夜伽聖女と呪われた王子たち

藤原いつか

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番外SS

夢物語の恋人たち (ゼノス×セレナ)

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Web拍手に掲載していたゼノス×セレナのいちゃらぶSS(希望)です。
時系列的に第九章の最後、ある意味での両想いになった後の我慢できなかった編です。
分量の関係で本編に繋げられなかったものでした。
本編とは異なるいっそ妄想的な物語として受け容れられる方のみドウゾ!
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 以前、取り寄せた資料に偶然紛れ込んだ巷で流行の恋愛小説を、好奇心から読んでみたことがあった。
 空想上の創造物だということは前提として理解しているつもりだった。でも。
 どんな描写も言葉も展開も、ゼノスの心はまったく動かなかった。白黒の文字に更に灰色の背景を添えるように、ただ義務的に頁をめくった。
 一度手をつけた本はどんなに自分に合わなくても最後まで読み切るのがゼノスの性分だ。
 読み終わる頃には砂のようにざらつく思いが胸に溢れて眠れなかった。

 所詮空想、夢物語だ。お伽噺よりも自分には程遠い。
 誰かを好きになることも、同じだけのものを返されることも。
 それこそ奇跡だ。自分の存在はその外に在る。

 それを再確認させられたようで、読んだことを後悔する。
 ほんの少しだけ揺れた心は、諦めの分だけ傾いただけだった。

 それでも自分は一国の王子だ。いずれ国の為に婚姻を迫られるだろう。
 王子という肩書がある限り拒むことは不可能だと分かっている。
 自分に唯一できるとすれば、肩書で国を繋げることくらいだ。そして王家の血を残すこと。

 だけど想像するだけでゼノスは身震いする。
 自分の血を、この呪われた血を。分けるなど。
 これ以上残すことなどあってはならない。これ以上犠牲は。

 責務もまともに果たせないこんな自分が、王位を継ぐことはないだろうし自分にその気もない。
 腹違いの兄たちがおそらく継ぐことになるだろう。やはり自分にとっては他人事なのだ。

 ゼノスはいずれ王籍を離脱しその権限をすべて王家に返上し独立するつもりだった。
 魔法と魔術の分野においてのみ、王族という肩書を置いてもそれなりの地位をゼノスは持っている。
 最悪研究職だけで自活の見込みは立てられる。今はその恩恵に依存しているが、ひとりになって死ぬのならその方がましだ。王位が譲位された後ならこの血にさほどの価値はない。
 心も通わない誰かにこの肌を見られ、国の為にその行為を強いられるのはもううんざりだった。

 王子としてこの国に、何か報いたいと思っていた。
 だけどその形はひとつではないと、いつからか思う自分が居た。

 はやくひとりになりたい。この城を出てどこか深い森にでもひっこんで、研究の成果はすべて国と民に捧げる。生きている限りは国に尽くす。恩返しとして。
 だからはやくこの身を解き放って欲しい。残りの人生は、長過ぎる。

 それでも何故か、人はうことをやめられないから不思議だ。
 どんなに自分には無理だと諦めた気になっていても、心の片隅にその切望は埋まっていた。
 
 好きになってもらわなくても良い。愛されなくても。
 それでもいつか、一度くらいは。だれかを好きになってみたい。
 叶わなくても報われなくても良い。自分にもそんな風に、人としての心があったのだと思えたなら。
 それをたったひとつの宝にして、苦痛にいつか骨を埋めよう。
 そう思って生きてきた。


 ――だから、今。
 それはまさしく夢のような展開で、空想と現実の狭間を彷徨うように、体も心も熱に浮かされていた。

 生まれて初めてだ。誰かに好きだと言ってもらえたのは。
 自分の想いを受け容れてもらえただけじゃない。自分と同じだけの想いでもない。それでも。
 返された想いに胸が押し潰されそうなくらいに嬉しくて堪らなかった。

