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4章
43話
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さて、体調がある程度安定してきたらしいとマリーから聞いた。
ロビンにも一応聞いては見たが、会って話をするくらいなら大丈夫そうだ。
「と言うわけで、来たんだよ」
「あの、明日まで待てなかったんですかね……。復調予定日は明日なんですけど」
一日前倒しで来てみたらこの扱いだ。
「マリーやヘラは存分に来まくってるのにか?」
「あれは……。もう諦めた。言って聞くんなら、もっと休めてる」
「はは、ちげぇねぇ。回復する為に休んでる筈なのに、その最中に新しく負傷してやがるもんな、坊は」
「マリーがキレるんだもん……。私の苦節の末編み出した魔法を~とか言って、滅茶苦茶」
「そりゃそうだろうよ。マリーだって、魔法を扱っている当初は学生と同じくらいの程度だった。それを数年かけたとは言え、詠唱を破棄したり複合魔法の同時行使や、魔道書の作成による簡略化だのなんだのと……色々やってたんだぜ? それこそ、何度も倒れるくらいにはな。自分のしてきた苦労を、全く違う方法で軽々と越えられたら悲しさや怒り、空しさが生じるってもんさ」
「理不尽すぎる……」
「英霊とはいっても、元は一個の人間だからな。軽蔑するか?」
「いんや、完璧超人よか親近感を持てる。何の弱みも無い人間なんて、英雄や英霊であっても俺は近寄りたいとは思わないし」
そう言って坊は本を閉じた。
どうやら兵科の勉強をしていたようだ。
騎兵理論、その部隊の運用法等を書いてた奴だな。
歩兵もやったし、槍兵もやった、騎兵もやったからなんとなくは理解できる。
だが、そういった本の内容は微塵にも覚えちゃいねぇが。
「完璧超人がイヤだってか? なぜだ」
「失敗を知らない、弱い奴の事を知らない、負け犬の思考を知らない、弱者の理論が通用しないからだよ」
「お前がそうだってか?」
「自分が強いとでも? どういった時にへこたれて、どういった時に気分が沈み、どういった時に弱音が出てきて、どういった時に周囲に責任転嫁をするかを理解して、上手い事制御できてるだけの弱者だぞ? ただ、少しだけそれらを上手い事使いこなして、少しだけそれらを押さえつける事がで来て、少しだけそれらを黙らせる事がで来て、少しだけそれらを別のモノに昇華できるだけの弱者だ。というか、出来ない奴の思考が出来ない奴が兵や他人を率いられるかよ」
……それは、確かにそうだな。
オレはそういったのを、あいつに委ねてきた。
そして、迷ったら相談し、言われたように慰撫や鼓舞をするだけだ。
ただ、そういったのを幾らか吸収して自分のものに出来て、使いこなせるようになっただけだが。
マリーは……そういったの超絶下手糞だったもんな。
ヘラはそもそも後方支援、ロビンだって幾らか齧りはしたが統制が利いている間の話だ。
統制が利かなくなりつつある時は、オレか……あいつしか建て直しが出来なかったもんだ。
「部隊は、弱い場所から崩れる。それは別に数や質だけじゃない、気持ちや士気の話でもある。そういった時に、どこまで補佐してやれるか……弱者に寄り添った思考が出来るかが全てを分けると思ってる。けど、それが理解できない英雄に従えられたくないし、付き添いたいとも関わりたいとも思わない。俺は……理念や理想だけじゃやっていけないというのを知ってるからさ」
「一度は死んだみたいだが、それは坊の言う”弱者”の範疇だったのか?」
「範疇だったよ。あの時は……余裕が無かった。だから、昔居た舞台の理念と、親の教えしか頭に無かったし……そもそも、時間がそんなになかったし。アレが長引いてたら、流石にどっかしらでガタが来てたとは思うけど」
それは正解だ。
どんな崇高な理念や思想も、現実の前には限度がある。
疲労、眠気、空腹、負傷、死への恐怖……。
どこかで心がポキリと言ったら、ソイツは最早味方でありながら敵に利する存在に早代わりする。
逃げ出すだけで、他の味方の心が揺れる。
泣き喚くだけで、周囲の士気を下げる。
不満を吐くだけで、周囲も不満を撒き散らすようになる。
それをどこまで庇いながら戦えるかが、部隊としての最重要項目だからな。
──アイアスは、他の誰よりもそういった事が理解できる──
──だから、兵士の相手をするときは君が適任なんだよ──
──自分らは半ば滅びかけの人類の、最後の部隊なんだ──
──疲れ果て、傷つき、空腹で、眠りが十分じゃないんだしね──
──自分も見るけど、限界はあるし。そういった時に、弱者の味方をしてくれる君が居れば安心だよ──
ハ、懐かしい……。
そんな事も言われたっけな。
何のとりえも無いと思っていたオレが、まさかそんな事で秀でてるとは思うもんかよ。
だが、それは正解だったわけだ。
タケルは清廉すぎて、あいつの前じゃ弱音なんか吐けやしない。
マリーはそういうのを見かけりゃイライラしだすし、なんなら喧嘩さえしだす始末だ。
ロビンも”言う事を聞かせる”事しか出来なかったから、そこまで来ると手の施しようが無い。
そこでオレの出番って奴だ。
マリーには甘いと言われたっけな。
だが、そういった”甘さ”が結果として瓦解や崩壊を防いできた。
あいつの言った事は正しかった。
「坊、そりゃ正しいぜ。自分が弱い事を認められる奴ぁそうそういない。強がって、背伸びしてさっさとくたばるか、或いは目の前の現実に心が折れて足手まといになる。そういった……なんだ? 最悪の──」
「”最悪な状態、状況下における自分との付き合い方”?」
「あぁ、それだ。オレだって腹が減りゃ力が出ないし、なんならやる気も出なくなる。ちゃんと寝なけりゃ武芸も繊細さを欠くし、大雑把になる上に判断を誤る。それでも、どこからどこまでだったらクソみてぇな状態の中で自分を奮い立たせる事が出来るか、どこからがダメかを判断出来るようになる。それを兵士にも当てはめて考えりゃ良いだけだからな」
「……そゆこと」
アルバートの坊も言ってたしな。
こいつはアルバートの状態を見抜いて、落ち着かせたりした。
グリムが張り詰めすぎてるのを宥めたりもしたと。
そういう、気の利く奴は貴重だ。
あんな何が起きてるかも分からない中で、自分を律して他人の面倒を見るなんてな。
自分が弱い事を認められずに限界を超えるアルバート。
自分の限界を超えてると気づかなかったグリム。
