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8章 元自衛官、戦争被災者になる

百三十二話

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 ミラノがかつて兄を目の前で刺された時を思い出してしまい心を閉ざしていた。
 その傍らで、オットーはヴィクトルがユリアを撃った事を含めて非難する。

「……ヴィクトル様」
「何も言うな」
「ですが」
「俺は、何も言うなと、言ったのだ。判るな?」

 ヴィクトルはオットーに対して、そうとしか言えなかった。
 そしてユリアを射抜いてしまった散弾式にされている拳銃を見ると、それを放棄した。
 カラカラと床を滑るその銃は、そのままヴィクトルから遠い場所で止まった。

 ヴィクトルとて、冷静ではなかった。
 オットーの批難がましい目付きですら今ではかなり突き刺さる。
 彼にとって、ゴマを擦る訳ではなくただただ雛鳥のように自分へと尽くしてくれた娘を撃った事実を、どう消化して良いか判らなかったのだ。
 命こそ救われたようだが、その相手を自分は殺したのだ。
 白黒明確だったはずの今回の騒ぎが、娘を撃ったと言う一つの出来事で全てがゴチャゴチャになってしまった。
 オットーは帰ってきた、ユリアも救われた。
 しかし、自国や自ら率いている民を救うための今回の行動は失敗している。
 
 敵として断罪する訳でもなく、その相手の娘ですら救って見せた男が居る。
 しかし、その男は既に動かない骸と化した。
 自分が間違って居ないと到底言えなくなり、対として死んだ男の主張の方が正しく思えてしまったのだ。
 己の娘を、しかも出来の良い可愛い娘を撃つ男の何処が正しいのかと。
 そして、強力であった凶事をもたらしたその武器を遠ざける事で少しでも心の均衡を保とうとした。

「……オットー。その男は、娘と共に送り返せ」
「──そうですか」
「俺には……俺は、今は何も考えたくない」

 オットーはヴィクトルの心が乱れに乱れている事を察した。
 長年傍に居たこの男が、今は弱り目に有るのだろうと。
 負けた事に失意を抱いている訳ではない。
 彼が自分自身で自分の正しさを踏みにじってしまったのが許せなかったのだろう。
 特に、気にかけていた娘を殺しかけた事と、それを敵対している相手に救われてしまった事。
 
 ヴィクトルは無慈悲ではあるが、悪辣ではなかった。
 自分の背負うものの為であれば、処刑や残酷な仕打ちですら是としてきた。
 だが、それは盲目的に突き進めたが故に出来た事だ。
 それが出来なくなった、だから銃を手放したのだとオットーは踏んだ。

 しかし、オットーは敵前であるにも拘らずに自身を解放しようとした男を。
 理由はなんにせよ兵士への出来うる限りの処置や、ユリアを救おうとしたその”馬鹿さ加減”を幾らか信じたくなった。
 味方にしたくないが、敵にも回したくない。
 理想主義者は部隊には不要であり、人を導く者の傍に楽観主義者は要らない。
 だが、果たしてただの理想主義者なのだろうかとオットーは考えてしまった。
 ヴィクトルが窓際に手をついて落ち着こうとしている傍らで、頭を撃ちぬかれた男には不可解な事が起きて行く。
 近くに散った内臓物や血が逆再生のようにヤクモへと集い、不足していても目に見えて埋まっていく。
 それこそ、ユリアの肉体が再生したかのような魔法だ。
 オットーは彼が死んでないと理解したが、それをヴィクトルに伝えるべきかどうかで迷ってしまった。
 
 別に、震えながらも立ち尽くしている使い魔に配慮した訳ではない。
 顔面蒼白にして現実逃避をしている主人を慮った訳でもない。
 殺しても死なないのであれば抵抗するだけ無意味だと言う諦め。
 主張通りだというのなら、悪いようにはしないだろうという期待。
 彼はユリアを床から抱かかえると、そのまま部屋の椅子に座らせる。
 ユリアがそうしたように、今度は彼がミラノを気遣った。

「……大丈夫ですかな」
「──……、」

 ミラノはもはや外部からの関わりに反応を示さなかった。
 体温が酷く下がり、震えている事が彼には判った。
 呼吸などを確かめて、彼は「失礼します」と言ってミラノの口の中に指を差し込んだ。
 異物が侵入した事で身体が反応を示し、吐き気でミラノは現実に帰ってくる。
 だが、彼女にとっては”辛うじて”ヤクモは人という認識の中であった。

「うぇ゛っ……」
「気分が優れないのであれば、吐きたいだけ吐くが宜しいかと。何かが腹にあっては、かえって気分が悪いでしょう」

 オットーは出来る限りの優しさを示したが、ミラノは敵対者であるオットーに心開くことは無かった。
 ただ、吐き気だけは彼女にもどうする事が出来ずに、床へと幾らかの消化物が叩きつけられる。
 暫くそうしていて、男にいいようにされかけた事もあって彼女はもうはや限界だった。