 堪えきれずに泣き出したゼノスの赤い目元を、セレナの細い指先が拭う。
 それでも止まらないそれに、目の前で仕方なさそうに笑う彼女が愛しくて仕方なかった。
 
 抱き締めると同じだけの温もりを返される。これまで触れ合うことには躊躇いがちだったそれが、今はなんの抵抗もなく。素肌の肌が触れ合って、あっという間に熱がぶり返すのを感じた。
 どちらからともなく触れた唇はあっという間に深いものとなり、欲の火種になる。

 先を求めて体勢を変えようとしたゼノスの胸を、そっとセレナが押し戻して何かを訴える。
 僅かでも離れることが今は惜しい。唇の端を触れ合わせたままセレナの意思を問う。腕の中からセレナが遠慮がちに抵抗の理由を口にした。

「あの、ゼノス…さすがに、ここでこれ以上は、ちょっと…」
「…さっきも、したのに…?」
「でも、だって…ここはそういうことをする場では、ないでしょう…?」
「…そうですね。でも」

 セレナの抗議の内容はゼノスの欲情を押し留めるには歯牙にもかからない。
 もっと強い理由があっても止められない。きっと今の自分を止められるものは何もない。

「ここの管理者のひとりは、おれです。おれが許すので大丈夫ですよ」

 それは大丈夫とは言わない。セレナが上目使いに抗議するも、本気で拒んでいるようには見えないから思わず苦笑いを漏らす。
 誰よりも欲に翻弄されているはずなのに、どこか想像外のところで妥協できない理性を見せる。
 生まれた世界の違い故だろうか。今は焦らされているようにしか思えなくて、一刻もはやくいれたいのに。
 それでもその気持ちを無視して推し進めることは、ゼノスにはできなかった。

「…わかりました、じゃあ…触れるだけ。おれからはそれ以上は、何もしませんから…」

 囁くように言って、セレナの頬やこめかみに唇を寄せる。
 それならいいよ、と小さく答えて。くすぐったそうに緩い愛撫を受けるセレナに目を細めた。

 無自覚なのか本当に解っていないのか。触れられて困るのは、セレナの方だろうに。
 それを指摘することはせず、戯れのような愛撫をゼノスは続けた。
 鼻先、唇の端、耳の裏から内側まで。唇で触れて時折舌先で濡らして確かめる。

「…ぁ、ん」

 ぴくりと、小さな体が反応する。そこに蠢く痣を確認して、先の会話を思い出した。
 自分からセレナに移った呪いの痣。それは自分の時と同様に体の欲情を引きずり出す。
 
 かつて自分の体にあったものだ。ふとその様に、セレナと会った時の記憶が甦った。
 生まれ持ったこの痣故の己の醜さに嫌悪を隠せなかった自分に、出会ったばかりだったセレナが言った言葉。

 ――『もう少しだけ…きっとあと少しだから。それまでは一緒に居てあげて。そうしたらきっと、愛しくなるよ』

 あの時からもう既に、セレナは自分の痣をその身に受け容れる覚悟を決めていたのだろうか。
 あれから痣を疎ましく思う気持ちは拭えずとも、セレナとの繋がりだと思えば手離すことすら惜しむ自分が確かに居た。
 呪いを、繋がりと。いつの間にかそう思わせてくれたのは、セレナが居てこそだ。

 白い肌を蠢く痣は、まっすぐゼノスの触れた部分へと擦り寄ってくる。
 ゼノスはその分かるすべてに唇を寄せて小さく吸い上げた。赤い痕がぴったりと重なる。
 セレナがぴくぴくと体を揺らして顔を赤らめ、その刺激と羞恥に身を竦めた。

「ふ、ぁ…」
「…かわいい、ですね。そんな反応は、初めてな気がします」

 鼻先を掠めるセレナの甘い声にゼノスは思わず零す。
 これまで幾度か体を重ねてきたけれど、セレナのこんなに素直な反応は初めてだ。
 かわいい。食べてしまいたい。
 小さく歯をたてる。セレナがもう一度鳴く。