あのままなら、共倒れしていただろうからな。
「……ま、その話はまた今度だ。今回来たのは、アルバートの坊の件でだ」
「アルバート……。何かあったのか?」
「いんや、これから何かをするという意味合いでな。休暇の間はオレが坊の面倒を見られるが、学園に居る間はどうしようもねぇ。だから、坊と訓練に関して話をしたいと思ってね」
「なるほど」
「まあ、なんだ。血の連なる相手として、その上であの坊には一応だが見込みはあるんだ。だが、どうにもオレじゃそれを上手く引き出せ無くてな。それをどうやって引き出したのか参考にしたいってのもあってね」
「いや、とは言っても……。俺も特別な事はして無いぞ? ただ決闘で対立して、そこから俺を認めたのはアルバートだし、俺に師事される時だって言葉を尽くして説明してるだけだしなあ。”やってみせ、言って聞かせて、させてみせ。褒めてやらねば人は育たじ”ってのを実践してるだけだし」
……いや、ちがうな。
アルバートの坊が認めた、その一点で大きく違いがあるんだろうな。
つまり、さっきの”弱者の理論”を引用するなら、坊はオレを”手の届かない相手”として萎縮し、諦めちまってるわけだ。
それに対してこの坊は同じ人類で、決闘で横槍とは言え別けたという事実が安心感を齎したんだろうさ。
だから”同じ土台に立つ相手の言葉”として、全てが受け入れられる。
”英霊”じゃなくて、同じ”人間”だからな。
とは言え、それを言った所で話は拗れるから黙っておくが。
「……そうだな。二段構えでやりたいと思うが、どうだ?」
「え? いや、まあ。俺は別に構わないけど」
「学園で色々教えてやって、休暇の時に総合的に見てそれらを土台に磨く方向でやる。なんにしても、坊が納得してやる気を出さない事にゃ始まるらねぇが……。お前さんのおかげで大分良い方向に転がったからな」
「良い方向?」
「あいつ、クラインの坊が剣の稽古をするときに、体力作りやら基礎的なことをやってるのを見て、熱が入ったんだろうさ。屋敷からでて、人目の無い所で槍を一人で振ったり、坊の教えた体力づくりをグリムに付き添ってもらってやってるところだからな」
「……そうだったのか。部屋にずっと篭りきりで、外の事を全然知らなかった」
「ま、あんだけ出血してりゃあな。あの現場、血だらけで酷かったもんだ。ヘラが居なきゃ、マジで終わりだったくらいにはな」
あの現場を調べるのにオレもロビンも借り出されてる。
その結果、激しく争った事くらいしか判明しなかったが……。
目の前の坊、ヘラが言うには腹を深く刺されたとか言っていた。
辛うじて生きてた事が奇跡のようなもんだ、そりゃ部屋に長く居るハメにもなるさ。
「だが、まあ。部屋から出たら出たで大変だぜ~? ヴァレリオ家やヴォルフェンシュタイン家の連中がお前さんを気にしてたからな。食事ともなったら、質問攻めになるだろうぜ」
「やだぁぁぁああああああぁぁ、俺室内喫食で休み過ごすぅぅぅううううううううぅぅ!!!!」
はあ、これが英雄ねえ?
先ほどまでのそれらしい雰囲気はどこへやら、急に子供のようになりやがった。
まあ、先ほど自分が言ってたいように”欠点”と言う奴だろうな。
あるいは……そう見せているだけなのか。
──疲れていても、みんなの前では平気なフリをする──
──それとは逆に、余裕があっても”もうだめだ~”ってフリも出来れば良いかな──
──それを上手く混ぜ合わせて、使いこなせれば……兵は付いてきてくれるからね──
あぁ、懐かしいな。
惚けたり、馬鹿なフリをするとか色々あったっけな。
どこまでやれてるか自信は無いが。
「お~よしよし、胸で泣くか? 坊」
「飛び込むのなら女性の胸の中が良いね! はぁ……」
ま、演技だわな。
直に立ち直って、何事も無かったかのように振舞う。
やっぱり演技か、食えねえ野郎だぜ……。
「ま、アルバートの事は分かったけど。方針はさっきので?」
「あぁ。武器は武器でしかない、槍の一族だとか何とかに固執してクタバルよか、武器とて道具の一つくらいに構えて、棄ててでも勝ちを拾いにいくような……泥臭さを教えてやってくれ」
「あ~……良いのか?」
「良いんだよ。同じ事をやらせたら、親父殿や長兄と比べてまた凹むだけだからな。なら、違う考えや違うやり方をやらせた方が坊の為になる」
あいつは常に他人の目を気にしてやがるからな。
親父のように豪胆に、長兄のように強く、次兄のように魔法を使いこなす地頭。
それらを気にしてたら全てが疎かになる典型的な一例って奴だ。
強がれば傲慢になる、立派に戦おうとすれば固執する、魔法に拘れば周囲が見えなくなる。
悪癖を少しずつ消すか、なんなら均していくのがちょうど良い。
自分が弱いと思えていたとしても、”どう弱いのか”を理解できないのならすすめやしないしな。
「けど、俺……。まだ、武芸関連の魔法とか触った事無いんだけど」
「なら、回復した時に一度見せてやんよ。あれは動作術式の延長線上にある。マリーやヘラから聞いちゃ居るが、それが出来るのなら武技だろうが武芸魔法だろうが坊にでもやれるさ」
「それって、学園に戻るまでに覚えられるかな。出来れば、学園に戻るまでに理解もして、アルバートへの指導・教育にどう取り込むかも考えておきたいんだけど」
「なあに、簡単さ。最終的には手や足に魔法を纏って殴ったり蹴ったり出来りゃそれも同じだし、部屋んなかでも出来るからな」
握り拳を作り、ググと力を篭める。
すると肘から先が焔に包まれる。
やってるこたぁそう難しい事じゃない。
「手や足に魔力をやって、魔法を出せる事から始めりゃ良い。それを、武器や全身に纏わせる事が出来りゃ後は自分の技に沿って作っていきゃいいだけだからな」
「なるほど……」
「ま、そういった鍛錬をする時にゃ眼鏡は外しとけよ? 知り合いの中に眼鏡が壊れて目を傷つけたって奴も居たからな」
「あぁ、そうしとくよ」
眼鏡をかけりゃ頭が良さそうに見えるし、勉強が出来るようにも思えてくるからな。
そういうのにあやかりたいんだろうさ。
マリーの奴も、一時期研究のし過ぎで目が悪くなった時もあったからな。
ヘラが見てやらなきゃどうなってた事やら。
「そういや、アイアスお勧めの書物とかってない?」
「なんだぁ? 突然」
「いや、色々とこっちの知識は必要になるだろ? それで、休暇中に近場で書物とか手に入るのなら、参考に探してみようかなと思ってさ」
「あ~……。オレは小難しい理屈を並べたモンは苦手なんだ。だから、アルバートの坊が読むような漫画の方が性に合ってる」
