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第7章 王国の騎士

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「そろそろ宜しいですか」

 そう言葉を挟んできたのは、少し離れた場所に居たリシュカさんだった。
 その隣りにはクオンも居る。あたしは慌ててシアから体を離した。

「なんだリシュカ、ここは空気を読むところだぞ」
「差し出がましいようですが陛下。これ以上のご無理はかえって醜態を晒すことになるかと一応の配慮を利かせたつもりですが」
「まったくお前の言うことはいちいち的を射ていて気に喰わん。すまんな、マオ。どうやらおれの体力の限界が近い。この後城にも戻らねばならんし」
「ううん、しっかり休んで」
「とりあえず今後の方針は城に戻ってからだな。マオも来るだろう?」

 言われてはっと思い出す。
 あたしには、目的地がある。
 このままシアとは一緒には行けない。

「ううん、城にはまだ戻らない。あたし、行きたい場所があるの」
「…行きたい場所?」

 あたしの返答にシアが途端に不機嫌顔になり、その青い瞳がじっとあたしを見据えた。

「北の海の、深層の祠って所に行きたいの」
「……なんだと?」

 その言葉に目の前に居たシアとリシュカさんの空気が変わる。
 それにひやりとしたものを感じながら、慌ててあたしは説明を続けた。

「トリティアがそこに行きたがってるの。あたし自身も行ってみたいし、行く価値はあると思う」
「あそこがどういう場所だか分かって言ってるのか?」
「…異世界に、繋がる場所だって」
「分かっているなら何故。いったんもとの世界に帰るというのか」

 言ったシアの顔はどこか傷ついた顔をしていて、あたしは胸が締め付けられた。
 シアが不安がるのも仕方ないし、あたしにはまだそこまでの信用は無いのかもしれない。

「異世界っていうのは、あたしが来た世界だけじゃない。神さまたちが居る世界でもあるって。トリティアが言うには、アズールのリュウについた神さまは、シェルスフィアに仕えていた神さまじゃない。シェルスフィアに居た神々は、もう人には仕えない。だから。力を借りれる、別の神さまが必要だと思う。あたし自身はまだトリティアを扱いきれないし、いずれはきっと、あたしから去って行ってしまう。だから…」
「反対だ。マオ、何を言っているのか分かっているのか? トリティアが例外と思え、神を従えるには必ず代償が居る。それが何であるかは相手が決める。もしも命や体を差し出せと言われたらどうする」
「でも、この国でこれから起こることを思えば、結果的に同じだよ」
「同じなものか! いざとなったらお前は自分の世界に帰れば良い! ここで死ぬことなど無いんだぞ」

 叫んだシアにびくりと肩を竦める。
 肩で息をしながら胸を押えるシアは明らかに苦痛で顔を歪めた。
 だけど、譲らない。
 口を挟んできたのはリシュカさんだった。

「この国の人間なら、良いでしょう。契約を交わすのがその娘である必要はありません。王家に信頼のある人間か、もしくは魔導師か。それまでの過程をこの娘に任せるのであれば、私は賛成です」
「…“それ”を先に反対していたのはお前だぞ、リシュカ」
「あの時とは状況が違います。“実証”はされてしまいました。今はもうなりふり構っていられないのも事実です。今我が国に必要なのは、アズールフェルに対抗し得る絶対的な神の力です」

 少し離れた先にいるリシュカさんを、シアは半ば睨むように呟く。
 リシュカさんは変わらず冷静だ。表情がいまいち読めない。

「本来、“神”と契約を交わせるのは王族だけ。それがシェルスフィア王族及び国民に根付いてきた認識です。ですがこの娘とそしてアズールフェルの魔導師…このふたりは王族ではない。にもかかわらず、契約を交わしてしまった」

 そうか、確かに以前シアはそんなことを言っていた。
 神をべるのは王族だけだと。

「そっか…なんであたし、契約できたんだろう…」

 それに、リュウもだ。共通点といえばふたりともこの世界の人間ではないということ。
 でもそれが理由になるのだろうか。

「ふん、簡単だ。それが、嘘だからだ」
「…嘘?」
「神を喚べるのは王族だけじゃなかったということだ。まぁ少なくとも先の王族達と契約を結んできた神々は代々受け継がれてきたものだから、血族にしか契約が継げないというのは真実だろうが。ただ、海にいる他の神々との契約に関しては、王族以外の才や資格ある者であれば契約可能だった。だが国はそれを制約する必要があった。神という絶対的な力を王族以外が持つことを許すわけにはいかなかったからだ。だから、永くそう認識付けてきたのだろう」
「もうこの国にジェイド様以外の王族は居ません。しかし有能で才ある魔導師は多くいます。先手を打つべきです。考えることは、あちらも同じでしょうから」
「は、だろうな。そもそも何故シエル自身が契約を交わしていないのか不思議なくらいだ。神というのは気まぐれだ。相性もあるのだろうな。だったらおれが行く。おれが新たな神を従えてみせる。それが当然だ」
「なりません。今ジェイド様に死なれてはこの国はどうなります。先ほどご自分でも仰っていたでしょう。もしも命や体を差し出せと言われたらどうするおつもりです」

 リシュカさんの言葉にシアの勢いが詰まる。
 それに国王であるシアが今城を空けるわけにも行かないだろう。


「でしたら私が行きます」

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