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Omake Part 1
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突然現れた直人にさらわれる陽一を、遠目で見送っていた美沙達の顔には安堵の色が滲み出ていた。
「良かった」
美沙がその場に居る陸、夾、徳田の心の声を代弁する。
「じゃあ、私達はタクシーで追いかけましょうか?」
「美沙さん、それは無粋な気が・・」
「8年振りだもんな~」
「だな~」
陸の意見に夾と徳田が同意を示すが、美沙は未だ困った顔をした。
「そう・・なんだけどね。陽一君ったら、全部忘れて行っちゃったから」
美沙が陽一の荷物を皆に見せると、陸達もそれぞれの手にある陽一の鞄に目を向ける。
「確かに、そうだけど・・」
陸は頷きながらも渋い顔をして応えると、隣に立つ夾がポンと手を叩く。
「じゃあさ、家の玄関まで届けたらいいじゃん」
「中に入るのは気が引けるよな」
徳田が夾の思い付きに首を縦に振った。
直人が誰にも告げずに陽一を連れ去ったため、退院した陽一が美沙達から自分の荷物を受取る隙がなかった。美沙達は陽一の荷物を自宅まで届けたかったのだが、8年振りに寄りを戻した二人の邪魔もしたくなかった。
「玄関に荷物を置くのが一番なんだけど、陽一君ってば携帯もお財布も持っていないと思う」
美沙は陽一の小さなショルダーバックを持ち上げ陸達に見せると、全員額に手を当て宙を仰いだ。
「陽一らしい。死に掛けても全く変わってねぇ、アハハハ」
「だな~ じゃあ二人の邪魔しに行くか」
「なら早い方がいいな。真っ最中だと流石に悪いからな」
「・・・・やだ」
徳田の言葉に美沙が顔を赤くする。
「あっ美沙さん、タクシー」
陸は、前を通り過ぎたタクシーを追いかけ小走りになると、他の皆も彼の後に続き無事タクシーに乗り込み陽一の家に向った。
沢山のキスに酔いしれた陽一と直人は、病院に残した美沙達に荷物を預けたままでいる事など頭の片隅にも無かった。
「直、俺すごく嬉しい、でも ・・これから君に迷惑を掛ける事になると思うと・・」
話を続けようとする陽一の口を直人は人差し指で塞ぐ。
「陽さんの力になれることを迷惑とは言いません」
「直、ありがとう」
また薄っすらと目に涙を溜めそうになる陽一の唇を直人は奪った。
「愛してます。またこうしてキスが出来るなんて ・・本当に幸せ」
「俺も ・・生きていて良かったって心から思う。直、愛してる」
陽一と直人は深く見つめ合うと、全身の血流が良くなり互いが引き寄せられる。
「ゴホン ・・え~と、結城社長、お取込み中申し訳ありませんが、ご自宅に到着しました」
運転手の鮫島の存在を脳から消し去っていた陽一と直人は、紅色に染まると額を合わせて笑い合った。
「鮫島さん、気を遣わせて、スミマセン」
陽一が後方から運転席に声を掛けた。
「とんでもありません。社長、良かったですね。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
隠しようのない程の大きな照れに、陽一は鼻の頭を人差し指で掻く。
「直、俺の家に着いたみたい ・・ヘヘヘ」
「あ、そうみたいですね」
直人は車椅子に乗せたままで陽一を車から降ろすと、陽一宅の玄関へ近づいた。
「直が俺の家に来るなんて夢みたいだよ」
「陽さん、僕も同じ事を考えてました ・・でも実は、あの・・」
「どうしたの?」
「実は、美沙さんから陽さんの身体の事を聞いて僕、陽さんの身の回りの世話やリハビリのお手伝いをするために、自分の荷物を纏めて鮫島さんに、貴方の家に運ぶのを手伝って貰ったんです」
「え? そうだったんだ」
「うん。だから今日が初めてじゃなくて」
「そっか。色々と準備をしてくれたんだ ・・ありがとう」
「家政婦の蒔田さんが、2階の空いてる部屋を使って良いって言ってくれて、荷物はそこに置かせて貰いました」
「蒔田さんが ・・じゃあ俺が直人を紹介する必要があるのは子供達だけだね」
「あ・・はい。それから、陽さんの部屋2階だったのを1階の客間に移動して、トイレやバスルームも車椅子が入るように改装しました。手すりを付けて貰ったりとか・・ 陽さんの了解も得ないで勝手にしちゃって、ごめんなさい」
「俺、そんな事まで全然考えてなかった」
陽一の身体を気遣い手足となってくれようと、陽一の知らない所で事前から努力してくれた直人に対して熱いものが込み上げて来ると、陽一は車椅子を押す直人に振り返り、ハンドルを持つ彼の手に自身の手を添える。
「直 ・・本当にありがとう」
「陽さん・・」
直人は自身を見上げる陽一にキスをした。
「ゴッホン。あ・・あのぉ、結城社長」
先に車を降りると家の玄関を開けて二人の元に戻ってきた鮫島が声を掛ける。
「鮫島さん」
「社長のお荷物をお預かりするのを忘れてしまったようです」
「あっ!」
直人がハッとした様子で声を上げると、彼の前に座る陽一がクスクスと小さく笑う。
「美沙様とご友人も病院に置き去りにしてしまいましたので、私今からお迎えに上がります」
「美沙ちゃんと陸達ならきっとタクシーでこちらに向ってると思いますよ」
「はぁ・・ では電話で確認してみます」
二人から離れ車に小走りで向かう鮫島を見送りながら、陽一と直人は陽一宅に足を踏み入れた。
「陽さんの家すっごい素敵ですね」
「そうだね。美緒と俺の両親が建ててくれたんだよ」
「そうなんですか。陽さんが憧れてた一軒家に住めて良かったですね」
「そんな昔の話覚えてくれてたんだ ・・俺は直の家の方が居心地が良いけどね」
懐かしい思い出を抱きながら言葉にした陽一は、直人に微笑んだ。
「僕の家にも行きましょうね。陽さんに見て欲しい絵もあるから」
「うん」
直人は前に回ると目線を車椅子に座る陽一の高さに合わせ、彼を思い切り抱き締めた。
「陽さん・・ ああぁ、本物の陽さんだ。ゆ・・めじゃない」
直人はこの瞬間までズッと張っていた緊張の糸が切れたように泣き出した。
「直・・」
「陽さんが死んじゃいそうになって ・・助かったと思ったら、僕の元に帰ってくれなくて、もう本当に一生貴方に会えないとおもった・・怖かった。目の前が真っ暗になって、もう生きて行ける気がしなかった。貴方を想うだけで満足してたハズなのに・・いつの間にか貪欲な人間になっていて ・・陽さんが欲しいって ・・だからこの温もりをもう絶対に離したくない・・」
「直・・ 直・・ 迷惑を掛けたくないなんて思ってごめんね。俺ももう直を離さない。これからきっと沢山世話になると思う。どうぞよろしくお願いします」
「は・・い、はい、陽さん ・・任せてください」
直人は回していた腕をほどき、陽一にキスをすると二人は熱く見つめ合う。
陽一と直人が8年振りに唇を重ね、昂った欲情が二人を包み込んだ時、美沙達が陽一宅に到着していた。
「鮫島さん」
「あ、美沙様、皆様もご無事で良かったです。置いて行ってしまい申し訳ありません」
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
「二人は? もう家に?」
「あ・・はい」
鮫島が少し躊躇った様子で応えたため、皆には状況がつかめた。
「やっぱり・・8年振りだからな」
「はぁ・・」
「パッとドアを開けて、サッと荷物を置くか」
「ハハハ、それいいな」
「じゃあ、そうしましょう」
「美沙さんまで。でも既に玄関でアンナ事になってたりして! ハハ」
「陸・・陽一なら有り得るか、ハハハ」