「……オットー。ユリアと、そいつらを部屋から連れ出せ。それと、表で腰を抜かしている兵どもも呼び戻せ」
「──宜しいのですかな?」
「宜しいも何も、すべてが過ぎたことだ」
「……まだ、終わって、ねぇぞ」
「!?」
「なに勝手に……終わらせてるんだ。まだ──終わっちゃいない」

 ヴィクトルも、ミラノも驚きを隠せなかった。
 死体だった男が、ゆっくりとゾンビのように起き上がりだしたのだから。
 鼻や目から流れ出ていた血を拭い、身体を起こし、両手を膝につきながら立ち上がる。
 その動作を見ながら、二人は信じられずにいた。
 だが、オットーとカティアは驚かなかった。
 カティアはただただ痛ましそうに己の主人を見つめ、オットーは自身を捕えた相手がどのように起き上がったのかを理解しようとしていた。
 
「お前は、頭を──」
「100万回やられても……諦めなけりゃ続行できる。呪いかと思ったけど、今だけはこれを祝福だと信じる」

 ノロノロと、起き上がってから自分が拳銃を握り締めていない事に気がついて拳を握る。
 死の負担も、蘇りの負担も決して小さくは無いが、彼の心は折れてはいなかった。

「出来れば、自身の意志で席について欲しかったけど……仕方が無い。スグ……じゃない、ユリアの事も気がかりだからな。アンタを殴り倒して、ユリアの様子を見たらふん縛っておしまいだ」
「諦めの悪い奴だ」

 ヴィクトルは昔から使っていた曲刀を抜いた。
 そしてヤクモへと踊りかかるが、その斬撃は片腕を切り落としただけに過ぎなかった。
 対価として側頭部を蹴られるも、彼は倒れなかった。

「いって……い、って──」

 ヤクモは傷口を焼き、鎮痛剤を酒ですぐに飲み込む。
 もはや連日薬漬けで、本来であれば悶え苦しむような痛みですら鈍痛にしか感じていない状態だった。
 クスリと酒を捨てると、ストレージから己の剣を出して片腕で鞘から抜いて構える。
 まだ幾らか止血仕切れていない左肩から、ダラダラと血が流れていた。

「何故諦めない! 何故そこまでやれる! 貴様は……何なんだ!」
「ただの……ただの、亡霊だ。正しく有りたかった、正しさが欲しかっただけの……そうなれなかった、亡霊なんだよ」

 片腕で何とかヴィクトルと切り結ぶヤクモ。
 クスリや酒、睡眠不足や過労の影響もあって切れの無い勝負であった。
 それでも、ヴィクトルにいいようにやられる事なく、互いに捨て身の攻防へと切り替えられていた。

 片腕での武器の使用がわずらわしくなり、ヤクモは武器を捨てた。
 ヤクモは武器をヴィクトルから弾くと、相手にも素手を強要させた。
 それによって、殴り殴られの粗野で何の理知のないやり取りに成り下がる。

「倒れろ、倒れて……くれっ」
「倒れられるものか……。俺が倒れたら、誰が──」

 オットーもカティアも、己の信ずる者へと助勢したかった。
 だが、それが出来ない。
 片や己が主に厳命されたが為。
 片や己が主人がそれを望まぬと理解している為。

 何度もお互いに倒れ、尻餅をつき、ダウンしては立ち上がる。
 満身創痍なたった一人の男に、一族を導き何度も戦場を駆けて来た男が圧されている。
 チート能力を得ているはずの男は、背負っているが故に倒れられないと言う男に圧されている。
 そうやって無様な均衡を長らく保ち、互いに互いの戦力を削っては平等になるという有様を続けた。
 だが──それも終わりが来る。
 一人は人とは思えない力の前に打ちのめされて。
 一人はクスリと酒で現実感を喪失し、疲労と眠気と諦めが身体を支配した。
 そして決着の合図は……そのどちらかが倒れた事によって起きたものではなかった。

「お互い、それまでにして頂こう」

 窓を突き破り、数名の闖入者が現れたからであった。
 白い天使のような羽を生やした彼らは、ヴィクトルとオットーを平等に囲った。
 どちらかが抵抗してもいいように、どちらも制圧できるようにと。
 
「アンタは……?」
「……天界の者です。この度、地上に対して穢れの発生を確認したが為に加勢させていただきました。そしてかつての英霊の方から、ヤクモなる者が色々な事を考えて行動していると聞き、場を収めるためにこうして参上した次第で御座います」
「天界、天界……」

 ミナセの傍にいた奴が、天界から来た奴と魔界から来た奴がいたなとヤクモは考えた。
 だが、それも長くは続かなかった。
 窓の外を見れば更に多くの天界の兵士がいて、屋敷を包囲しているからに他ならなかった。

