上 下
4 / 16
本編

振り回されてあげてるだけ

しおりを挟む
 現在進行系でお持ち帰ってる子に「コンビニに寄りたい」と言われたら、ゴムと歯ブラシを買うんだと思うじゃん? 今日のかわいい子は一味違う。
 おにぎりコーナーの前で真剣に腕組みしてるかわいい波鶴はづちゃん。お腹空いちゃったの? 分厚いホイップ盛り盛りのパンケーキを二段食べたのに? 今おれにお持ち帰られてる自覚、あるかなー?
 真剣におにぎりを吟味してるのを、コンビニの入り口脇でぼんやり待つ。歯ブラシは買っといてあげよう。今日ゴム要るかな~。男としたことないんだもんね。天然な雰囲気だだ漏れてるし、何も考えずに着いてきてるかも。今日は波鶴ちゃんが気持ちいいことだけしてあげよ。ゴムはいざとなったら家にあるやつで。
 え、まさかまさか実はやっぱり女の子? 男が詐称?
 いやいや元奥さんいるって話だったし。それは同性婚なんて制度ない時代の話のはず。いや、でも相手の性別を逆に言ってたら、ねぇ?
 元奥さんが処理班のトップって話だけど……ググる。いや、名前読めないわー……。
「日向山鈍」
 どこまでが名字でどこからが名前? 性別は? いやいや、この名前をさらに検索して、と。画像検索で……。
 あ、女の人だ。キリッとした、いかにも司令官って感じの人だな~。波鶴ちゃんってこういう人がタイプなの? ダラっとチャラいおれと真逆じゃね? え? いやいや不安には……なってないけどね?
 とにかく波鶴ちゃんは男なわけだ。うん。
「待たせたな」
 検索に熱中しちゃってた。波鶴ちゃんに声をかけられて顔を上げる。波鶴ちゃん……どう見てもおにぎり二つと缶の飲み物と、さらにもう少し買った感じの膨らみの袋を提げている。
 どんだけ食べるの!? あれ? 華奢だと思ってたけど、ブランド服マジックで華奢に見えてたとか? 脱いだらすごいのよ~ってタイプですか?
 うわ~、どんどん予想を裏切ってくる男、いいね。
「待ってないよー。歯ブラシ買った?」
「職場用のを持っている」
「お昼も磨いてるんだ。えらいね。あ、それ朝ごはん?」
「いや。小腹が空いたので」
 おっ……? 小腹ね。だいぶ容量のある小腹だね。いいねぇ~。お持ち帰られていきなりたくさんおにぎり食べるの、かわいーね。

 波鶴ちゃんとデートしようって決意したのが昨日の夕方。帰宅してから部屋をめちゃくちゃ片付けた。散乱したコンビニ飯のゴミをとにかく袋に詰めて、キッチンに押し込んだらとりあえずなんとかなった。
 一応1DK。ソファもあるよ。ソファでイチャイチャしないと始まらないからね。ちょっとえっちな恋愛映画とか観ちゃう?
 お邪魔します、としっかり通る声で言ってから、ちゃんと靴を揃えて玄関を上がる、それだけでいい男って感じするよね。

 ソファでイチャイチャしたいおれと、ソファで小腹を満たしたい波鶴ちゃん。まあおにぎり食べてるところも見たいし、譲ってあげる。あ、缶の梅酒も買ったし、スナック菓子も買ったんだ。スナックはおれも食べていいんだね。優しいね……。