玄関先で井戸端会議を始めた美沙達は、彼等に近づいて来る人影に気付いていなかった。
「何やってるんだ?」
「荷物持って来てくれたんですね」
「うぉ~ ビックリした」
陸達は、只今取り込み中だと思い込んでいた陽一と直人に声を掛けられ、変な想像と気遣いに苦笑いをする。
「何こそこそ話してるの? 家に入ってくればいいのに」
「え? あ、いや・・その~」
「陽一の荷物持って来たけど中に入るのをさ、ちょっと躊躇してただけ」
「どうして?」
陽一と直人には陸達の話の主旨が見えなかった。
「とにかく、はい!」
美沙は陽一の鞄を直人に渡す。
「橘先生、陽一君の事をよろしくお願しますね」
「はい」
「それにしても、こうなる事をせめて私には教えて欲しかったわ」
「え? あ、ごめんなさい。美沙さんなら、電話で話した時点で僕がこうするって分かってるって思ってて」
「え?」
「へ? 僕が陽さんを見捨てるなんて有得ないって知ってたから、連絡くれたんですよね?」
「そ、そうよね・・ もちろん、橘先生の事を信じてたわよ」
「何? 何? もしかして、最近、美沙さんの機嫌が悪かったのって、橘のせい?」
「橘だったら、陽一がどんな風になっても離れないでしょ」
「だよなぁ~」
美沙は陽一に対する直人の愛を再確認すると、少しでも不信感を抱いた事に反省する。
「皆、心配を掛けて本当にごめんなさい。それから気遣ってくれてありがとう。直が傍に居てくれると決心してくれて心強いし、俺は幸せ者です。でも、皆の力も必要な時があると思う。どうかこれからも俺達二人の事をよろしくお願いします」
陽一の隣に立つ直人と共に美沙達に頭を下げた。
「任せとけ」
「結婚式での挨拶みたいじゃん」
「だなぁ」
「先輩、結婚式だなんて!」
顔を真っ赤にさせた直人に流し目をおくられた陽一も釣られて頬を染める。
「もう、妬けちゃうくらい仲が良いんだから!」
美沙も照れながら応えると、その場に居た全員から微笑みが零れた。
冬の到来で肌寒くなった空気が、陽一の周辺だけ少し暖められた気がした。
「良かった」
美沙がその場に居る陸、夾、徳田の心の声を代弁する。
「じゃあ、私達はタクシーで追いかけましょうか?」
「美沙さん、それは無粋な気が・・」
「8年振りだもんな~」
「だな~」
陸の意見に夾と徳田が同意を示すが、美沙は未だ困った顔をした。
「そう・・なんだけどね。陽一君ったら、全部忘れて行っちゃったから」
美沙が陽一の荷物を皆に見せると、陸達もそれぞれの手にある陽一の鞄に目を向ける。
「確かに、そうだけど・・」
陸は頷きながらも渋い顔をして応えると、隣に立つ夾がポンと手を叩く。
「じゃあさ、家の玄関まで届けたらいいじゃん」
「中に入るのは気が引けるよな」
徳田が夾の思い付きに首を縦に振った。
直人が誰にも告げずに陽一を連れ去ったため、退院した陽一が美沙達から自分の荷物を受取る隙がなかった。美沙達は陽一の荷物を自宅まで届けたかったのだが、8年振りに寄りを戻した二人の邪魔もしたくなかった。
「玄関に荷物を置くのが一番なんだけど、陽一君ってば携帯もお財布も持っていないと思う」
美沙は陽一の小さなショルダーバックを持ち上げ陸達に見せると、全員額に手を当て宙を仰いだ。
「陽一らしい。死に掛けても全く変わってねぇ、アハハハ」
「だな~ じゃあ二人の邪魔しに行くか」
「なら早い方がいいな。真っ最中だと流石に悪いからな」
「・・・・やだ」
徳田の言葉に美沙が顔を赤くする。
「あっ美沙さん、タクシー」
陸は、前を通り過ぎたタクシーを追いかけ小走りになると、他の皆も彼の後に続き無事タクシーに乗り込み陽一の家に向った。
沢山のキスに酔いしれた陽一と直人は、病院に残した美沙達に荷物を預けたままでいる事など頭の片隅にも無かった。
「直、俺すごく嬉しい、でも ・・これから君に迷惑を掛ける事になると思うと・・」
話を続けようとする陽一の口を直人は人差し指で塞ぐ。
「陽さんの力になれることを迷惑とは言いません」
「直、ありがとう」
また薄っすらと目に涙を溜めそうになる陽一の唇を直人は奪った。
「愛してます。またこうしてキスが出来るなんて ・・本当に幸せ」
「俺も ・・生きていて良かったって心から思う。直、愛してる」
陽一と直人は深く見つめ合うと、全身の血流が良くなり互いが引き寄せられる。
「ゴホン ・・え~と、結城社長、お取込み中申し訳ありませんが、ご自宅に到着しました」
運転手の鮫島の存在を脳から消し去っていた陽一と直人は、紅色に染まると額を合わせて笑い合った。
「鮫島さん、気を遣わせて、スミマセン」
陽一が後方から運転席に声を掛けた。
「とんでもありません。社長、良かったですね。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
隠しようのない程の大きな照れに、陽一は鼻の頭を人差し指で掻く。
「直、俺の家に着いたみたい ・・ヘヘヘ」
「あ、そうみたいですね」
直人は車椅子に乗せたままで陽一を車から降ろすと、陽一宅の玄関へ近づいた。
「直が俺の家に来るなんて夢みたいだよ」
「陽さん、僕も同じ事を考えてました ・・でも実は、あの・・」
「どうしたの?」
「実は、美沙さんから陽さんの身体の事を聞いて僕、陽さんの身の回りの世話やリハビリのお手伝いをするために、自分の荷物を纏めて鮫島さんに、貴方の家に運ぶのを手伝って貰ったんです」
「え? そうだったんだ」
「うん。だから今日が初めてじゃなくて」
「そっか。色々と準備をしてくれたんだ ・・ありがとう」
「家政婦の蒔田さんが、2階の空いてる部屋を使って良いって言ってくれて、荷物はそこに置かせて貰いました」
「蒔田さんが ・・じゃあ俺が直人を紹介する必要があるのは子供達だけだね」
「あ・・はい。それから、陽さんの部屋2階だったのを1階の客間に移動して、トイレやバスルームも車椅子が入るように改装しました。手すりを付けて貰ったりとか・・ 陽さんの了解も得ないで勝手にしちゃって、ごめんなさい」
「俺、そんな事まで全然考えてなかった」
陽一の身体を気遣い手足となってくれようと、陽一の知らない所で事前から努力してくれた直人に対して熱いものが込み上げて来ると、陽一は車椅子を押す直人に振り返り、ハンドルを持つ彼の手に自身の手を添える。
「直 ・・本当にありがとう」
「陽さん・・」
直人は自身を見上げる陽一にキスをした。
「ゴッホン。あ・・あのぉ、結城社長」
先に車を降りると家の玄関を開けて二人の元に戻ってきた鮫島が声を掛ける。
「鮫島さん」
「社長のお荷物をお預かりするのを忘れてしまったようです」
「あっ!」
直人がハッとした様子で声を上げると、彼の前に座る陽一がクスクスと小さく笑う。
「美沙様とご友人も病院に置き去りにしてしまいましたので、私今からお迎えに上がります」
「美沙ちゃんと陸達ならきっとタクシーでこちらに向ってると思いますよ」
「はぁ・・ では電話で確認してみます」
二人から離れ車に小走りで向かう鮫島を見送りながら、陽一と直人は陽一宅に足を踏み入れた。
「陽さんの家すっごい素敵ですね」
「そうだね。美緒と俺の両親が建ててくれたんだよ」
「そうなんですか。陽さんが憧れてた一軒家に住めて良かったですね」
「そんな昔の話覚えてくれてたんだ ・・俺は直の家の方が居心地が良いけどね」
懐かしい思い出を抱きながら言葉にした陽一は、直人に微笑んだ。
「僕の家にも行きましょうね。陽さんに見て欲しい絵もあるから」
「うん」
直人は前に回ると目線を車椅子に座る陽一の高さに合わせ、彼を思い切り抱き締めた。
「陽さん・・ ああぁ、本物の陽さんだ。ゆ・・めじゃない」
直人はこの瞬間までズッと張っていた緊張の糸が切れたように泣き出した。
「直・・」
「陽さんが死んじゃいそうになって ・・助かったと思ったら、僕の元に帰ってくれなくて、もう本当に一生貴方に会えないとおもった・・怖かった。目の前が真っ暗になって、もう生きて行ける気がしなかった。貴方を想うだけで満足してたハズなのに・・いつの間にか貪欲な人間になっていて ・・陽さんが欲しいって ・・だからこの温もりをもう絶対に離したくない・・」
「直・・ 直・・ 迷惑を掛けたくないなんて思ってごめんね。俺ももう直を離さない。これからきっと沢山世話になると思う。どうぞよろしくお願いします」
「は・・い、はい、陽さん ・・任せてください」
直人は回していた腕をほどき、陽一にキスをすると二人は熱く見つめ合う。
陽一と直人が8年振りに唇を重ね、昂った欲情が二人を包み込んだ時、美沙達が陽一宅に到着していた。
「鮫島さん」
「あ、美沙様、皆様もご無事で良かったです。置いて行ってしまい申し訳ありません」
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
「二人は? もう家に?」
「あ・・はい」
鮫島が少し躊躇った様子で応えたため、皆には状況がつかめた。
「やっぱり・・8年振りだからな」
「はぁ・・」
「パッとドアを開けて、サッと荷物を置くか」
「ハハハ、それいいな」
「じゃあ、そうしましょう」
「美沙さんまで。でも既に玄関でアンナ事になってたりして! ハハ」
「陸・・陽一なら有り得るか、ハハハ」
玄関先で井戸端会議を始めた美沙達は、彼等に近づいて来る人影に気付いていなかった。
「何やってるんだ?」
「荷物持って来てくれたんですね」
「うぉ~ ビックリした」
陸達は、只今取り込み中だと思い込んでいた陽一と直人に声を掛けられ、変な想像と気遣いに苦笑いをする。
「何こそこそ話してるの? 家に入ってくればいいのに」
「え? あ、いや・・その~」
「陽一の荷物持って来たけど中に入るのをさ、ちょっと躊躇してただけ」
「どうして?」
陽一と直人には陸達の話の主旨が見えなかった。
「とにかく、はい!」
美沙は陽一の鞄を直人に渡す。
「橘先生、陽一君の事をよろしくお願しますね」
「はい」
「それにしても、こうなる事をせめて私には教えて欲しかったわ」
「え? あ、ごめんなさい。美沙さんなら、電話で話した時点で僕がこうするって分かってるって思ってて」
「え?」
「へ? 僕が陽さんを見捨てるなんて有得ないって知ってたから、連絡くれたんですよね?」
「そ、そうよね・・ もちろん、橘先生の事を信じてたわよ」
「何? 何? もしかして、最近、美沙さんの機嫌が悪かったのって、橘のせい?」
「橘だったら、陽一がどんな風になっても離れないでしょ」
「だよなぁ~」
美沙は陽一に対する直人の愛を再確認すると、少しでも不信感を抱いた事に反省する。
「皆、心配を掛けて本当にごめんなさい。それから気遣ってくれてありがとう。直が傍に居てくれると決心してくれて心強いし、俺は幸せ者です。でも、皆の力も必要な時があると思う。どうかこれからも俺達二人の事をよろしくお願いします」
陽一の隣に立つ直人と共に美沙達に頭を下げた。
「任せとけ」
「結婚式での挨拶みたいじゃん」
「だなぁ」
「先輩、結婚式だなんて!」
顔を真っ赤にさせた直人に流し目をおくられた陽一も釣られて頬を染める。
「もう、妬けちゃうくらい仲が良いんだから!」
美沙も照れながら応えると、その場に居た全員から微笑みが零れた。
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