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第2章 眠れない騎士アランの憂鬱
8.白旗宣言とはじまりのキス_②
しおりを挟む我ながらそこそこの誘い文句だ。そしてこれが限界だ。
丸く見開かれたその瞳が、やがておかしそうに細められる。
「押し倒されたのは、初めてかも」
「……光栄ですわ」
「いいよ、それなら」
アランの手がゆっくりと、顔の横に置かれていたフェリーチェの腕を滑り、体の線をなぞり、やがて腰が引き寄せられる。
もう片方の手はいつの間にか頬に添えられて、近づいていくその瞳を見つめるしかできなかった。翳るその赤い色は、どこかで見た宝石のよう。
「オレがあげれる、たったひとつのものだから」
その口づけは、はじまりの合図そのもの。
――覚えのある台詞。
そうだ、ゲーム内で聞いた台詞だ。
もちろん相手はヒロインで、自分ではない。
何気ない台詞のはずなのに惹かれて反応してしまうのは、「アラン・ルーベルト」を攻略し、秘密を知り、彼を”選ばなかった時”の結末を、前世で知っているからかもしれない。
だけど今はきつく蓋をしておく。
何故だかひとつだけ分かるのは、おそらく“フェリーチェ”は、彼の秘密を知っていた。
だから一番最初の相手に彼を選んだのだろう。
触れた唇がゆっくりと離れて、もう一度触れたその時には、視界が反転していた。
ぐっと引き寄せられたかと思った次の瞬間には、背中に柔らかなベッドの感触。
今度は見下ろされている。先ほどまでとはどこか違う瞳に。
「なんて呼べばいい? 今だけ、そういうの必要でしょ?」
「な、なんて、ん、とは……?」
会話の途中なのに何度も唇が降ってきて、上手く返事もできない。
ぺろりと熱い舌で舐められて、時折吸われて。
アランはキスを重ねながらも器用に手を動かし、フェリーチェの服の境目を探るように撫でまわしていた。その感触にいちいち体が揺れてしまって、意識が散漫になる。
段々と深くなる口づけに呼吸が上手くできなくて、苦しさに涙が滲んだ。
それを舌先で舐めとりながら、アランは唇を触れ合わせたまま再び訊く。
「なんて呼ばれてる? なんて呼ばれたい? こういう時」
「わ、わかりません、ッ、好きな、ように……」
「いいの? じゃあ、そうする」
それからぬるりと口内にアランの舌が侵入する。びくりと大きく肩が揺れて、ぐっとアランの肩に置かれていた手に力がこもる。
だけど微塵も退かないどころか更に体が押し付けられてくる。
体重をかけながら脚の間に体を捻じ込まれ、咄嗟に閉じようとした脚は簡単に阻まれてしまった。
「リーチェ」
「……っ、ぁ……!」
呼ばれて、耳元で囁かれて、突然感じた濡れた感触に、思わず声が漏れた。
咄嗟に手で口元を押さえるも無意味でしかない。
そのまま耳たぶを食まれて、輪郭をなぞられて、熱を植え付けられていく。無意識に内腿を摺合せようとして、そこにアランの手があることにようやく気付いた。
「しっかり受け取って、オレの代わりに覚えておいてね」
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