴田の頬を包んだ。
「酔った勢いじゃないんですよ。今日は最初から、そういうキスをしたいって言おうと思ってたんです」
「おれは、どっちでもいいですけど……」
「衝動で柴田さんと接してるって思わないでくださいね。全部、よく考えてからしたいんです。柴田さんが——ん、むぅ」
柴田は柘植野の言葉を聞きたくなくて、唇を押し付けて塞いだ。
どうせ、おれが童貞だから初めては大切にしなきゃとか、そういうことを言われるんだ。
確かにおれは童貞だけど、成人してるし男なんだ。柘植野さんのこと欲しくてたまらないって思ってるんだ。
「んむ……んん、んぅ……ふぅん……」
それなのに、柘植野さんのバカ。
洗い物をする柘植野に後ろから腕を回して、抱きつきながら柴田は言った。
「二十歳になってから?」
「そうです。お酒コーナーはおれには縁のない世界だと思ってました」
「今から飲んでみますか? 明日もお休み?」
「海野屋は休みです。教習所あるけど、日程変更します」
世間一般のお盆休みが終わり、柴田がバイトする海野屋はお盆の代休に入った。
柴田に自動車学校以外の予定はなく、のんびりと2人の時間を過ごしている。
「そう。それで問題ないようなら」
「やったー!」
「買いに行きましょうか」
じっとりと暑い熱帯夜をくぐり抜けて、2人はスーパーにたどり着いた。
柴田は目移りしてきょろきょろする。
「まずは、弱くて飲みやすいのと、少し強めのと、ビールを飲み比べてみるのがいいと思うんです。ビールを飲む機会はよくありますからね。甘いのはこの辺です」
柴田は、なるほど、とうなずいた。
マスカット味のサワーを選ぶ。柘植野が強めのレモンサワーとビールをカゴに入れた。
そして柘植野は、白ワインのボトルも手に取ってレジへ向かう。
「柘植野さん! 飛ばしすぎじゃないですか!?」
「ワインは僕の分です。柴田さんが飲めなかった分も全部飲むから大丈夫ですよ」
「はええ……。強いんですね」
「そこそこね」
半額シールの貼られたしなしなのフライドポテトと刺身をつまみに買い、帰宅した。
「パッチテストは大丈夫なんですよね?」
「はい。赤くならなかったです」
「じゃあ、これから」
柘植野はマスカットサワーを開けて、柴田に差し出した。
「柴田さんのお誕生日に、乾杯」
「えへへ……。ありがとうございます」
柘植野はワイン用のグラスを取りに行き、戻ってきてぎょっとした。
「コラーッ!! ジュースの勢いで飲まないの!! まずはひと口ずつ飲みなさーい!!」
「ひええごめんなさい……」
柘植野は焦って大声を上げた。驚きすぎて息が上がっている。心臓に悪い……。
「いえ……。こちらこそ大きな声を出してごめんなさいね。びっくりして……」
「バカですみません……」
「柴田さんはバカじゃないです。思い切りよく行動できるのは、柴田さんのいいところですよ。でもお酒は危ないから、一旦お水飲みましょう」
柴田にグラス1杯の水をちびちび飲ませる。
その間に柘植野は、ポテトと刺身をつまみに、白ワインをどんどん飲む。
「柘植野さんもジュースのペースで飲んでるじゃないですか」
「自分のアルコール耐性が分かったら、安心してこのペースで飲めるんですよ」
「ふうん……」
「気分はどうですか?」
「別に普通です。でもおいしくないです……」
「あらら。味付けが悪いのか、アルコールの味を受け付けないのか、どっちでしょうね」
柘植野は缶に口をつけ、ひと口飲んだ。
よくできたマスカット味だと思う。味そのものは悪くない。
「柴田さんはアルコールの味がまだ苦手なんじゃないかな。やめておきますか?」
「せっかく3種類揃えたんで、全部飲んでみます」
柴田はレモンサワーを飲み、「さっきと同じ味がする」と主張した。
そしてビールを口に含んだ瞬間真顔になり、嫌そうな顔で飲み込んだ。
「お酒苦手です~~……。味が苦手です」
「それはね、慣れます」
「ほんとですか!?」
「そのうちアルコールの味そのものが好きになるんですよ。不思議なもので」
言いながら、柘植野は柴田が残した缶を空けていく。
「柴田さん? 体調は大丈夫ですね?」
柴田は迷った。ここで「気分が悪い」と言えば、柘植野さんは泊めてくれるかもしれない。そしてちょっとエッチなことも……!