「それじゃ娯楽書なんだよなあ……」
「マリーとヘラ、あるいは……ツアル皇国のタケルくらいか。英霊の中で身を入れて書を読み漁る連中なんてこれくらいしかいねぇぞ。それに、オレたちゃどっちかというと実戦で理論だのなんだのを構築して、それを上手く互いに言い合って磨いていっただけに過ぎない。だから、頭でっかちの書いたような本は参考にゃならねーのさ」
「漫画、漫画かぁ……。漫画で軍事的な事柄を取り扱った物ってのはないのかな?」
「は? んなもんねーぞ。娯楽に何求めてんだ」
「いや、娯楽に落とし込めば書物に馴染みの浅い民だって、簡単な読みが出来れば楽しめるだろ? なんなら、それを幾らか娯楽化すれば教会でだって取り扱えるし」
「坊、マジでいってんのか?」
漫画なんて今の学園に居る世代からしてみたら垂涎モンの娯楽だが、学園から出ればどれくらいの扱いを受けてるかわかんだろ。
下劣、低俗、芸術とすら呼べない無駄なもの。
貴族連中の親世代は見向きもしないだろうさ。
それでも何とかなってるのは、一部の物好きな輩が金を出して作らせてるからに過ぎない。
だが、安い作品が席巻する事は無いだろうさ。
だが、坊にとってはそうじゃないらしい。
色々と、腕を組んで考え込んでいる。
「何考えてやがる?」
「いんや、受けの良いものが出来れば、もっと戦いに関して広く知識を広げたり浸透させる事が出来るんじゃないかって考えてた所。俺の居た場所じゃ、戦記物や軍紀物、大戦物としてそういった作品が書物として作られ、それと提携する形で漫画も描かれたりしてたんだ。文章慣れしてない層にも一発で興味を持ってもらいやすいと言う意味では、漫画は視覚効果に優れてるからさ」
「視覚、効果ぁ?」
「文章は読んで、理解して、頭に入れて、それを個人が噛み砕いて想像するという多段階的な要素が必要になるものなんだ。それに、前提条件や知識が必要とされる物があるから、作者の独特な言い回しや文章を理解するには一定の教養が無いとついていけなくなる。けど、漫画はそのタ段階的なものを一気に省略できる。目に入ったものが全てで、そこらへんは漫画を描く人の技量に関わるけど、完結したものを一気に頭に送り込める。勿論、文章と違って省いたりそぎ落とされるものはあるけど。……理解や、興味を持ってもらうと言う意味では、手っ取り早い」
……くそ、なんだかわかりゃしねぇが、また何か始める気だぜ? こいつ。
てか、おいおいおいおい。
休暇だよな? 療養中だったはずだよな?
なのになんで、こうも頭を働かせてやがる?
「……ま、覚えておいた方が良いか。ありがとう、アイアス」
「礼を言われる理由が分からねーが」
「いや、見落としていた事に気がついたんだ」
「ふぅん……。なんだかわからねーが、そのお礼に今度手合わせしてくれや」
「なんでヴァレリオ家の連中もそうだけど、手合わせしたがるのかな……」
「そりゃ、お前さんは”英雄”と称されたからにきまってらぁな。英雄ってのは、多くの場合では作品や歴史にしかいない。だが、担ぎ上げられたとは言え、風聞で聞く分も含めてそれっぽい事はしてる。なら、関わりや関係を持ちたいのさ」
「そういうもんかね……」
「それに、確かめてぇんだよ。何が違うのか、どう違うのかって奴をさ。自分にも手が届くのか、或いは自分が変わる事で手が届くのか、もしくは……自分もそこに至れるのか、とかな。残念ながら、マリーの一件でオレたちにゃ全て筒抜けになってる以上、そう思われてると思った方が良い。全てが終わってから英雄になったオレと、生きながらにして英雄になった坊とどうちがうのか……気になんのさ」
そう、オレは気になったんだ。
オレたちは、運よく生き延び続けた上で周囲を犠牲にし、想いを託されながら成長し続けた果てに英雄となれた人間だ。
だが、目の前の男は違う。
たとえ政治や外交的な意味合いが強かったとしても、生きたままに英雄と称され、その上英雄と呼ばれるに値する行動をしてきた。
だから気になっちまうのさ。
何が違う? どう違う? と。
そして期待する、人類の危機とやらに貢献してくれるかもしれねぇと。
英霊になったは良いが、今度は人類は英霊に頼りきりになっちまった。
唯一ツアル皇国の連中くらいか、英霊と人類が共にあろうとする姿勢を見せてるのは。
だが、それは他国からの顰蹙を買ってる。
ふざけた話だ。
英霊を勝手に神聖視してんじゃねぇ。
英霊を勝手に人類の守護者として諦めてんじゃねぇ。
人類にゃ人類にすべき事があるだろうが。
だが、そういう意味では……目の前の坊は違う。
英霊を神聖視はしちゃいねぇ。
英霊を格別扱いはしているが、それ以上じゃねぇ。
こういう奴がもっと居れば、オレも安心できるってのによ……。
「……手合わせ自体は、否定しないよ。俺も、あんた等英霊に少しでも追いすがれるのなら……そうしたい」
「なら、そうしな。このアイアスがそれを認めてやる。坊が強くなることには意味がある、理解を深められるのならそれに勝ることは無い。たとえ有耶無耶がなんと言おうと、オレが肩をもってやるってな」
「なんでそこまで?」
「マリーを救われた事もあるが……、アルバートの坊を立ち直らせてくれたってのもあるからな。それも、暴力や甘言でもない、誠実に相手をしてくれた上で容赦なく叩きのめしながらも導いた。なら、そんな男を信じるにゃ十分すぎるとはおもわねぇか?」
あぁ、それだけなんだよ。
まじで、それだけなんだ……。
~ ☆ ~
「そぉ~い」
グリムに、すきにやらせるっていった。
ばしょ、じょーきょー、じょうたい、あさからばんまでかんけーなし。
やることをきめて、それをたっせーできたらグリムのかち。
たとえば、しょさいからなにかものをとってくるとか。
もしくは、やしきからわなをさどーさせずにぬけだすとか。
あるいは、みつからないよーにやしきにはいるとか。
けど、ぜんぶダメ。
い~ところまではいく。
なのに、かんがえがたりないからしっぱいする。
きょ~は、そうご~くんれん。
やしきのそとから~、やしきにしんにゅ~して~、こ~しゃくのへやにはいって~、ものをもって~、やしきからでるだけ。
もちろん、みつかったらたたかって~、それでまけたらさいしょから。
それをなんどもなんどもやりなおした。
すきをみせて、たおれたふりをして、あしをつかんで~、ひきずりたおす。
そしたら~、のっかって~、おしまい。
ナイフをくびにそえたら、もうしんだとおなじ。
「──む~……」
「グリム、それに……ロビンさままで。なにを……」
