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プロローグ

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 わたし達の舞台はいつも夜だった。

 はじまりも、終わりも、その続きも。
 それがすべてだ。

 だけどわたしは夜を愛していた。
 静かにそっと、すべてを包み込んでくれるその愛しい空間。
 苦痛と孤独と共であっても、同時に暗闇がすべてを閉ざして遠ざけて、わたしの弱さも狡さもすべて隠してくれる。

 …もしかしたら、すべて。
 お見通しだったのかもしれないけれど。
 それでも。
 わたしは夜を愛していた。
 

 ――月がとても、綺麗。
 こんな夜に終わるのなら、わたしの人生も悪くない。
 まぁまぁだった、それなりに。

 ひとりなのは覚悟していた。
 だけど最期くらいは苦しまないでいかせて欲しい。
 もう痛いのも苦しいのもイヤだから。
 だけど一番イヤなのは――



「――目が、覚めましたか」


 懐かしい声がした。
 もう来ないでと自ら突き放した、大事な人の声。
 彼が死神なら本望だ。例え向かう先が地獄でも。

 温かな雫がこめかみを伝う。
 それを優しく拭ってくれていた手は、もう失った過去だけれど。
 だから夢でも幻でも死神でも良い。
 あなたが、一緒なら――


「……貴女を、お待ちしていました。ずっと…ずっと」


 だけど目が覚めたそこは、わたしの知る世界ではなかった。


 ――その日。
 “表”ではすべての国民から歓迎され、愛と期待と希望を背負う聖女が誕生した、その夜。
 わたしはこの目の前のただひとりにのみ迎えられ、ひっそりと夜の聖女として召喚された。


 もう涙は流さない。
 はじまりの夜の幕開けだ。


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