「……抵抗は、しないほうが良いんだろうな」
「無意味かと。そもそも、人類同士で争うという愚を止める為に行動していた貴殿が我々に弓引いても意味を成さないと思いますが」
「まあ、だな……」

 ヤクモは斬り飛ばされた片腕を拾い、切断面同士をくっつける。
 そして回復魔法で傷口同士を再生させて繋ぐが、神経を上手く繋ぐことができずにダラリと腕がぶら下がったままになった。
 数秒かけて幾らか動かせるようになってから、ヴィクトルやオットーが思いの他抵抗せずに素直に従ったのを見て自分も矛を収めることにした。
 だからこそ、彼は己の戦争がほぼほぼ終わったのだなと”勝利条件”へと手を伸ばした。

「……帰ろう。学園に。皆が……皆が、待ってるはずだ」

 床にへたり込んでいた彼女へと彼は何とか手を伸ばす。
 だが、その手が血に塗れているのに気付いて、誤魔化すように綺麗にした。
 再度手を差し伸べるも、彼の手は彼女によって払いのけられた。
 乾いた音がうるさく響く。
 叩かれた手を、ヤクモは暫く動かせずにいた。

「──けないで。ふざけないでよ!」
「──……、」
「私はっ……。アンタが凄いと思って、だから少しでも負けたくなかったから魔法とか……色々学んでたのに。なのにっ……なのにっ、アンタはズルをしてた! 私達は一つの命をどう使おうか考えながら日々生きてるのに、アンタは一つの命を無数に投げ捨てて事を成してるだけじゃない!」

 ミラノの叫びはヤクモを穿つ。
 銃弾や騎兵の突撃よりも、睡眠不足や過労よりも彼の中で響き、山彦のように響き続ける。

「真面目に生きてるのに……そんな私の前で、不真面目に生きないでよ……」

 そして、彼女は彼を否定した。
 一度しかない生だからこそ頑張ってるのに、失敗して死のうともやり直せるだなんて馬鹿げてると。
 それは自分たちに対する侮辱だと、彼女は彼を否定したのだ。

 その言葉を聞いていた周囲の者の反応は疎らだった。
 ミラノの言い分を理解できる者もいれば、彼女の言い分を否定する者もいる。
 ただ。誰一人として、声や動作でそれらを表にする事はなかった。

 ヤクモは、弾かれた手を再度伸ばそうとして力なく垂らすしかなかった。

「……約束、覚えてるか?」

 そして、彼は問うた。
 ミラノに、かつてした約束があると。
 だが、ミラノは頭を振った。

「約束なんか、してないっ」
「──そっか」

 その否定こそが、深く彼を貫いた。
 一度だけ深く息を吐くと、彼は無理やりに彼女の手を掴むと引き起こす。
 ミラノは自分が酷い目に合わされるのではないかと怯えたが、その顔ですらヤクモを傷つける要因となった。

「……アリアが心配してた。アルバートも……どうにかしてくれって頼んだんだ。クラインも助けて欲しいって、言ったんだ」

 そう言って、彼はミラノを負ぶるとゆっくりと歩いていく。
 屋敷の外に出ると沢山の負傷兵がいた。
 空を見れば沢山の天界の兵士がいた。
 その中を、敗者のようにヤクモは歩き続けた。

 彼が歩く中、カティアは自分の見てきた主のクセから今の状態を一つだけ理解していた。
 偽善も偽悪も行うし、嘘も平気で吐く。
 様々な表現もしてきたヤクモが、今どのような心境なのかをカティアは察していた。

 ──そっか──

 受容の言葉に、別の意味があるのだと彼女は学んだのだ。
 ただ、それを学んだのが遅すぎたのだが。
 




 ~ ☆ ~

 学園に戻ったヤクモは、新種の魔物の騒ぎの事や学園でのユニオン国の兵士の事等を聞きながらも、周囲からは気味悪がられるくらいに大人しくしていた。
 早朝の訓練もせず、大好きだったはずの闘技訓練にも顔を出さない。
 食事は自室で取っており、名目上は”療養”という事になっていた。

 だが、暫くするとヴィスコンティから新たに一軍がやってきた。
 ミラノたちの父親であり、公爵という高い身分の人物である。
 ロビンからの連絡を受け、辺境伯では荷が重いと見て銃後をザカリアスに任せてきたのだ。
 天界の要請もあって、まずは比較的近い上に平穏なヴィスコンティから今回の件で話を進めようという事であった。