 赤い痕がセレナの体に咲いて散る。ゼノスはその後を追って、自分の痕をただ募らせていった。

 やがてその内のいくつかが、喉元を通って鎖骨に下り、柔らかな肌を滑って胸のふくらみに到達する。
 その頂に触れることを、セレナは拒否しなかった。
 夜の闇に浮かぶ白い肌に、自分の証を刻む優越にゼノスは震える。同時に目に余るセレナの胸元の刻印が忌々しくさえ思えた。だけど不用意に触れることは避け、今は目の前のセレナの付き出す欲情に耽る。

 ぴんと張り詰めたその可憐な胸の頂を、ちろり、とゼノスの舌先が濡らした。
 セレナの熱い視線が何かを求めているのが解る。だけどあえて触れずにその輪郭を舌先でただなぞった。
 両方のそれを両手でそっと持ち上げ包み、手の中でその感触を堪能しながら、舐めて濡らすだけの愛撫にセレナは声を堪える。セレナの内側の欲望と理性の葛藤が手に取るように分かる。それは取り繕うことも叶わない本能だ。

 視界の隅でセレナがその内腿を擦り合わせるのが見えた。自分はもうとっくに張り詰めている。
 だけど幸福に浸りながら及ぶ行為はそれまでとはどこか違い、不思議な安堵と余裕がゼノスの中にはあった。

「っ、ぁ…、ゼノス…」

 甘く自分の名前を呼ばれる度に、じんと腰が痺れる。もっと呼んで欲しいのにそれを伝えられない。応える代わりに口の中で張り詰めたその頂きを、吸い上げる。
 押し殺しきれない甘い声がゼノスに縋りついた。本当に今日は感度も反応も良過ぎていちいち煽られて、気を抜くとすぐに理性が持っていかれそうになる。

 ふとセレナの手が、いつの間にかゼノスの肌触れていた。ゼノスの褐色のその肌を撫でて確かめて、やがて自分の腕に絡みついてくる。
 セレナの双丘の柔らかさを堪能していたゼノスの手をとって、セレナがそのままゼノスの手を自分の肌に滑らせて――自ら導いたその行為に、思わずゼノスは目を瞠った。なにを、と言葉にはできずに。ただセレナの望みのままに。

 セレナが徐に腰を上げて、躊躇いがちに脚を開いて、ゼノスの腕を導く為の隙間を作って。そこから溺れる欲を滴らせていた。その光景に思わずゼノスは動きを止めてごくりと唾を呑む。

 普段からは想像もつかないその行為に驚いて顔を上げると、涙目のセレナの視線とぶつかった。
 荒い息を押し殺したまま顔を赤くして涙を滲ませて。セレナが震えながらゼノスにそれを強請る。
 その煽情的さに眩暈すらした。

「ごめん、ゼノス…やっぱり、触ってほしい…」
「セレナ…」
「して、欲しい…触って、ゼノス…」

 セレナの手に押し付けられるように。くちゅりと水音がゼノスの指先に触れて纏わりつく。
 ああ、と。漏らしたのはどちらだったか。
 そのままその内側に指を沈めたのはゼノスの意志。待ち望んだ快楽に落ちていったのはセレナの方が先だった。

 初めてセレナから求められる歓喜に震えるゼノスに、もう理性は必要なかった。

 細い腰を引き寄せて掴んで固定して、沈めた指の数を増やす。
 とろとろとすぐに押し出されるのは自分の放った欲の果てとセレナの愛液。
 震える腰を差し出して、快楽を求めるセレナにゼノスは応える。
 いつの間にか合わせた唇からは互いの唾液が溢れて零れて呑みきれないほどだった。
 
 水音をたてて出し入れされるゼノスの指を、セレナの内側は喜んで受け容れて絡みつく。
 それから弱い部分を擦る度に上げるセレナの嬌声を呑み干しながら、ゼノスは自分の指が更に奥へと呑みこまれて行くのを感じた。その快楽を知る下腹部が痛くて堪らない。
 一度仰け反ったその喉元を甘噛みして、傾くセレナの体をゼノスが抱きとめる。