「とっくん」
「──虐め」
「えぇ!?」
ミラノがようすをみにきた。
ま~、けっこうおととかだしてたし、へんなことしてるからきになるよね。
「ロビンさま?」
「む~、ちがうのにい……」
「──うそうそ、特訓してた」
「人様のお屋敷でやる事?」
「──けど、ししょ~はここにしか居ない」
「し、師匠?」
「ん。わたし、ししょ~」
ミラノ、りかいできてなさそ~。
せつめ~、する。
そんなかんじでグリムをみる。
「──アルも頑張ってる、けど私だけ何もしないのはおかし~。けど、今まで独学だった。だから、せんせ~がひつよ~だった」
「あぁ、ええ……。それは分かったけど……。まだ続くの?」
「ん。きゅ~け~する」
「──まだ、やれる」
「まだやれるとしても、自分の格好を見てみなさいよ。その状態で屋敷の敷地の中に居られると、色々と困るのよ」
……だいぶ、ボロボロにした。
ワナとかまのーとかつかったし、じめんにもひきたおしたし。
あまり、きにしてるかんじじゃないみたいだけど。
よくない、きはする。
「デルブルグ家がそれを是として、他家をみすぼらしいがままにしてると思われるのがイヤなの。おわかり?」
「──仕方ない」
「なら、きゅうけい」
「あ、えっと……。ロビンさまはこの後大丈夫? 空いてる?」
「だいじょ~ぶ」
「良かった。グリム、今ならお湯もあるし入れるから」
「──なんで?」
「兄さまも、同じくらいボロボロになったからよ」
あ~、ヤゴってこもつよいよね。
ヤクモ……クラインをえんじてたヤクモもぼこぼこにされてた。
けど、ああいうのはぎじゅつでおぎなってるだけ。
ヤクモ、そのうちまけなくなる。
からだがつよくても、あたまをつかってたたかうひとにまけることもある。
あたまをつかってたたかうひとでも、ぎじゅつにはかてないこともある。
ぎじゅつでたたかうひとでも、からだがつよいひとにぜんぶふきとばされることもある。
グリムがにゅうよくしにいってから、ミラノのへやにむかう。
へやにはいるのは、はじめてかもしれない。
「……ごみべや?」
「ゴミじゃないって~の! 私なりに……あのマリーって奴の真似をしてみてるだけなんだから」
ミラノのへや、かみくずだらけ……。
ううん、よくみたらまるめてないかみもおっこちてる。
それが、ぜんぶてがきでなにかかかれてる。
「マリーの?」
「魔道書。詠唱自体を書き記して、魔力と呪文名だけで魔法を発動できるっていう技術」
「けど、ミラノ。ヤクモからべつのおそわってなかった?」
「それはそれ、これはこれ。アイツにはあれしかないけど、私は他にも色々な知識がある。なら、他の事もやっていれば私なりに応用できる知識や技術もあるだろうし、それはアイツにもまねできないから。──片付けるから、少し待ってて」
いわれて、ちゃんとまった。
わたし、えらいこ。
ミラノ、わたしのおちゃもだしてくれたし、おかしもくれた。
いいひと。
「その、話ってのは……あのマリーの事なんだけど」
「む?」
「……アルバートはアイアスさまと、グリムはロビンさまと……こう、教えてもらったりしてるでしょう? けど、私だけ……こう、上手くいってないから」
……じじょ~はしってる。
マリー、ミラノのことすごいきらってる。
そのりゆ~は、アイアスからきいたし、わたしもなんとなくりかいしてる。
「きにするだけムダ」
「そう、かしら。だって、アイツだって、英霊の皆様と上手くやれてるじゃない。だから、なんか……焦っちゃって」
「ヤクモは、いきたえいゆ~だからみんなきにしてる。それに、みどころがあるからきになる」
「そう、なの?」
「マリーをたすけるためにたたかった。あいては……いえないけど、いろいろないみでつよいあいて。そのあいてにいきのびた。それ、すごいこと」
「──……、」
「マリー、ひとみしりするから、べつにミラノだけそ~じゃない。ただ、ミラノはマリーににてるから、ど~ぞくけんおで、つらくあたってるだけ」
「同族嫌悪……?」
「マリーも、わかいころ、ミラノとそっくりだった。だから、たくさんしっぱいしたことをおもいだして、いやなきもちになる」
マリーも、がくえんでゆうしゅ~だった。
けど、じぶんにつかえていたキシがいなくなってから、さんざんだった。
かぞくをうしなった、かえるいえをうしなった、せいかつをうしなった、したしいひとをたくさんうしなった。
だから、たちなおったときからずっとマモノをころすことだけをかんがえて、まほうのけんきゅ~ばかりしてた。
ミラノも、もしかしたらおなじことするかもしれない、だからよけいにいやがる。
「マリー、じぶんのことがすきじゃない。ただ、じさつしたいほどじゃない。マモノへのにくしみだけでいきてる。ミラノ、おなじになりそ~だから、おしえたくない」
「同じになんて……」
「へやをみて、わたしもそ~おもった。ミラノ、マリーとまったくいっしょ」
ミラノ、まさかここまでへやをちらかしてまで、けんきゅ~するとはおもってなかった。
けど、このようすをみると……むかしのマリーといっしょ。
── ちがう、これじゃ仲間を殺しちゃう ──
── 敵をたくさんぶっ殺して、味方には被害を出さない為には…… ──
── けど、一匹でも多く殺さなきゃ。父様や母様を殺した報いを受けさせないと…… ──
今のマリー、せかいをすくってからすっかりおちついた。
それまではいつねてるのかわからないくらい、ころすことしかかんがえてなかった。
たたかうことがないから、しょっちゅうおさけをのむのにつきあわされる。
あれ、すんごいめ~わく。
やしきをぬけだすし、おさけにがてだっていってるのに……。
「ミラノがマリーをきにしすぎるひつよ~、ない」
「でも……」
「いそいだほ~が、とおまわりになることもある。きながにまつほ~が、ちかみちになることもある。それに、マリーはまだおちつけてない。だから、いままとわりつくの、ぎゃくこ~か」
「──そう、なんだ」
ミラノ、あせってる。
そのりゆ~はしってる。
クラインがもどってきたから、じぶんの”そんざいいぎ”をみうしなってる。
じゆ~にしていいといわれたけど、がくえんとべんきょ~とまほ~しかないから、すぐにはかわれない。
いままで、かのじょのいきるいみ、それしかなかった。
だから……ほかのやりかたをしらない。
「それに、マリーにせっしょくするのは、いまやってることをもっとやりこんでからのほうがい~」
「どうして?」
「”ていどがひくい”と、マリーもやりたがらないから」
ミラノがムッとする。