 波鶴ちゃん、おれとして気持ちいいかなー。イチャイチャ、したいなぁ……。波鶴ちゃんにも、おれの身体触ってほしい。だめかな。無理かな……。

 一つ目のおにぎりを食べ終わった波鶴ちゃん。手を拭きながら、どうした、と目線を寄越す。
 波鶴ちゃん今ドキドキしてんの? してないの? ……全然してなさそう。
 買ってきたスナック菓子は、うちの事務所の別の部署がプロモーションに噛んでるやつ。
「ね、それ、パッケージのどっかにラッキーマークあるらしいよ」
「へえ。ラッキーマーク」
 カップ型のパッケージを掴んで差し出してくれるから、一本いただく。側面をぐるぐる回してラッキーマークを探してる波鶴ちゃん。自力でガチの幸運を呼ぶ術とかできそうなのに。お遊びのラッキーマークをマジで探してんの、ほんとにかわいーね。
「どういうラッキーマークなんだ」
「え? 知らない。ルール説明があるでしょ」
「どこに? 蓋か?」
 蓋は、開けてすぐ波鶴ちゃんがソファ脇のゴミ箱に放り込んだ。おれだったら出しっぱなしにするのにな、いい男だなと思ったんだけど、裏目に出たね。
 ゴミ箱を覗き込むけど、触りたくなさそう。おれが拾ってあげ……。
 あ、浮くんだ、それ。
 スン、とゴミ箱から蓋が浮上して、波鶴ちゃんの目の前で止まった。
「ハートの形のラッキーマークだそうだ」
 ほら、と言われてハテナの顔をしていたら、おれの目線の先にルール説明部分が正確に静止した。笑っちゃった。
「すげー!! 術って日常使いするんだ!!」
「こういうちょっとした不便が発生したときだけだ。普段から使うと人間としてたるむ一方だからな」
 意識高いのか低いのかわかんないよ! ゆーてゴミ箱から拾うだけだよ? おれがウケている間に、用済みの蓋はひらひらとゴミ箱に戻っていく。
 すげー。初めて見た。
「どこなんだ……? 側面ではない。底か? 底にわざわざ……」
 真剣にラッキーマークを見つけたい波鶴ちゃん、底という可能性に賭ける。右腕を掲げてカップを持ち上げ……。
「え、タトゥー入れてんの?」
 重力に従ってずり落ちた右袖。露わになった波鶴ちゃんの二の腕には、びっしり、なんていうの? トライバル系? そういうタトゥーが入っており……。
「あ……。いや、ファッションではなく、術を維持し強化するためのものなのだが……。嫌だろうか」
「え? いやいや! 全然! めっちゃすげーね! 何これ! 術使いってみんなこれ入れてるの?」
「これを入れているのは、よほどの古参だけだ」
「へぇ~……。痛そう」
「死ぬほど痛い」
「痛いんだ。術の力でサクッと入るとかじゃないんだ」
「普通の刺青だ。消毒も滅菌も何もない時代のな」
「おお……。そりゃ、イカついね~」
 波鶴ちゃん、そのときを思い出した顔で苦笑する。「古参」って言うんだから何百年前かもしれないのに。
「これさ、身体にも入ってんの?」
「……かなりな。嫌か?」
 嫌なわけない。ドエロいってだけ。
「見せて」
 我慢できなくなって、腕を掴んで耳元でねだる。前衛的で脱がせ方のよくわかんない服じゃなかったら、ちゃんとボタンも外してたんだけど。
「いや、食べているから」
 いつのまにか口に二つ目のおにぎりを詰めてもごもご言う波鶴ちゃん。いや……。おれ今、恥ずかしいくらい余裕ない声してたよね!?
 波鶴ちゃんの腕が伸ばされて、おれの頭をくしゃくしゃ撫でる。……え、嬉しい。そのまま耳をふっとかすめて、頬を包み込んでくれる。あ、嬉しい。甘えていいのかな。
 包んでくれる華奢な手に、頬をすり付けてみる。波鶴ちゃんの顔がこっちを向いて、目線が合って、優しい目でくしゃっと笑ってくれる。
 あ、優しい……。
 甘えていいのかな? おれがリードするつもりだったけど、波鶴ちゃん年上のいい男なんだし。座り直して、波鶴ちゃんにぴったり身体を寄せる。ん?と優しい声で受け入れてくれる。
「タトゥー見せてよ」
 袖をまくりながら聞くと別にいいらしく、口をおにぎりでいっぱいにしたままうなずく。ゆるい袖を肩までたくし上げると、めっちゃ呪術っぽいタトゥーが一面に。ヤバ……。
「指で柄を辿るなよ。力のある紋だから」
 えっ!? こわい……。指で柄を辿ると何かが発動するタトゥー入ってんの!?
 二の腕、細さは女の子みたいなのにフニフニしてなくて、骨に必要最小限の筋肉を添えてみましたって感じで、謎の紋様がゴリゴリに入ってて……。正直、情報量多いよ!
 余裕ないしさ。波鶴ちゃんの首筋に鼻を寄せてみる。あ、若い男の汗のにおい。男じゃん。エロすぎ。くすぐったそうに笑ってる。
 嫌じゃないんだ。おれとしちゃうの? どこまでしちゃおっか?
 どこまでするつもりで、お持ち帰られてんの? ねえ波鶴ちゃん。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

最近流行りの長髪男子ですが、髪が性感帯の長髪男子はお好みですか?

綾巻湯香
BL
六年間ほど書きためていた欲望のままに書き散らした801小説を公開しようと思います。 とんでもないものを開発してしまったかもしれない… 専門用語がえげつないほど出てくる

手〈取捨選択のその先に〉

佳乃
BL
 彼の浮気現場を見た僕は、現実を突きつけられる前に逃げる事にした。  大好きだったその手を離し、大好きだった場所から逃げ出した僕は新しい場所で1からやり直す事にしたのだ。  誰も知らない僕の過去を捨て去って、新しい僕を作り上げよう。  傷ついた僕を癒してくれる手を見つけるために、大切な人を僕の手で癒すために。

推しのドスケベ動画が見れるとか現実か?

みんくす
BL
受けの熱狂的なファン×筋肉ムキムキ・ママ♂アイドルの話です。 :あらすじ: 『グリッドスター』(通称グリスタ)という、メンズ地下アイドルのファンである友渕(攻め)。 なかでも包容力抜群、筋肉ムキムキのリーダーである陽一郎(受け)が推しで、熱意ある『応援』をしている。 ある日ファン仲間である友人から、グリスタの裏チャンネルがあるらしいとの噂を聞く。 その噂が気になりつつ、握手会&ブロマイドお渡し会に参加した友渕は、推しである陽一郎からブロマイドの他に封筒を受け取り……。 ※実在の人物・団体には関係のないフィクションです※ 【他の投稿サイトでも掲載しています】 表紙はmkさん(@memonock)に描いていただきました!

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

蜘蛛の巣

猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω) 世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。 混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。 やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。 伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは? ※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。

九年セフレ

三雲久遠
BL
在宅でウェブデザインの仕事をしているゲイの緒方は、大学のサークル仲間だった新堂と、もう九年セフレの関係を続けていた。 元々ノンケの新堂。男同士で、いつかは必ず終わりがくる。 分かっているから、別れの言葉は言わないでほしい。 また来ると、その一言を最後にしてくれたらいい。 そしてついに、新堂が結婚すると言い出す。 (ムーンライトノベルズにて完結済み。  こちらで再掲載に当たり改稿しております。  13話から途中の展開を変えています。)

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

処理中です...