 ゼノスはそっとその体を床に横たえ体勢と向きを変える。
 達して力の入らないセレナの腰を抱き上げ膝をたて、濡れそぼる入り口に後ろから自分のものを宛がった。
 触れただけで、セレナはひくりと反応し腰を揺らす。まるで自らゼノスのものを咥えこむように。
 
「…ッ、セレ、ナ…っ」

 その光景に、ゼノスは。奥歯を噛む。あまりにも刺激が強過ぎて。
 ただ呑み込まれていく快楽に身を任せ、その最奥まで自らを突き立てた。
 ぐちりと漏れた音がふたりを繋ぐ。更にその先を求めてゼノスは腰を押し付ける。

「っ、あぁ…っ」
「は、あ、あぁ…すごい、ですね、…なか…」

 その快楽になんとか耐えながら、ゼノスは薄く笑って囁いていた。
 自分に絡みつくセレナの内側。温かな肉の壁が自分をきつく締め上げる。まるで離す気配がない。
 おそらくまた達したセレナのなかがうねって、自分の精を搾り取ろうとしている。
 既に何度か吐精した後でなければきっともたなかった。とても耐えられなかった。その瞬間に果てていただろう。

「どうしたんですか、セレナ…いつもより、ずっと…」

 積極的ですね、とその耳元で。身を屈めて囁きながら、それでも腰を揺らすことを忘れない。
 ゆるゆると緩い抽送にセレナの腰も再び揺れる。堪えることを忘れて喘ぐ声が耳に心地よい。
 その腰を片手で抑えて動けないよう固定し、もう片方の手は床についていたセレナの手に重ねた。
 動きを制限されたセレナが頭だけで振り返り、頬を寄せるゼノスを涙目で睨む。それにゼノスは微笑んで返した。

「…なんで、いじわる…」
「…すいません、つい、かわいくて」
「…ゼノス、の…おっきいよ…?」

 暗に動かない自分を責められて、ゼノスは堪えきれずに小さく笑ってその目元や頬に唇を寄せた。
 いつもどこか一線を引いてきた彼女のそれまでと今回はどこか違う。
 そう可愛らしく強請られては自分の身がもたない。まだ浸っていたいのに。

「そうですね、すごく…気持ち良くて…イってしま前に、セレナにもたくさん、感じてもらおうと思って」

 言いながら、ずるりと。寸でのところまで引き抜いたそれを、再び押し込む。うねる内側を押し広げながら。

「…っ、ぁ…!」

 肌のぶつかる音と水の弾ける音に、セレナの悲鳴も混じって爆ぜる。
 重なった手を握り返すその指が自分の手に食い込んだ。その痛みすら愛おしい。

 腰を掴んで抉るように押し込めば、セレナはまたその身体を悦びに震わせる。
 だけど分かり易く物足りなさがゼノスのものに絡みついていた。
 欲しいと言葉にはしないのに、体だけは素直にその先を強請っている。

「ぁ、やぁ…っ、ゼノス…!」
「ちゃんと、言ってくれないと…分からないですよ、セレナ…」
 
 無意識に心と体のどこかで嵌められていた箍が、いつもより容易く外され暴かれていく様にゼノスはまたわらう。

 拒まれることなく、ただ求められる。自分だけの想いだけでなく、相手の意志で。
 それはなんて幸福なことだろう。

 胸の奥が痺れるように疼いた。
 愛も欲もその延長線で良い。
 自分はもうずっとこうして。
 ただ誰かに求められたかったのだ。

 だけど今は、誰かでは駄目なのだ。
 その相手は、もう。
 たったひとりじゃなければ意味がないのだ。

「…す、き」

 幸福を噛み締めるゼノスの意識を引き戻すように、セレナからのその言葉が耳に届く。

 セレナから強請るその言葉をもっと聞きたくて、恥ずかしがる顔がもっと見たくて。それだけで良かったのに。
 欲と熱に浮かされるセレナから返されたのは、ゼノスの予想していなかった言葉だった。
 思わず体を起こしてセレナを見つめる。
 浅い呼吸で片手だけをついて身を起こしたセレナが、もう片方の手を自分の臀部にまわしてその肉を押し広げた。まるでゼノスに見せつけるように。

「好き、ゼノス…」
「……セレナ…?」
「おねがい、もっと…」
「……っ」
「ゼノス、の…で…いっぱいに、して」


 頭の血が、沸騰するかと、思った。
 ずくんと腰を突き抜けたそれに、セレナの内側に沈めた自分の熱量が固く膨れる。

 ぷつりとどこかで糸が切れたような錯覚の中、今度こそ両手でその細い腰を掴んで、獣染みた余裕の無さで腰を打ち付けた。
 ふたりの汗が飛び散って繋がったそこからも水が撥ねて。濡れる、体のあちこち全部。

 セレナの頬にまわした手で後ろを向かせて舌を引きずり出すと、またその内側が震えあがる。
 求めるように口外でも絡む舌はただ甘く痺れて快楽の味がした。貪るほどに堕ちていく。

 あぁ、もう。言葉にはできず固く目を瞑る。
 セレナを待って耐えようと歯を食いしばるも、さっきからもうずっとその内側は小さく引き攣ったまま。
 終わりが近いことを物語っていた。

「セレナ、もう一度」
「ん、ぁ、あぁ…っ」
「もう一度だけ、言って」

 その身体を強く抱き締めたまま、今度は強請るのは自分の番だった。
 ずるりともう限界寸前の自身を引き抜きセレナの身体をひっくり返す。
 されるがまま仰向けになったセレナは、覆い被さるゼノスに腕を伸ばしてその首元に絡んで頬を寄せた。
 触れているだけでもまたこんなに、溺れてしまうのに。

 両脚を開いて体を押し込んで、再びセレナの中に押し入る。
 セレナが涙を零しながら何度目かの絶頂に戦慄く様を見届けてから、ゼノスはその唇にかぶりついてまた腰を振った。

 角度を変えて、舌を絡めて吸って、もう何も考えられなくなる。
 それでもゼノスはセレナにそれを求めた。
 求めても良いと知ったから。拒まれないことをもう、知ってしまったから。

「言って、セレナ。おれのこと…」
「ゼ、ノ…」
「好きです、セレナ…」
「ぁ、んん…!」
「愛してる……言って、セレナ」
「……わたし、も…」

 ゼノスの切望に呼応するように、体は高みへと押し上げられ互いを煽る。
 この瞬間が、一番。幸せで虚しい。求めずにはいられない最果てと、永遠を願う快楽の渦中。
 それでももう終わりを恐れることは何もなかった。


 ――あいしてる。


 それだけを聞き届けてゼノスは、その一番深いところですべてを吐き出した。


 もしかしたらその言葉を聞くことはもう叶わないかもしれない。
 セレナが自分に応えてくれたのは、その手前の気持ちだ。
 自分のそれとは比べようもないほど温度差がある。

 だけど、例え情事の最中の熱に浮かされた睦言でも、それは確かに自分に向けられたもの。
 そこに確かにあったなら、どんな手を使ってでも。
 もう一度聞きたい。また引き出せるはず。

 望むことに躊躇うことはもうやめた。
 求めることに負い目や引け目を感じることも。
 
 望んでいる。求めている。
 それが本心だ。
 自分の、未来だ。


 ――愛している。
 もう一度呟いてゼノスは瞼を閉じた。
 意識の沈んだセレナをきつく抱き締めたまま。


 これしか欲しくない。
 ほかには何も要らない。
 
 誰にも渡せない。
 ぜったいに、渡さない。


 ようやく訪れた夜明け。
 世界が動き出す予感がした。


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