 ただ、その話自体は穏便に進むことは無かった。

「では、そのように話を進めるとしよう」

 公爵がヴィクトルとの話をほぼほぼ終わらせた頃、部屋の前が騒がしくなった事に気がつく。
 何事かと声を上げる間も無くやってきたのは、ヤクモであった。

「どうしたのかな?」
「どうしたのかな、じゃ無いだろ……。なに、話を勝手に進めてんだよ」
「今回の件、彼らの国がした事は到底許される事ではない。国王が動けない中、私が一任されて来ている」
「……ちょっと待て」

 そう言ってヤクモは、彼らの間で行われた会話とその結末を読み取ろうとした。
 そうして見出したのは、今回彼が求めていた結末とは程遠いものであった。

「なんだよこれ……。武装解除と、その技術の供出? それと、国から一連の出来事を監督する者を出すって……、事実上の無力化政策じゃねぇか!」
「……君はまだ若いからそう言ったことが言えるんだ。ここは私に任せて、休んでいなさい」
「だとしても、俺が当事者だろうが!」
「その君に金を出しているのは私だ」
「お前は俺の主人じゃねぇ!!!」

 ヤクモは手にしていた紙を破り捨てると、机へと両手を思い切り手を叩きつける。
 その勢いによって机は砕け、脚は折れて机として機能しなくなる。
 ヤクモの行いに、公爵は驚くばかりだった。

「俺の主人は……ミラノだ。けどな、主人の主人は主人じゃない。たとえ金を出してるのがアンタでも、そのアンタが所属するのがヴィスコンティだとしても、俺はヴィスコンティにはこれっっっぽっちも忠誠を抱いてる訳でもなく、アンタを主人として認めてない! それ以前にな? テメェらの国の兵士が交戦したのは、たった僅かな時間で、しかも被害を出したのは魔物との交戦の時だけだろうが!」

 ヤクモは戻ってから、プリドゥエンの修理や自分の回復に努めながらも己の居ない間に起きた魔物の出現に関しても調べていた。

「ユニオン国の兵士と協力して魔物と戦った。けれども英霊の助力があっても被害が出た。それ自体はヴィクトルのおっさんのとこのせいじゃないだろ!」
「だとしても、彼らが行動を起こさなければ起きなかった問題もある」
「こいつらが居なければ魔物を抑えきれずに生徒にすら被害が出ていたかもしれないってのは、英霊全員が言ってただろうが! 目的は確かに罰せられても仕方の無いものだ。けどな、その結果運よく魔物が撃退できた。功罪ひっくるめて判断すべきだろうし、そもそも国を解体したら人類の危機とやらが来た時に損しかしねぇよ!」

 罪人のように出来る限りの交渉をしたはずのヴィクトルだったが、目の前で自分を追い詰めたはずの男が擁護し助けようとしているのを見て、信じられずに居た。
 口だけだ、理想しか言わない馬鹿者だ、己の出世や立身の為にしか今回の件を用いないだろう。
 そう思っていたが、やっていることはまるっきり逆であった。

「そもそも、他国が援助してやれば起きなかったことだろうが! そこから目を背けて、自分は悪くないって面をすんじゃねぇ!」
「……誰か、彼を外へ。どうやら疲れているようだ」

 そして、公爵がその言葉を口にした瞬間にヤクモの中で何かが砕けた。
 気がついたときには周囲の兵士たちがヤクモへと武器を向け、ヤクモは公爵へと銃を向けている。

「……なんのつもりだい」
「結局アンタも。英霊ですら道具にしか思ってなかった、って訳だな。あいつらが頑張ったのに、後からやってきて美味しい所だけ掠めていくとか……」

 脳裏に、インターネットや歴史、宗教的な事柄や事件などが幾つも思い起こされている。
 その結果、大きな失望と絶望を彼を多い尽くしてしまい、全てが壊れてしまった。

「……公爵、新しい提案をしようか」
「提案……?」
「これから俺が、ユニオン国のしたかった事を受け継いで学園を制圧する。んで、俺は英霊を説得して人類の未来と言うものを吹聴して、ヴィスコンティとアンタが英霊の意見に耳を貸さずに自国の利益のために彼らを利用しようとした事すら吹聴する。アンタにとっての人質は学園の生徒で、国の取っての人質はアンタと生徒……。民衆は、或いはこの都市はどちらを支持するかな?」
「な!?」
「少なくとも英霊たちはユニオン国の兵士すら救おうとした、その英霊たちを軽視した行いってのは歴史の軽視に繋がる……。信心深い神聖フランツ帝国は怒り狂うだろうな? ヴィスコンティでもオタクらの肩身は狭くなる。ユニオン国としては拒絶する理由が無いし、ツアル皇国もタケルやファムの言い分を支持するだろう。そうしたらヴィスコンティはおしまいだよな?」

 ヤクモは、目の前の公爵だけではなく英霊や生徒や公爵自身ですら人質にした。
 公爵はすぐに色々と考えるが、彼の行いや都市における名声がそれを否定できないと理解する。
 神聖フランツでの出来事を詳細までは知らないまでも、そこの国がそうするだろうという想像が出来た。
 そして英霊と親しくしているという事が、ここに来て公爵や国に牙を向いた形になる。

