[完結]禁断の愛と嫉妬

桃源 華

文字の大きさ
上 下
21 / 35

第21話: イザベラの焦燥

しおりを挟む
アストリアの街は華やかな
雰囲気に包まれていた。
リズと皇太子の婚約が発表され、
街中にはお祝いの垂れ幕が
飾られていた。
市民たちはその知らせに歓喜し、
街は祝祭ムードで満ちていた。

しかし、
そのお祝いムードに満ちた
街並みを馬車の窓から見つめる
一人の女性がいた。
イザベラだ。
彼女は垂れ幕に描かれた
リズの笑顔を見ると、
怒りを抑えきれず、
砂を噛むような表情で
つぶやいた。

「不愉快だわ…」

イザベラの手に持たれた扇が、
無意識のうちに握りしめられ、
バキッと音を立てて壊れて
しまった。
彼女の側に座っていた侍女が
その音に驚き、
「お嬢様、どうなさいましたか?」
と尋ねた。

「何でもないわ」
とイザベラは冷たく
言い放ったが、侍女はその目に
怒りの火が燃えているのを
見逃さなかった。

「リズと皇太子の婚約なんて、
あんなの茶番よ。
あの娘が皇太子妃になるなんて、
耐えられないわ」と、
イザベラはつぶやいた。

侍女は慎重に言葉を選び、
「お嬢様、どうか落ち着いて
くださいませ。リズ様は確かに
立派な女性ですが、お嬢様には
お嬢様の魅力があります」
と慰めようとした。

「魅力?
それが何の役に立つの?」
イザベラは苦笑し、
「私はただの貴族の娘よ。
リズのように皇太子と婚約する
ことなんてできない」
と苛立ちを隠せなかった。

侍女は何も言えず、
ただイザベラの怒りが
収まるのを待つしかなかった。

馬車がイザベラの屋敷に
到着すると、彼女はすぐに馬車を
降り、急ぎ足で自室に向かった。
扉を閉めると、彼女は深い息をつき、椅子に座り込んだ。

「どうしてあのリズが…」と、
彼女は自問した。
「私がどれだけ努力しても、
あの娘には敵わないのかしら」

その時、ドアがノックされ、
執事が入ってきた。
「お嬢様、リズ様がお越しに
なりました」

イザベラは驚き、
「ここに?」と問い返した。

「はい、急な訪問ですが、
ぜひお会いしたいとの
ことです」と執事が答えた。

「分かったわ、
通してちょうだい」
とイザベラは冷静さを
取り戻し、リズを迎える
準備をした。

数分後、
リズが部屋に入ってきた。
彼女はいつものように
明るい笑顔を浮かべていた。

「イザベラ、久しぶりね」
とリズはにこやかに挨拶した。

「リズ、あなたがここに来る
なんて思ってもみなかったわ」
とイザベラは微笑んで応えたが、
その笑顔には冷たいものが
含まれていた。

「突然の訪問でごめんなさい。
でも、どうしても話したいこと
があって」とリズは椅子に座り、
イザベラの顔を見つめた。

「話したいこと?」
イザベラは少し警戒しながら
尋ねた。

「そう、私と皇太子の婚約に
ついてよ」とリズは真剣な
表情で言った。

イザベラの心臓が一瞬止まり、
「それがどうしたの?」
と冷たく答えた。

「イザベラ、
あなたには理解して
もらいたいの。
私が皇太子妃になることが
決まったけれど、私たちの友情は
変わらないわ」とリズは穏やかに
語った。

「友情…」
イザベラは苦笑し、
「あなたが皇太子妃になることで、
私たちの立場は大きく変わるわ。
それを理解しているの?」
と問いかけた。

リズは真剣な表情で頷き、
「もちろん。でも、
私はあなたを友人として
大切に思っているわ。
それが変わることはないのよ」

イザベラは少し考え込み、
「本当にそう思っているの?」
と再度確認した。

「ええ、イザベラ。
私はあなたとの友情を
大切にしたいの」
とリズは強く答えた。

イザベラはリズの言葉に
一瞬心を動かされたが、
すぐにその感情を押し殺し、
「分かったわ。
あなたの気持ちは理解した」
と冷静に返答した。

「ありがとう、イザベラ。
私たちがこれからも良い友人で
いられることを願っているわ」
とリズは微笑んだ。

イザベラも微笑み返したが、
その内心はまだ晴れない
ままだった。リズの訪問が
終わった後、彼女は深くため息を
つき、窓の外を見つめた。

「リズ…
あなたが皇太子妃になることを
喜ぶべきなのに、どうしても
心が晴れないわ」と独り言を
つぶやいた。

その後、イザベラは自室で一人、
リズとの対話を反芻しながら、
自分の気持ちと向き合っていた。
彼女の心にはまだリズへの
嫉妬と羨望が渦巻いていたが、
それをどうすることもできずに
悩んでいた。

「私はどうすればいいのかしら…」
と、イザベラはつぶやきながら、
自分の心の中で葛藤し続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...