けど、それくらいじゃないといみがない。
マリーがミラノとにてるなら、ミラノとマリーもにたものどうし。
なら、かんじょうてきにさせれば、そのぶんやるきをだす。
それに、あながちまちがいじゃない。
ミラノは、まだおゆうぎくらいのまほ~しかつかえない。
「言ってくれるわね、ロビンさま?」
「けど、じじつ。マリーはヤクモとまほ~のはなしをするけど、それは”えるものがある”から。いまのミラノ、おんぶにだっこ」
「──ざけんな」
あ、おこった。
けど、マリーもこどものままじゃいられなかった。
そんなマリーのまねをしたいなら、こどもからそつぎょ~しなきゃいけない。
うまくやれたとはおもわない。
けど、だれかがめをさまさなきゃいけない。
じゃないと、がくせ~きぶんのままじゃ、マリーにはおいつけない。
「……どれくらい頑張れば良い?」
「マリーとおなじくらいなら、まいにち。ねないでやるしかない。けど、ミラノはうんがい~。そ~しなくてい~から」
「……? 私がマリーさまに追いつくとしたら毎日寝ないでやらなきゃいけないけど、そうしなくても良いって……どういう意味?」
「ヤクモがいる」
「……!」
「マリーはだれもおしえてくれなかった、だからじかんがかかった。けど、ミラノはそ~じゃない。ヤクモからいろいろきいて、それからマリーにいどめばいい。マリーがよくおこってるのは、ヤクモがやってることは、マリーがじかんをかけてみつけたこたえの、さきをいってるから。だから、ヤクモがいればとりあえず、だいじょ~ぶ」
「なんか、馬鹿げた話ね。アイツを……うん、アイツを英雄や特別なんかじゃないって事を証明する為に、アイツの知恵を借りなきゃいけないなんて」
「いや?」
「別に、嫌じゃない。たしかにいままで学んできた事や、私の自負とか色々ぶっ壊してくれちゃったけど。それでも、アイツも代償を支払って英霊との友好や交友を勝ち取ってる。なら、私だって……いままで学んだ事に固執する必要も、ないし」
ミラノ、すこしふっきれたかんじがする。
それでせ~かいかどうかは、わからない。
ただ「有難う」といってくれた。
いまは、それだけでまんぞく。
「……ありがとう、ロビンさま。少しだけ、気負わなくて良くなった」
「ん、それはよかった」
「──お話、おわった?」
「ひゃぁうっ!? って、グリム! アンタ、人の部屋に入るとき位戸を叩きなさいよ!」
「──師匠の教え、ちょっと試してみた。ぬきあ~し、さしあ~し」
……グリムも、まだまだ。
だけど、アルバートががんばりだしたから、グリムもがんばりだした。
ふたりとも、まだみじゅく。
それでもささえてくれるひとがいる。
「だから、そうやって私の長年の研究を数分で踏みにじるなぁ!!!!!」
「俺悪く無いじゃん! 絶対こんなのおかしいって!!!!!」
「あ~……」
そのひとは、きょうもたいへんそ~。
けど、それでいいとおもう。
マリーがむかしみたいになれば、ミラノにもすこしおしえてくれるよ~になるはず。
だから、しかたがない、しかたがない。
やしきのろうかを、ふたりぶんのあしおとがひびく。
そのさわぎごえは、すこしなつかしい。
── オレは悪くねえっての! 悪いのはオタクらの戦術眼の無さ! ──
── うっさい! そうやって大人びたこといって、馬鹿にして! ──
あのようへいがまだいたときのマリーも、こんなかんじだったはず。
なんだか、すこしこころがあたたかい……。
「グリム、きょ~はよるからあさのおけいこにきりかえる」
「──ん、わかった」
「って、待ちなさい! またあんなボロボロになるまでやるの!?」
「と~ぜん」
「──じゃないと、意味が無い」
ミラノ、あたまをかかえてる。
けど、それでいいとおもう。
わたしもグリムのめんどうみるのたのしくなってきた。
だから、もうちょっとがんばってみる。
ロビンにも一応聞いては見たが、会って話をするくらいなら大丈夫そうだ。
「と言うわけで、来たんだよ」
「あの、明日まで待てなかったんですかね……。復調予定日は明日なんですけど」
一日前倒しで来てみたらこの扱いだ。
「マリーやヘラは存分に来まくってるのにか?」
「あれは……。もう諦めた。言って聞くんなら、もっと休めてる」
「はは、ちげぇねぇ。回復する為に休んでる筈なのに、その最中に新しく負傷してやがるもんな、坊は」
「マリーがキレるんだもん……。私の苦節の末編み出した魔法を~とか言って、滅茶苦茶」
「そりゃそうだろうよ。マリーだって、魔法を扱っている当初は学生と同じくらいの程度だった。それを数年かけたとは言え、詠唱を破棄したり複合魔法の同時行使や、魔道書の作成による簡略化だのなんだのと……色々やってたんだぜ? それこそ、何度も倒れるくらいにはな。自分のしてきた苦労を、全く違う方法で軽々と越えられたら悲しさや怒り、空しさが生じるってもんさ」
「理不尽すぎる……」
「英霊とはいっても、元は一個の人間だからな。軽蔑するか?」
「いんや、完璧超人よか親近感を持てる。何の弱みも無い人間なんて、英雄や英霊であっても俺は近寄りたいとは思わないし」
そう言って坊は本を閉じた。
どうやら兵科の勉強をしていたようだ。
騎兵理論、その部隊の運用法等を書いてた奴だな。
歩兵もやったし、槍兵もやった、騎兵もやったからなんとなくは理解できる。
だが、そういった本の内容は微塵にも覚えちゃいねぇが。
「完璧超人がイヤだってか? なぜだ」
「失敗を知らない、弱い奴の事を知らない、負け犬の思考を知らない、弱者の理論が通用しないからだよ」
「お前がそうだってか?」
「自分が強いとでも? どういった時にへこたれて、どういった時に気分が沈み、どういった時に弱音が出てきて、どういった時に周囲に責任転嫁をするかを理解して、上手い事制御できてるだけの弱者だぞ? ただ、少しだけそれらを上手い事使いこなして、少しだけそれらを押さえつける事がで来て、少しだけそれらを黙らせる事がで来て、少しだけそれらを別のモノに昇華できるだけの弱者だ。というか、出来ない奴の思考が出来ない奴が兵や他人を率いられるかよ」
……それは、確かにそうだな。
オレはそういったのを、あいつに委ねてきた。
そして、迷ったら相談し、言われたように慰撫や鼓舞をするだけだ。
ただ、そういったのを幾らか吸収して自分のものに出来て、使いこなせるようになっただけだが。
マリーは……そういったの超絶下手糞だったもんな。
ヘラはそもそも後方支援、ロビンだって幾らか齧りはしたが統制が利いている間の話だ。