「ユニオン国は魔物が現れる事を知って、それを倒すためにヴァイスの言葉で秘密裏に行動していた。学園では、恐慌状態に陥ったユニオン国の兵士が居たものの、不幸なことは起きずに生徒達は食堂に避難する事が出来た。その後学園を防衛するために学園の兵士とユニオン国の兵士が英霊の指揮下で奮闘し、天界の助勢やロビンからの通知でやってきた辺境伯によって撃退……。色々なすれ違いはあったけれども、ユニオン国は魔物を撃退するというヴァイスの意志を達成できました、めでたしめでたし……ってのはどうかな?」
「それを……納得すると思うかな?」
「どうかじゃねぇよ、やるんだよ」

 そう言って、ヤクモは笑みを浮かべた。
 その笑みを見て、公爵は息子と似ているという考えが間違いだと理解する。
 人類の未来の為に国を犠牲にする、国の為に公爵家を犠牲にする、公爵の為に生徒を犠牲にする、多数の為に少数を犠牲にする。
 そして、自分が間違いを犯していたという事にも彼は気付いた。
 ヤクモと言う男は、所属こそすれど帰属すらしていなかったのだと。




 ~ ☆ ~

 ミラノは、あの日からずっと後悔していた。
 兄の死を連想した事からパニックを起こし、自分を助けにきてくれたヤクモに酷い事を言ってしまったのだ。
 考えてみればすぐにわかる事だったのだ。
 命を無数に投げ捨てられるとしても、それは痛みや恐怖と無縁と言うことではないと。
 何度も死ねるという事は、何度も苦痛を味わうという事でもあるのだと。
 
 しかし、彼女は謝罪できずに居た。
 それは僅かな希望と、多数の後悔から来るものであった。
 もしかしたらなんでもない顔をして「ん?」と言ってくれるかもしれないという理想。
 もしかしたら傷つけたかも知れないという圧倒的な後悔。
 どちらにせよ、彼女はあの日から再び体調を崩してしまい、暫く部屋から動けなかったのだ。

 体調が回復してからは、怒りが徐々にわいて来た。
 体調を崩しているにも拘らず、ヤクモは一度も顔を見せに来なかったのだ。
 部屋に入らなくとも、部屋の前まで来て声をかけてくれても良いじゃないかと、彼女は憤った。

 その結果、更に謝罪が後回しとなった。

(お、怒るべき? それとも、先に謝った方が……。ううん。先に謝っちゃうと怒り辛くなるし、そもそも私が悪い訳じゃないし──)

 等等と、ミラノは自分の中で答えを見出せないままにヤクモの部屋の前まで来ていた。
 それでも部屋に入る決心がつかず、ただ腕を組んで右へ左へと行き来するばかり。

(……とりあえず怒って、それから謝ろう。うん、そのほうがいい)

 そうして彼女が決心をしたのは、30分以上も部屋の前でうろうろしてからであった。
 数度ノックをして「入るわよ」と言ってから僅かに扉を押す。
 何か言われるだろうか? 入るなと言われるだろうか?
 そんな疑問を抱いていた彼女であったが、その返事は泣き声であった。

「カティ……?」

 泣き声がカティアのものだと気付き、彼女は戸を一気に開いた。
 ヤクモが寝泊りしている部屋に入った彼女は、その部屋がスッキリし過ぎている事に気がつく。

 ──これは、自分が何を教えて、次は何を教えるかとかを相手の情報を含めて考えるのに使ってる──

 壁にかけられていたはずの大きなボードは無くなっていた。

 ──本は歴史であり、知識でもある。本を読めば多くの事がわかるし、なにより楽しい──

 部屋に備え付けられていた本棚には、図書館から借りてきた本は全て消えうせていた。

 ──これは俺が所属していた部隊のもので。見てると落ち着くんだよ──

 壁にかけられていた迷彩服は無くなり、つま先の光る半長靴も無くなっていた。

 ──片付けるの面倒だし、必要なものだからおいて置きたくて──

 暖炉前の丸机の上は、綺麗さっぱり片付いていた。

「なに、これ……」

 最近、ようやく『人が生活している』といった様相を見せ始めたはずの部屋が、再び寒気で支配されていた。
 カティアが泣きじゃくる傍に一通の手紙があり、そしてミラノとアリアが買ったはずのマントも綺麗に畳まれているのを見つける。
 嫌な予感がした、心がざわめくのを彼女は無視できなかった。
 手紙の文面に目を落として、頑張って綺麗な字を書こうとした物を見て彼女はへたり込んだ。