「はい! 全然大丈夫です!」
嘘はつけなかった。
こんなことなら、我慢してもっと飲めばよかった。
酔っ払ったら、きっと躊躇わずに柘植野さんに「したい」って言えたのに。
「柘植野さんは酔っ払ってないんですか?」
柘植野さんの方から、迫ってくれないかな。
「んー、多少酔ってるね」
柘植野は口を大きく開いて、山盛りの刺身のツマを一気に口に入れる。
柴田は柘植野がツマをどんどん食べるのを横目で見ている。
柘植野さんは、身体は華奢なのにたくさん食べるし、口が大きい。あんなに大きく開くなんて……。
柴田だってAVくらい見たことがある。行為に口を使うことも知っている。
だから、大量のツマがどんどん吸い込まれていく柘植野の口は、ミステリアスでエロティックに思えた。
「どうしたの? 食べちゃいますよ」
「あ、食べちゃえるなら、どうぞ」
「はあい」
柘植野はプラスチックトレーのツマをかき集めにかかった。
柴田はまた、横目で柘植野が口を大きく開けるのを見ている。
えっちだ。
「ごちそうさまでした」
柘植野が手を合わせて、慌てて柴田も合わせる。
柘植野がごちそうさまをするとき、細い指は指先まで綺麗に揃って、整った爪の形がよく分かる。
「ごちそうさまでした」と声を発する唇は小ぶりで、さっきあんなに大口を開けていたとは思えない。
綺麗で、ミステリアスで、えっちだ。
柘植野さんはどうして、エッチなことを教えてくれないんだろう?
「柘植野さんは、酔うとどうなるんですか」
「んー? 楽しい気分になる。柴田さんがもっと大好きになる」
「もっと大好きに!? 嬉しいです!!」
柘植野はくすくす笑う。それから缶をまとめて立ち上がりかける。
柴田は腰を上げる前の肩に寄りかかって、まだ行かないでほしいアピールをした。
柘植野は優しく笑って、柴田の髪を撫でる。
柴田はそれだけでも嬉しくて、どきどきしながら柘植野に身体を寄せて甘える。
柘植野は猫のようにしなやかに身体をひねって、柴田の耳に口を寄せた。
「ねえ。エッチなキス、してみますか?」
「ええええエッチなキス!?!? したいです!! とてもしたいです!!」
柘植野は柴田に向き直って、真剣な顔で柴田の頬を包んだ。
「酔った勢いじゃないんですよ。今日は最初から、そういうキスをしたいって言おうと思ってたんです」
「おれは、どっちでもいいですけど……」
「衝動で柴田さんと接してるって思わないでくださいね。全部、よく考えてからしたいんです。柴田さんが——ん、むぅ」
柴田は柘植野の言葉を聞きたくなくて、唇を押し付けて塞いだ。
どうせ、おれが童貞だから初めては大切にしなきゃとか、そういうことを言われるんだ。
確かにおれは童貞だけど、成人してるし男なんだ。柘植野さんのこと欲しくてたまらないって思ってるんだ。
「んむ……んん、んぅ……ふぅん……」
それなのに、柘植野さんのバカ。
10
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる
Q.➽
BL
異世界の自分と入れ替わったら、元の世界の教え子の陰キャ生徒にそっくりなドS平凡皇子様に寵愛されてて、側妃どころか結婚まで迫られてるという状況だった事に涙目のイケメン教師の話。
主人公 桐原 七晴 (きりはら ななせ)
生徒 宇城 三環 (うじょう さわ)
※ 11話以降からの、逃亡した桐原側の話は(逃桐)と表記します。
宇城に関しては、元世界線側は現、と名前の前に表記して話を進めます。
※主人公は2人の桐原。同じ人間ですがパラレルワールド毎に性格は違います。
桐原は静、逃げた方の桐原は動、と思っていただけるとわかり易いかと存じます。
※シリアスではございません。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
身代わりオメガの純情
夕夏
BL
宿無しの少年エレインは、靴磨きで生計を立てている。彼はある日、死んでしまったレドフォード伯爵家の次男アルフレッドに成り代わり嫁ぐことを伯爵家の執事トーマスに提案され、困惑する。しかし知り合いの死を機に、「アルフレッド」に成り代わることを承諾する。
バース性がわからないまま、オメガのふりをしてバーレント伯爵エドワードと婚約したエレイン。オメガであることを偽装するために、媚薬を飲み、香水を使うも、エドワードにはあっさりと看破されてしまう。はじめは自分に興味を示さないかと思われていたエドワードから思いもよらない贈り物を渡され、エレインは喜ぶと同時に自分がアルフレッドに成り代わっていることを恥じる。エレインは良心の呵責と幸せの板挟みにあいながら、夜会や春祭りでエドワードと心を通わせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる