31 / 43
2度目の危機
しおりを挟む
レイラが次に目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。
起き上がると周囲に人はいなかった。
簡素だが質のいいベッドと調度品がそろえられており、窓の一部にはステンドグラスが使われている。
おそらく教会の一室だろう。
西の森の瘴気の穴の浄化に協力して、気絶したのだ。
レイラは馬車の中で感じた違和感を確認するために、自分の手をしげしげと見た。
いつも爪を短めに切りそろえているのだが、やはり薄っすら伸びている気がする。
聖女の癒しの力を多く使ったからか、ラディスと離れているからかはわからない。
代謝は成長と老化の証拠だ。
レイラは自分の体の不安定さに、身震いをした。
若返ってラッキーと楽観的な考えをするには、レイラは年を取りすぎていた。
何があるかわからない。
力を使うときは、慎重にするに越したことはない。
レイラは立ち上がって廊下に向かう。
水が欲しい。あと食事も。
どれだけ眠っていたかはわからないが、お腹がすいたのを通り越して、反対に食欲がわかない状況まで言っている気がする。
レイラはぺったんこになったお腹をなでた。
絨毯張りになった廊下を歩いていると、人の声が聞こえてくる。
「まだあの女性は目覚めませんの?」
「えぇ、もう2日も眠ってますわ。西の森に同行した聖女のお付きでしょ? 癇癪を起して気絶したと聞いてるのだけど」
「そうなんですの。西の森に同行した神官から聞いたので間違いないですよ。馬車で震えて皆さんの手を煩わせたあげく、マヤ様が保護した子供を子供が嫌いだからって馬車でかくまうのを嫌がったり、あげくの果てにはマヤ様がしたことを自分がしたことのようにシス様に報告して関心を引いたそうなんです」
「まあ、聖女様にそんなことをした女を、どうしてシス様はかばっていらっしゃるの?」
マヤとレイラのしたことが逆転している。
「マヤ様は、あの女のきつい言葉に泣いていらしたそうです」
確かに、レイラがきつく言ったせいでマヤが泣いていたのは間違いない。
「それなのにマヤ様からは、よく見ておいて欲しいといわれておりますの。お優しい方ですわ」
「聖女のお力が目覚めたばかりですのに、立派ですわ」
「それに聞いた話なのですけど」
まだ続くらしい。
レイラは自分の状況を把握するために、廊下の角に隠れて、噂話を聞き続けることにした。
「なんでもあの女、魔族の元にいたらしくて、魔族と取引して、体を差し出す代わりに若い姿を得たそうなんです」
「えっ……」
「本当はしわしわの老婆らしいですわ」
「汚らわしい……そんな人の世話をするのは嫌だわ」
レイラはあきれを通り越して感心してしまった。
よくもまあ、あることないこと好き勝手言ってくれるものである。
シスが流したにしろ、マヤが流したにしろ、伝聞で聞いた真偽のわからない話をうのみにする人間ほど浅はかなものはない。
どちらにしても噂をただす気はない。
そんな労力をかけるくらいなら、ここから逃げ出すか立ち去るか、何とかしなくては。
ラディスの元に戻るにしても、どこに行けばいいかわからないし、ひとりでここを出たところで、ある程度この世界のことを把握した今では、レイラが一人で生きてたどり着けるとは思えない。
レイラはとりあえず、彼女たちに食事と水がもらえる場所を聞こう。
先ほどの話は聞いていないことにして、レイラは彼女たちの前に歩いていこうとする。
「目覚めたのですか?」
一歩を踏み出そうとしたところで、後ろからかけられた声に、レイラは振り返る。
「シス……」
レイラとシスがいることに気づいた二人の女性は、慌てた様子で立ち去っていく。
「体に異変はありませんか?」
「あ、うん。もう大丈夫みたい」
「突然いなくなったので、驚きました……あまり勝手に部屋から出ないでください」
「せっかく手を回して拉致してきたのに、逃げられたら聖女の力が使える人がいなくなって立場が危なくなるものね」
先ほど理不尽な噂話を聞いた腹いせにシスに嫌味を言う。
「……本当に嫌味な」
「嫌味なのはここにいる人達じゃない。憶測で人を殺そうとしたり、真偽のわからない噂話を広げたり、陰険過ぎて感心するわ」
シスは小さくため息をついた後、レイラを部屋に案内する。
「おかしな噂が立っていることは謝ります。身の安全のためにも部屋にいてください」
「魔族も人間も噂話は、大好きだよね」
レイラのいた世界も異世界も変わらない。
シスは何か言いたそうにしていたが、律儀にレイラを部屋まで送ってくれた。
「食事と飲み物を運ばせますので、部屋にいてください」
シスが出ていくと、かちゃりと鍵のかかる音がした。
「閉じ込められた」
レイラがベッドから離れた位置にあるテーブルに座るとすぐに、扉をノックする音がした。
「おぉ、早い」
のどが渇いていたレイラはすぐに扉を開けた。
そこで自分の浅慮を反省した。
ここは日本ではないし、日本であったとしても知らない場所で扉をホイホイと開けるのは危険な行為だ。
ずらりと並んだ神官たちの姿を見て、レイラは身の危険を感じる。
どう見ても食事を持ってきたようには見えない。
しかも先ほど女性たちが話していた噂が広まっているのだとしたら……。
「部屋を間違えてますよっ!」
レイラはそういいながら急いで扉を閉めようとする。
だが神官たちの動きは早く、レイラはあっけなく手首をつかまれて部屋から引きずりだされた。
「ちょっと! 離しなさい!」
レイラが思わず大きな声を出すと、神官たちはレイラの口を手でふさいだ。
「おとなしくしろ」
「ふぅぅっ!」
暴れようとするが、数人の男性に取り囲まれて手足を押さえられては何の抵抗もできない。
怖い!
食事を持ってくるか、シスがまた来てくれるかもしれない。
必死に冷静さを取り戻そうとしたが、打開策は思いつかず、誰も通りかかる様子はない。
レイラは絶望的な気持ちになりながら、廊下を引きずられていった。
起き上がると周囲に人はいなかった。
簡素だが質のいいベッドと調度品がそろえられており、窓の一部にはステンドグラスが使われている。
おそらく教会の一室だろう。
西の森の瘴気の穴の浄化に協力して、気絶したのだ。
レイラは馬車の中で感じた違和感を確認するために、自分の手をしげしげと見た。
いつも爪を短めに切りそろえているのだが、やはり薄っすら伸びている気がする。
聖女の癒しの力を多く使ったからか、ラディスと離れているからかはわからない。
代謝は成長と老化の証拠だ。
レイラは自分の体の不安定さに、身震いをした。
若返ってラッキーと楽観的な考えをするには、レイラは年を取りすぎていた。
何があるかわからない。
力を使うときは、慎重にするに越したことはない。
レイラは立ち上がって廊下に向かう。
水が欲しい。あと食事も。
どれだけ眠っていたかはわからないが、お腹がすいたのを通り越して、反対に食欲がわかない状況まで言っている気がする。
レイラはぺったんこになったお腹をなでた。
絨毯張りになった廊下を歩いていると、人の声が聞こえてくる。
「まだあの女性は目覚めませんの?」
「えぇ、もう2日も眠ってますわ。西の森に同行した聖女のお付きでしょ? 癇癪を起して気絶したと聞いてるのだけど」
「そうなんですの。西の森に同行した神官から聞いたので間違いないですよ。馬車で震えて皆さんの手を煩わせたあげく、マヤ様が保護した子供を子供が嫌いだからって馬車でかくまうのを嫌がったり、あげくの果てにはマヤ様がしたことを自分がしたことのようにシス様に報告して関心を引いたそうなんです」
「まあ、聖女様にそんなことをした女を、どうしてシス様はかばっていらっしゃるの?」
マヤとレイラのしたことが逆転している。
「マヤ様は、あの女のきつい言葉に泣いていらしたそうです」
確かに、レイラがきつく言ったせいでマヤが泣いていたのは間違いない。
「それなのにマヤ様からは、よく見ておいて欲しいといわれておりますの。お優しい方ですわ」
「聖女のお力が目覚めたばかりですのに、立派ですわ」
「それに聞いた話なのですけど」
まだ続くらしい。
レイラは自分の状況を把握するために、廊下の角に隠れて、噂話を聞き続けることにした。
「なんでもあの女、魔族の元にいたらしくて、魔族と取引して、体を差し出す代わりに若い姿を得たそうなんです」
「えっ……」
「本当はしわしわの老婆らしいですわ」
「汚らわしい……そんな人の世話をするのは嫌だわ」
レイラはあきれを通り越して感心してしまった。
よくもまあ、あることないこと好き勝手言ってくれるものである。
シスが流したにしろ、マヤが流したにしろ、伝聞で聞いた真偽のわからない話をうのみにする人間ほど浅はかなものはない。
どちらにしても噂をただす気はない。
そんな労力をかけるくらいなら、ここから逃げ出すか立ち去るか、何とかしなくては。
ラディスの元に戻るにしても、どこに行けばいいかわからないし、ひとりでここを出たところで、ある程度この世界のことを把握した今では、レイラが一人で生きてたどり着けるとは思えない。
レイラはとりあえず、彼女たちに食事と水がもらえる場所を聞こう。
先ほどの話は聞いていないことにして、レイラは彼女たちの前に歩いていこうとする。
「目覚めたのですか?」
一歩を踏み出そうとしたところで、後ろからかけられた声に、レイラは振り返る。
「シス……」
レイラとシスがいることに気づいた二人の女性は、慌てた様子で立ち去っていく。
「体に異変はありませんか?」
「あ、うん。もう大丈夫みたい」
「突然いなくなったので、驚きました……あまり勝手に部屋から出ないでください」
「せっかく手を回して拉致してきたのに、逃げられたら聖女の力が使える人がいなくなって立場が危なくなるものね」
先ほど理不尽な噂話を聞いた腹いせにシスに嫌味を言う。
「……本当に嫌味な」
「嫌味なのはここにいる人達じゃない。憶測で人を殺そうとしたり、真偽のわからない噂話を広げたり、陰険過ぎて感心するわ」
シスは小さくため息をついた後、レイラを部屋に案内する。
「おかしな噂が立っていることは謝ります。身の安全のためにも部屋にいてください」
「魔族も人間も噂話は、大好きだよね」
レイラのいた世界も異世界も変わらない。
シスは何か言いたそうにしていたが、律儀にレイラを部屋まで送ってくれた。
「食事と飲み物を運ばせますので、部屋にいてください」
シスが出ていくと、かちゃりと鍵のかかる音がした。
「閉じ込められた」
レイラがベッドから離れた位置にあるテーブルに座るとすぐに、扉をノックする音がした。
「おぉ、早い」
のどが渇いていたレイラはすぐに扉を開けた。
そこで自分の浅慮を反省した。
ここは日本ではないし、日本であったとしても知らない場所で扉をホイホイと開けるのは危険な行為だ。
ずらりと並んだ神官たちの姿を見て、レイラは身の危険を感じる。
どう見ても食事を持ってきたようには見えない。
しかも先ほど女性たちが話していた噂が広まっているのだとしたら……。
「部屋を間違えてますよっ!」
レイラはそういいながら急いで扉を閉めようとする。
だが神官たちの動きは早く、レイラはあっけなく手首をつかまれて部屋から引きずりだされた。
「ちょっと! 離しなさい!」
レイラが思わず大きな声を出すと、神官たちはレイラの口を手でふさいだ。
「おとなしくしろ」
「ふぅぅっ!」
暴れようとするが、数人の男性に取り囲まれて手足を押さえられては何の抵抗もできない。
怖い!
食事を持ってくるか、シスがまた来てくれるかもしれない。
必死に冷静さを取り戻そうとしたが、打開策は思いつかず、誰も通りかかる様子はない。
レイラは絶望的な気持ちになりながら、廊下を引きずられていった。
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる