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第一部 ご飯パトロン編

26. 流血沙汰!?

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 柴田がエコバッグから食材を取り出して仕分けしていたとき、ドアベルが鳴った。インターホンで返事をする。

「すみませーん、さっきの浅井ですけど、ちょっとティッシュ箱でもらえたりします?」

 なぜか鼻声の、さっきの男性だった。柘植野さんのお友達だと思っていたけど、柘植野さんの家にはティッシュがなかったのだろうか?
 はーい、と返事をして、未開封のティッシュ箱を持って玄関を開けた。

「すいません、鼻血出ちゃって」
「あ……いえ、大丈夫ですか……?」

 一応返事はしたものの、柴田は混乱していた。
 鼻血はたまたま出ることもあるけど、それなら柘植野さんにティッシュをもらえばいいわけで……。

 流血沙汰!? 柘植野さんはこの人が家に来たのを嫌がってる様子だったし!?

「柘植野さんに何かあったんですか!?」
「あー、いや、あいつはピンピンしてるよ。ちょっと喧嘩はしたけど」
「喧嘩!?」

 柴田は、柘植野がこの体格のいい男に殴られるシーンを想像して青ざめた。

「いやいや、口論ね。たまたま廊下で鼻血が出てきたけど、この鼻血と喧嘩は無関係。でも柘植野が怒ってティッシュくれなかったから、申し訳ない、柴田くんにお願いした次第で」
「……そうですか。あ、袋使ってください」

 柴田はさっさと浅井を追い返したかった。

 柘植野さんが無事か、確認しなければ。

 ゴミ袋を渡せば帰るかと思ったが、浅井はまだ玄関先に居座っている。

「あ、袋ありがとね。悪いけどこのティッシュ、箱ごともらっていい?」
「大丈夫です。……そうだ、連絡先交換してもらっていいですか?」

 柴田の頭の中では想像が悪い方向に走り続け、もう柘植野は意識不明の重体という設定になっていた。
 柘植野の意識が戻らない中でも、この男の素性すじょうを特定できる情報をゲットしておかなければ。そこで柴田が咄嗟とっさに思いついたのが連絡先だった。

「連絡先? いいけど。なんで? ナンパは嬉しいけどおれ彼氏いるからさ~」
「えーっと……」
「あ、恋愛相談?」
「そうです!! そうなんです!! 柘植野さんのお友達に、ぜひ!!」

 柴田はウソをつくときに力む癖があり、全力で肯定した。

「柘植野も隅に置けんなぁ~。いいよ。スマホ持ってきて」

 トークアプリの名義は「浅井康介」だから「浅井」と名乗っているのは偽名ではない。
 柴田はそれだけ確認して、「また連絡します」とせわしなく浅井を追い返した。
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