 暫くして、アリアがやってきた。
 ミラノが元気になり動けるようになったと聞いて、その様子を見に来たのである。
 だが、ミラノが居なかったので入れ違いとなり、ヤクモの部屋に居ると聞いてやって来たのだが……。

「姉、さん……?」
「アリ、ア……?」
「なんなんですか……? なんなんですかこれ」

 カティアが泣いている、ミラノが茫然自失としている。
 部屋から生活の気配も、部屋の主の所有物も消えている。
 ミラノが震える手で手紙をアリアに手渡し、彼女もまたそれを見た。

『カティアの事、よろしく頼む。マントと掛かったお金も返す』

 たったそれだけであった。
 感謝の言葉も、或いは事情や経緯を話すような内容も無かった。
 必要な時に不必要なくらいに沈黙し、不必要な時に必要なだけ沈黙出来ない。
 そう言った男だと理解できてきた矢先での事である。
 アリアはこれだけで、この部屋に居た人物が全てを置き去りにしたのだと理解できた。

「姉さん……。何をしたんですか? 何を言ったんですか!」
「ごめんなさい……、ごめん、なさい──」

 暫く、壊れかけの再生機器のように同じフレーズを繰り返すミラノ。
 カティアを宥めながら、ミラノが一連の出来事を話してから彼女もまた自分のしでかしたことを理解する。

 ──約束、覚えてるか?──

 不器用な男の、愚直な約束。
 かつてクラインを演じた時に、自分の母親に似ていると膝を抱えて膝でうずくまっていた時の話である。
 アリアは……屋敷に戻る数日前からミラノと入れ替わっていた。
 そしてヤクモと行った約束は、彼女だけのもののままだった。

 ──アナタが辛くないように、苦しくないようにするのが私の務めだから──
 ──なら俺は。自分の有り方に反せず、報いられ続ける限りはミラノとアリアを守るよ──

 ヤクモの問いかけは、本来の主人であるミラノには回答が無かったのだ。
 その結果がこれなのかと、彼女もまたゆっくりと崩れ落ちた。
 暫くは噂のまま、そして事実としてヤクモが去った事が生徒たちに浸透するのに時間がかかった。
 そもそも、生徒たちにとって認識はしても意識されるような存在ではなかったからだ。
 
 何を好むか、何を好まないか。
 どんな人物で、どんな思想をしているか。
 そう言ったことも判らず、ただ存在だけは知っているという幽霊のような存在。
 ボンヤリと噂を受け入れ、ボンヤリとそうなのかと理解していっただけであった。




 ~ ☆ ~


 ミラノ達がヤクモの部屋に入る前、ヤクモは夕方になって外に出る手続きをしていた。
 事情も理由もでたらめで、けれどもそれを受付をしている衛兵が拒絶する事も出来ずにいた。

「……何処に行くの」

 学園を受付閉鎖時間ギリギリにでたヤクモを待ち受けていたのは、マリーであった。
 夕日がほぼ沈みかけている中、ヤクモはマリーを見て笑みを浮かべた。
 皮肉げな、或いは諦めのような笑み。

「まあ、ちょっとそこまでだよ」

 そう言って彼はマリーの肩を叩いて通り過ぎようとする。
 だが、その行動こそがマリーにとっては疑惑を確信へと変える行為であった。
 襟首を掴んで片腕で彼を地面へと背中から叩き付けた。
 ヤクモは両手を小さく挙げて、抵抗しないと言う意思表示をする。

「まあ待て、落ち着けって。ちょっと深夜のお散歩だよ。どうにもブツが落ち着かなくてね……。昂ぶりを収めるために夜の町に繰り出す訳だよ」
「なんなら萎んで二度とタたなくしてあげようか?」
「やめろ。それはマジでやばい」

 指だしグローブを嵌めた手を思い切り彼女が握り締めると、素材が擦れて軋む音が響く。
 魔法使いという後方職でありながら英霊ゆえに強い彼女の一撃を受ければ、本当に二度と使い物にならないだろうと彼は白旗を揚げた。

「まあ、居る意味が無くなったからな。教わる事もある程度教わったし、色々な事も学べたから……外に出ても良いだろうと思ってね。ああ、安心してくれ。ヘラとの主従契約は切ってある。アリアにさり気無く押し付けてきたから、連れてかない」
「そういう心配はね、一切してないの。今回の件で頑張ったアンタが、何でそんな負け犬みたいになってるのかって聞いてんの」
「負け犬、負け犬か……」

 マリーの言葉にヤクモは笑った。
 嘲笑とも自嘲とも言えるような笑みは、すぐにそのまま彼の表情として残った。

「そもそもさ、負け犬じゃなかった時なんて無いんだよ。魔物相手に人を救っても、貴族相手に勝っても、英霊相手に引き分けても……俺は負け犬だった」
「なにを……」
「俺にとっては、全部過程だったんだよ。上手くいくかもしれない、その可能性を幾つか積み上げてきたけど……。結果は、見ての通りさ」
「けど……アンタ。人を救ったでしょ、私も……助けてくれたじゃない。なのに、それって──」
「一度救えばそれでいい訳じゃない。人助けってのは、煉獄のように終わらないものなんだよ。今回は大丈夫だったけど、次はそうじゃないかも知れない。この人は救えたけどあの人は救えなかった。そうやって常にケチがつく。そして、俺にとってそれは理想であって義務じゃない。そして、理想じゃ人は生きていけない」

 マリーのてを掴み、指を一つずつ剥がして行く。
 マリーはそれでも、彼の言葉を受け入れられなかった。

「けどアンタは、正しいと思ったから……今回だって──」
「それは、そうするべきだと思ったからそうしただけで……。それが当然だと、相手が信じてくれてるからやる事に意味があると思ってただけさ。けど、そうじゃなかった。俺は自分が状況を解決できると思い込んでいた問題そのもので、しかも俺のやる事なす事全てが相手を追い込んでた。いつか破断する関係なら、まだ綺麗なうちに終わらせた方が良い。幾らか染みが出来てても、幾らか愛着がわいていても」

 指を全てはがし終えた彼は、ゆっくりと立ち上がる。
 そして雪の中で白い息を吐きながら、空を見上げた。

「んま、人助けを目的じゃなくて手段として行う俺なんかが正しい訳がないんだ。良かったな? 早い内にクズだと理解できて。俺はもう……疲れた。ヘラに後は出来る限りの事を教えてあるから、置き土産でも楽しんでってくれ。少しでも何かの足しになれば良いさ」

 そして、彼は雪の中立ち去ろうとする。
 当ても無く、連れも居ない。
 誇りと目的に満ちていた迷彩服はそこに無く、埃と臆病に塗れた私服しかなかった。

「待って!」

 しかし、マリーの大きな声がヤクモを一度だけ立ち止まらせた。
 振り返ることも無く、彼はそのまま背中を向け続ける。

「こんな事言って、何の意味が有るかも分からない。けど、私は──私は」
「──……、」
「アンタに、傍に居て欲しい。それ以上でもなくて、それ以下でもなくて……」

 考えが纏まらず、彼女にとって使い慣れた魔法の理論よりも散らかった言葉が羅列される。

「正しいから傍に居て、正しくないから傍に居ないとか、そんなんじゃなくて。なんの意味も目的も無いままだったとしても、私は一緒に居たい!」

 それは、彼女なりの告白だった。
 産まれてから二十年、英霊と化してからは更に長い年月の先に初めて出た言葉である。
 その言葉がどう彼に届いたのかは判らないが、僅かな時間──彼が振り返るくらいの意味はあった。

「……意味が無くても、傍に──か」
「そう……そう! でさでさ。魔法の事しよう! アンタがまたとんでもない事思いついて、私がそれでまた怒って……。けど私が新しい魔法作って、アンタがそれで付き合わされて嫌な顔してさ」
「それ、お互いに嫌な目にあってるだけじゃん……」
「けど──けど! アンタは言ってた! 人はいい所も悪い所も一緒に付き合わないといけないって! 私は……私なら、大丈夫だから、平気、だから!」

 マリーの言葉で、砕けたヤクモの心は幾らか元の形へと戻る。
 しかし、罅割れたままの心は僅かにかつての彼の顔を見せてくれただけに過ぎなかった。

「……ありがとう。俺も──」
「うん……うん!」
「俺も、楽しかったよ」

 楽しかったよ。
 その言葉を、詰まらなさそうに彼は吐き出した。
 全てを過去にしてしまっていて、もう二度と手に入らないものだと見切りをつけてしまった。
 そしてマリーは理解した。
 今自分が存在しているにも拘らず、過去にされたという事実に。
 
 ヤクモは再び背を向けて歩き出したが、マリーは呼び止める手段も知識も無かった。
 ただ寒い雪模様の下、涙を堪えながらも堪えきれずに流していくことしか出来ない。
 遠い昔に恋愛を諦めた彼女が、自覚も経験も少ない中に芽生えたものは潰えていった。

 ヤクモは、そのまま戻っては来なかった。









 ~ ☆ ~

 学園都市を出ようとした俺は、向かった先で見慣れた人物が居る事に気がついた。
 それはトウカであり、初めて見る私服よりもなぜそのような格好をしているのかと言うことが気になった。

「あ、ヤっくん」
「トウカか。どうしたんだ?」
「やはは……ちょっとね」

 トウカは食堂で兵士達を陽動してくれて、マリーとヘラや俺が突入しやすい状況を作ってくれた。
 直接目にしたわけじゃないが人じゃない動きをしたとかで大分噂になっていたのを耳にしている。

「ヤっくんはどうしたの?」
「俺は……。まあ、出て行こうと思ってさ。ミラノに嫌われちゃって、続けられなくなったんだよ」
「あ~、じゃあ私とおんなじだ」
「同じ?」
「私も……うん、生徒さんに嫌われちゃったみたいで。おやっさんの迷惑になるから、どこかに行こうかな~って」
「はは……クソどもが──」

 タケルやアイアスが封殺されて身動き取れない中、ヘラの結界も銃を集中的に浴びれば貫通していた。
 そんな中で生徒たちに被害なく解放できた立役者にたいしてクレームとか……。

「人類ってのは。どうしようもねえな」
「けど、しょうがないよ。だって普通じゃない事しちゃったし」
「……そっか」
「うん、そうだよ」
「──……、」
「……──」

 沈黙が続いたが、それが痛いものだとは思わなかった。
 探りを入れているような、或いは警戒するようなものではなかったからかも知れない。

「一緒に、行くか?」
「え~。けど、それだとヤっくんの子に悪いよ」
「いや、いいんだ。カティアは……俺が無理に呼び出したようなものだから。俺に付き合って大変な目にあうよりは、学園でミラノやアリアとか……マリーとかに可愛がって貰った方が良いしさ」

 ミラノに化物を見るような顔をされたのが忘れられない。
 それを思い返して、俺よりもミラノやアリアと言った人の間で生きた方がよっぽど為になると判断した。
 愛玩動物のように己のエゴで”飼う”のは良くないと、そう考えたのだ。

「一人じゃ何をして良いかも分からなくても、二人居ればどっちかが何をしたいかを見つけるだろ」
「……そ、だね」
「それに、今なら化物って言われた男のボディガード……じゃないな。護衛が無料になるんだ。安い買い物だと思いませんかね?」

 学園での、俺の居場所は英霊を顎で使ったことを含めて失われた。
 居心地の悪い環境、主人から疎まれ、終には人として扱われなくなった。
 それでも……それでもだ。
 化物と呼ばれる事に傷ついた訳じゃない、そんな事は気にならない。
 自分の仕える相手に疎まれる事が嫌な訳じゃない、それほど自分に期待してない。
 けれども、その両方だったら堪えられない。

「何処に行くの?」
「さあ、どうしようかなって考えてるとこ。この前仮免で傭兵組合に加入できたし、物を探して魔物を狩ってテキトーに生活するのも良いかも知れない。ヘルマン国やツアル皇国にも行った事ないし、いつかはツアル皇国の先にある魔界に行ってみるのも良いかも知れないなぁ」
「そりゃ自殺行為だよ。けど、そういうのもいいのかもね~」
「トウカには何か考え無い?」
「私も……行きたい場所も、やりたい事もまだないからにゃ~」

 そう言って彼女は笑った。
 それから彼女は少しだけ頭を下げる。

「料理人とかお手伝いさんを雇ってくれるかな? それくらいしか出来る事はないけど……」
「喜んで」

 それがいい事なのか分からないし、ただの逃避行かも知れない。
 親しくなったはずの連中との関係をぶった切り、夕日が沈んだ頃に俺たちは都市を出て行く。
 暫くしたら俺が外出したまま戻らないと騒ぎになるだろうし、それでミラノまで連絡が行くだろう。
 しかし、必要とされないのに仕えるだなんて事は出来ないのだ。
 
「プリちゃんは?」
「……撃たれたから、修理してる。コイツだけは連れてってやら無いとな」

 散弾銃で撃たれたプリドゥエンは外見こそ無事に見えるが、一言も喋らなくなってしまった。
 電源の落ちた機械のように、光る事すらしない。
 クラフト画面等で点検してみたが、俺自身の理解度が足りないと言うことでそもそも手出しできなかった。

「近くの町にまで行ってみよう」
「ん、りょっか~い」

 使い魔や主人ではなく、メイドさんとの二人旅行とかどうなるのだろうか?
 ただ、これからは待っていれば食事が出てくるような生活は無い。
 食い扶持を稼ぎ、食材や料理を買わなければ生きてゆけないのだ。
 
 恵まれている事といえば、金は使いきれないほどに貰っているし、身体能力はズル《チート》している。
 ギルド活動をしていても多少は問題がない位に適しているのは幾らか僥倖であった。

 かつては、これからはここでの生活が当たり前になるのだろうなと思っていた。
 小さな主人とその妹、そしてその学友たちと卒業までに怠惰で楽しい日々を過ごすと……。
 家にならなかったのか、或いは俺が家出したのかは今では判らない。
 
 その日俺たちは寒い雪の下で野宿をした。
 久々に展開した6人用天幕で贅沢に二人で石油ストーブで暖を取りながら、その上で調理をする。
 二人きりになった上にお互いを良く知らないが、寂しいとは思えども僅かな楽しみはあった。
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