統制が利かなくなりつつある時は、オレか……あいつしか建て直しが出来なかったもんだ。
「部隊は、弱い場所から崩れる。それは別に数や質だけじゃない、気持ちや士気の話でもある。そういった時に、どこまで補佐してやれるか……弱者に寄り添った思考が出来るかが全てを分けると思ってる。けど、それが理解できない英雄に従えられたくないし、付き添いたいとも関わりたいとも思わない。俺は……理念や理想だけじゃやっていけないというのを知ってるからさ」
「一度は死んだみたいだが、それは坊の言う”弱者”の範疇だったのか?」
「範疇だったよ。あの時は……余裕が無かった。だから、昔居た舞台の理念と、親の教えしか頭に無かったし……そもそも、時間がそんなになかったし。アレが長引いてたら、流石にどっかしらでガタが来てたとは思うけど」
それは正解だ。
どんな崇高な理念や思想も、現実の前には限度がある。
疲労、眠気、空腹、負傷、死への恐怖……。
どこかで心がポキリと言ったら、ソイツは最早味方でありながら敵に利する存在に早代わりする。
逃げ出すだけで、他の味方の心が揺れる。
泣き喚くだけで、周囲の士気を下げる。
不満を吐くだけで、周囲も不満を撒き散らすようになる。
それをどこまで庇いながら戦えるかが、部隊としての最重要項目だからな。
──アイアスは、他の誰よりもそういった事が理解できる──
──だから、兵士の相手をするときは君が適任なんだよ──
──自分らは半ば滅びかけの人類の、最後の部隊なんだ──
──疲れ果て、傷つき、空腹で、眠りが十分じゃないんだしね──
──自分も見るけど、限界はあるし。そういった時に、弱者の味方をしてくれる君が居れば安心だよ──
ハ、懐かしい……。
そんな事も言われたっけな。
何のとりえも無いと思っていたオレが、まさかそんな事で秀でてるとは思うもんかよ。
だが、それは正解だったわけだ。
タケルは清廉すぎて、あいつの前じゃ弱音なんか吐けやしない。
マリーはそういうのを見かけりゃイライラしだすし、なんなら喧嘩さえしだす始末だ。
ロビンも”言う事を聞かせる”事しか出来なかったから、そこまで来ると手の施しようが無い。
そこでオレの出番って奴だ。
マリーには甘いと言われたっけな。
だが、そういった”甘さ”が結果として瓦解や崩壊を防いできた。
あいつの言った事は正しかった。
「坊、そりゃ正しいぜ。自分が弱い事を認められる奴ぁそうそういない。強がって、背伸びしてさっさとくたばるか、或いは目の前の現実に心が折れて足手まといになる。そういった……なんだ? 最悪の──」
「”最悪な状態、状況下における自分との付き合い方”?」
「あぁ、それだ。オレだって腹が減りゃ力が出ないし、なんならやる気も出なくなる。ちゃんと寝なけりゃ武芸も繊細さを欠くし、大雑把になる上に判断を誤る。それでも、どこからどこまでだったらクソみてぇな状態の中で自分を奮い立たせる事が出来るか、どこからがダメかを判断出来るようになる。それを兵士にも当てはめて考えりゃ良いだけだからな」
「……そゆこと」
アルバートの坊も言ってたしな。
こいつはアルバートの状態を見抜いて、落ち着かせたりした。
グリムが張り詰めすぎてるのを宥めたりもしたと。
そういう、気の利く奴は貴重だ。
あんな何が起きてるかも分からない中で、自分を律して他人の面倒を見るなんてな。
自分が弱い事を認められずに限界を超えるアルバート。
自分の限界を超えてると気づかなかったグリム。
あのままなら、共倒れしていただろうからな。
「……ま、その話はまた今度だ。今回来たのは、アルバートの坊の件でだ」
「アルバート……。何かあったのか?」
「いんや、これから何かをするという意味合いでな。休暇の間はオレが坊の面倒を見られるが、学園に居る間はどうしようもねぇ。だから、坊と訓練に関して話をしたいと思ってね」
「なるほど」
「まあ、なんだ。血の連なる相手として、その上であの坊には一応だが見込みはあるんだ。だが、どうにもオレじゃそれを上手く引き出せ無くてな。それをどうやって引き出したのか参考にしたいってのもあってね」
「いや、とは言っても……。俺も特別な事はして無いぞ? ただ決闘で対立して、そこから俺を認めたのはアルバートだし、俺に師事される時だって言葉を尽くして説明してるだけだしなあ。”やってみせ、言って聞かせて、させてみせ。褒めてやらねば人は育たじ”ってのを実践してるだけだし」
……いや、ちがうな。
アルバートの坊が認めた、その一点で大きく違いがあるんだろうな。
つまり、さっきの”弱者の理論”を引用するなら、坊はオレを”手の届かない相手”として萎縮し、諦めちまってるわけだ。
それに対してこの坊は同じ人類で、決闘で横槍とは言え別けたという事実が安心感を齎したんだろうさ。
だから”同じ土台に立つ相手の言葉”として、全てが受け入れられる。
”英霊”じゃなくて、同じ”人間”だからな。
とは言え、それを言った所で話は拗れるから黙っておくが。
「……そうだな。二段構えでやりたいと思うが、どうだ?」
「え? いや、まあ。俺は別に構わないけど」
「学園で色々教えてやって、休暇の時に総合的に見てそれらを土台に磨く方向でやる。なんにしても、坊が納得してやる気を出さない事にゃ始まるらねぇが……。お前さんのおかげで大分良い方向に転がったからな」
「良い方向?」
「あいつ、クラインの坊が剣の稽古をするときに、体力作りやら基礎的なことをやってるのを見て、熱が入ったんだろうさ。屋敷からでて、人目の無い所で槍を一人で振ったり、坊の教えた体力づくりをグリムに付き添ってもらってやってるところだからな」
「……そうだったのか。部屋にずっと篭りきりで、外の事を全然知らなかった」
「ま、あんだけ出血してりゃあな。あの現場、血だらけで酷かったもんだ。ヘラが居なきゃ、マジで終わりだったくらいにはな」
あの現場を調べるのにオレもロビンも借り出されてる。
その結果、激しく争った事くらいしか判明しなかったが……。
目の前の坊、ヘラが言うには腹を深く刺されたとか言っていた。
辛うじて生きてた事が奇跡のようなもんだ、そりゃ部屋に長く居るハメにもなるさ。
「だが、まあ。部屋から出たら出たで大変だぜ~? ヴァレリオ家やヴォルフェンシュタイン家の連中がお前さんを気にしてたからな。食事ともなったら、質問攻めになるだろうぜ」
「やだぁぁぁああああああぁぁ、俺室内喫食で休み過ごすぅぅぅううううううううぅぅ!!!!」
はあ、これが英雄ねえ?
先ほどまでのそれらしい雰囲気はどこへやら、急に子供のようになりやがった。
まあ、先ほど自分が言ってたいように”欠点”と言う奴だろうな。
あるいは……そう見せているだけなのか。
──疲れていても、みんなの前では平気なフリをする──
──それとは逆に、余裕があっても”もうだめだ~”ってフリも出来れば良いかな──
──それを上手く混ぜ合わせて、使いこなせれば……兵は付いてきてくれるからね──
あぁ、懐かしいな。
惚けたり、馬鹿なフリをするとか色々あったっけな。
どこまでやれてるか自信は無いが。
「お~よしよし、胸で泣くか? 坊」
「飛び込むのなら女性の胸の中が良いね! はぁ……」
ま、演技だわな。
直に立ち直って、何事も無かったかのように振舞う。
やっぱり演技か、食えねえ野郎だぜ……。
「ま、アルバートの事は分かったけど。方針はさっきので?」
「あぁ。武器は武器でしかない、槍の一族だとか何とかに固執してクタバルよか、武器とて道具の一つくらいに構えて、棄ててでも勝ちを拾いにいくような……泥臭さを教えてやってくれ」
「あ~……良いのか?」
「良いんだよ。同じ事をやらせたら、親父殿や長兄と比べてまた凹むだけだからな。なら、違う考えや違うやり方をやらせた方が坊の為になる」
あいつは常に他人の目を気にしてやがるからな。
親父のように豪胆に、長兄のように強く、次兄のように魔法を使いこなす地頭。
それらを気にしてたら全てが疎かになる典型的な一例って奴だ。
強がれば傲慢になる、立派に戦おうとすれば固執する、魔法に拘れば周囲が見えなくなる。
悪癖を少しずつ消すか、なんなら均していくのがちょうど良い。
自分が弱いと思えていたとしても、”どう弱いのか”を理解できないのならすすめやしないしな。
「けど、俺……。まだ、武芸関連の魔法とか触った事無いんだけど」
「なら、回復した時に一度見せてやんよ。あれは動作術式の延長線上にある。マリーやヘラから聞いちゃ居るが、それが出来るのなら武技だろうが武芸魔法だろうが坊にでもやれるさ」
「それって、学園に戻るまでに覚えられるかな。出来れば、学園に戻るまでに理解もして、アルバートへの指導・教育にどう取り込むかも考えておきたいんだけど」
「なあに、簡単さ。最終的には手や足に魔法を纏って殴ったり蹴ったり出来りゃそれも同じだし、部屋んなかでも出来るからな」
握り拳を作り、ググと力を篭める。
すると肘から先が焔に包まれる。
やってるこたぁそう難しい事じゃない。
「手や足に魔力をやって、魔法を出せる事から始めりゃ良い。それを、武器や全身に纏わせる事が出来りゃ後は自分の技に沿って作っていきゃいいだけだからな」
「なるほど……」
「ま、そういった鍛錬をする時にゃ眼鏡は外しとけよ? 知り合いの中に眼鏡が壊れて目を傷つけたって奴も居たからな」
「あぁ、そうしとくよ」
眼鏡をかけりゃ頭が良さそうに見えるし、勉強が出来るようにも思えてくるからな。
そういうのにあやかりたいんだろうさ。
マリーの奴も、一時期研究のし過ぎで目が悪くなった時もあったからな。
ヘラが見てやらなきゃどうなってた事やら。
「そういや、アイアスお勧めの書物とかってない?」
「なんだぁ? 突然」
「いや、色々とこっちの知識は必要になるだろ? それで、休暇中に近場で書物とか手に入るのなら、参考に探してみようかなと思ってさ」
「あ~……。オレは小難しい理屈を並べたモンは苦手なんだ。だから、アルバートの坊が読むような漫画の方が性に合ってる」
「それじゃ娯楽書なんだよなあ……」
「マリーとヘラ、あるいは……ツアル皇国のタケルくらいか。英霊の中で身を入れて書を読み漁る連中なんてこれくらいしかいねぇぞ。それに、オレたちゃどっちかというと実戦で理論だのなんだのを構築して、それを上手く互いに言い合って磨いていっただけに過ぎない。だから、頭でっかちの書いたような本は参考にゃならねーのさ」
「漫画、漫画かぁ……。漫画で軍事的な事柄を取り扱った物ってのはないのかな?」
「は? んなもんねーぞ。娯楽に何求めてんだ」
「いや、娯楽に落とし込めば書物に馴染みの浅い民だって、簡単な読みが出来れば楽しめるだろ? なんなら、それを幾らか娯楽化すれば教会でだって取り扱えるし」
「坊、マジでいってんのか?」
漫画なんて今の学園に居る世代からしてみたら垂涎モンの娯楽だが、学園から出ればどれくらいの扱いを受けてるかわかんだろ。
下劣、低俗、芸術とすら呼べない無駄なもの。
貴族連中の親世代は見向きもしないだろうさ。
それでも何とかなってるのは、一部の物好きな輩が金を出して作らせてるからに過ぎない。
だが、安い作品が席巻する事は無いだろうさ。
だが、坊にとってはそうじゃないらしい。
色々と、腕を組んで考え込んでいる。
「何考えてやがる?」
「いんや、受けの良いものが出来れば、もっと戦いに関して広く知識を広げたり浸透させる事が出来るんじゃないかって考えてた所。俺の居た場所じゃ、戦記物や軍紀物、大戦物としてそういった作品が書物として作られ、それと提携する形で漫画も描かれたりしてたんだ。文章慣れしてない層にも一発で興味を持ってもらいやすいと言う意味では、漫画は視覚効果に優れてるからさ」
「視覚、効果ぁ?」
「文章は読んで、理解して、頭に入れて、それを個人が噛み砕いて想像するという多段階的な要素が必要になるものなんだ。それに、前提条件や知識が必要とされる物があるから、作者の独特な言い回しや文章を理解するには一定の教養が無いとついていけなくなる。けど、漫画はそのタ段階的なものを一気に省略できる。目に入ったものが全てで、そこらへんは漫画を描く人の技量に関わるけど、完結したものを一気に頭に送り込める。勿論、文章と違って省いたりそぎ落とされるものはあるけど。……理解や、興味を持ってもらうと言う意味では、手っ取り早い」
……くそ、なんだかわかりゃしねぇが、また何か始める気だぜ? こいつ。
てか、おいおいおいおい。
休暇だよな? 療養中だったはずだよな?
なのになんで、こうも頭を働かせてやがる?
「……ま、覚えておいた方が良いか。ありがとう、アイアス」
「礼を言われる理由が分からねーが」
「いや、見落としていた事に気がついたんだ」
「ふぅん……。なんだかわからねーが、そのお礼に今度手合わせしてくれや」
「なんでヴァレリオ家の連中もそうだけど、手合わせしたがるのかな……」
「そりゃ、お前さんは”英雄”と称されたからにきまってらぁな。英雄ってのは、多くの場合では作品や歴史にしかいない。だが、担ぎ上げられたとは言え、風聞で聞く分も含めてそれっぽい事はしてる。なら、関わりや関係を持ちたいのさ」
「そういうもんかね……」
「それに、確かめてぇんだよ。何が違うのか、どう違うのかって奴をさ。自分にも手が届くのか、或いは自分が変わる事で手が届くのか、もしくは……自分もそこに至れるのか、とかな。残念ながら、マリーの一件でオレたちにゃ全て筒抜けになってる以上、そう思われてると思った方が良い。全てが終わってから英雄になったオレと、生きながらにして英雄になった坊とどうちがうのか……気になんのさ」
そう、オレは気になったんだ。
オレたちは、運よく生き延び続けた上で周囲を犠牲にし、想いを託されながら成長し続けた果てに英雄となれた人間だ。
だが、目の前の男は違う。
たとえ政治や外交的な意味合いが強かったとしても、生きたままに英雄と称され、その上英雄と呼ばれるに値する行動をしてきた。
だから気になっちまうのさ。
何が違う? どう違う? と。
そして期待する、人類の危機とやらに貢献してくれるかもしれねぇと。
英霊になったは良いが、今度は人類は英霊に頼りきりになっちまった。
唯一ツアル皇国の連中くらいか、英霊と人類が共にあろうとする姿勢を見せてるのは。
だが、それは他国からの顰蹙を買ってる。
ふざけた話だ。
英霊を勝手に神聖視してんじゃねぇ。
英霊を勝手に人類の守護者として諦めてんじゃねぇ。
人類にゃ人類にすべき事があるだろうが。
だが、そういう意味では……目の前の坊は違う。
英霊を神聖視はしちゃいねぇ。
英霊を格別扱いはしているが、それ以上じゃねぇ。
こういう奴がもっと居れば、オレも安心できるってのによ……。
「……手合わせ自体は、否定しないよ。俺も、あんた等英霊に少しでも追いすがれるのなら……そうしたい」
「なら、そうしな。このアイアスがそれを認めてやる。坊が強くなることには意味がある、理解を深められるのならそれに勝ることは無い。たとえ有耶無耶がなんと言おうと、オレが肩をもってやるってな」
「なんでそこまで?」
「マリーを救われた事もあるが……、アルバートの坊を立ち直らせてくれたってのもあるからな。それも、暴力や甘言でもない、誠実に相手をしてくれた上で容赦なく叩きのめしながらも導いた。なら、そんな男を信じるにゃ十分すぎるとはおもわねぇか?」
あぁ、それだけなんだよ。
まじで、それだけなんだ……。
~ ☆ ~
「そぉ~い」
グリムに、すきにやらせるっていった。
ばしょ、じょーきょー、じょうたい、あさからばんまでかんけーなし。
やることをきめて、それをたっせーできたらグリムのかち。
たとえば、しょさいからなにかものをとってくるとか。
もしくは、やしきからわなをさどーさせずにぬけだすとか。
あるいは、みつからないよーにやしきにはいるとか。
けど、ぜんぶダメ。
い~ところまではいく。
なのに、かんがえがたりないからしっぱいする。
きょ~は、そうご~くんれん。
やしきのそとから~、やしきにしんにゅ~して~、こ~しゃくのへやにはいって~、ものをもって~、やしきからでるだけ。
もちろん、みつかったらたたかって~、それでまけたらさいしょから。
それをなんどもなんどもやりなおした。
すきをみせて、たおれたふりをして、あしをつかんで~、ひきずりたおす。
そしたら~、のっかって~、おしまい。
ナイフをくびにそえたら、もうしんだとおなじ。
「──む~……」
「グリム、それに……ロビンさままで。なにを……」
「とっくん」
「──虐め」
「えぇ!?」
ミラノがようすをみにきた。
ま~、けっこうおととかだしてたし、へんなことしてるからきになるよね。
「ロビンさま?」
「む~、ちがうのにい……」
「──うそうそ、特訓してた」
「人様のお屋敷でやる事?」
「──けど、ししょ~はここにしか居ない」
「し、師匠?」
「ん。わたし、ししょ~」
ミラノ、りかいできてなさそ~。
せつめ~、する。
そんなかんじでグリムをみる。
「──アルも頑張ってる、けど私だけ何もしないのはおかし~。けど、今まで独学だった。だから、せんせ~がひつよ~だった」
「あぁ、ええ……。それは分かったけど……。まだ続くの?」
「ん。きゅ~け~する」
「──まだ、やれる」
「まだやれるとしても、自分の格好を見てみなさいよ。その状態で屋敷の敷地の中に居られると、色々と困るのよ」
……だいぶ、ボロボロにした。
ワナとかまのーとかつかったし、じめんにもひきたおしたし。
あまり、きにしてるかんじじゃないみたいだけど。
よくない、きはする。
「デルブルグ家がそれを是として、他家をみすぼらしいがままにしてると思われるのがイヤなの。おわかり?」
「──仕方ない」
「なら、きゅうけい」
「あ、えっと……。ロビンさまはこの後大丈夫? 空いてる?」
「だいじょ~ぶ」
「良かった。グリム、今ならお湯もあるし入れるから」
「──なんで?」
「兄さまも、同じくらいボロボロになったからよ」
あ~、ヤゴってこもつよいよね。
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ヤクモ、そのうちまけなくなる。
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たたかうことがないから、しょっちゅうおさけをのむのにつきあわされる。
あれ、すんごいめ~わく。
やしきをぬけだすし、おさけにがてだっていってるのに……。
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「でも……」
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そのりゆ~はしってる。
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「いや?」
「別に、嫌じゃない。たしかにいままで学んできた事や、私の自負とか色々ぶっ壊してくれちゃったけど。それでも、アイツも代償を支払って英霊との友好や交友を勝ち取ってる。なら、私だって……いままで学んだ事に固執する必要も、ないし」
ミラノ、すこしふっきれたかんじがする。
それでせ~かいかどうかは、わからない。
ただ「有難う」といってくれた。
いまは、それだけでまんぞく。
「……ありがとう、ロビンさま。少しだけ、気負わなくて良くなった」
「ん、それはよかった」
「──お話、おわった?」
「ひゃぁうっ!? って、グリム! アンタ、人の部屋に入るとき位戸を叩きなさいよ!」
「──師匠の教え、ちょっと試してみた。ぬきあ~し、さしあ~し」
……グリムも、まだまだ。
だけど、アルバートががんばりだしたから、グリムもがんばりだした。
ふたりとも、まだみじゅく。
それでもささえてくれるひとがいる。
「だから、そうやって私の長年の研究を数分で踏みにじるなぁ!!!!!」
「俺悪く無いじゃん! 絶対こんなのおかしいって!!!!!」
「あ~……」
そのひとは、きょうもたいへんそ~。
けど、それでいいとおもう。
マリーがむかしみたいになれば、ミラノにもすこしおしえてくれるよ~になるはず。
だから、しかたがない、しかたがない。
やしきのろうかを、ふたりぶんのあしおとがひびく。
そのさわぎごえは、すこしなつかしい。
── オレは悪くねえっての! 悪いのはオタクらの戦術眼の無さ! ──
── うっさい! そうやって大人びたこといって、馬鹿にして! ──
あのようへいがまだいたときのマリーも、こんなかんじだったはず。
なんだか、すこしこころがあたたかい……。
「グリム、きょ~はよるからあさのおけいこにきりかえる」
「──ん、わかった」
「って、待ちなさい! またあんなボロボロになるまでやるの!?」
「と~ぜん」
「──じゃないと、意味が無い」
ミラノ、あたまをかかえてる。
けど、それでいいとおもう。
わたしもグリムのめんどうみるのたのしくなってきた。
だから、もうちょっとがんばってみる。
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私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
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お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
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さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
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